万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

相互理解は万能薬?

2007年07月19日 17時45分41秒 | 国際政治
 国家間あるいは宗教や民族間において争いが起こるたびに、マスメディアでは、相互理解こそが万能薬である、と叫ばれています。しかしながら、この万能薬、いくら飲んでも効かない場合もあるのです。

 文化や風習の違いは、比較的簡単に相互理解で解決することができます。お互いに誤解が解けて、仲良くなることもできます。しかしながら、相互の違いが価値観にある場合には、万能薬のはずの相互理解は、途端に効き目がなくなるのです。例えば、自由や民主主義を尊ぶ国の国民が、暴力主義や全体主義の国を理解したとしても、それは友好関係の礎とはなりません。むしろ、相手方に、恐怖と嫌悪を覚えることでしょう。暴虐なヒトラーやスターリンと仲良くすることは不可能です。また、宗教にあっても、相手方の宗教が、異教徒に殺害してもよい、と教えている場合には、両者の関係は良好に保つことが難しくなります。

 相互理解が隠れ蓑となって、本当の悪が見逃されてしまうことには、充分な注意が必要であると思うのです。

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不可解なリベラルの言行不一致

2007年07月18日 20時48分17秒 | 国際政治
 国際政治について語るとき、リベラルを自任する人々は、力よりも法の支配を強調し、法律論的なアプローチを好む傾向にあります。あらゆる国家間の紛争は司法的手段によって解決されることが望ましいと。そうして、ゆくゆく先には、完璧なる司法的解決を実現できる制度を世界大に構築すべきであると。

 このように力説する一方で、実際に、国際社会において法破りが登場しますと、リベラルは、途端に”平和的な解決を”、”武力の行使には絶対に反対する”と、声を揃えて叫びます。そうして、最大限に、法律破りの国家に対して融和策をとろうとするのです。

 一見平和主義的なこの態度についてよくよく考えてみますと、普段の主張との間に重大な矛盾があるようなのです。何故ならば、すべての国々に、刑法を執行するための警察が存在するように、法秩序を守るには、違反者に対する力の行使が付きものだからです。

 果たして、本当に、リベラルは法律主義者なのでしょうか?どうしても疑問に思えてならないのです。

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グローバリズムのパラドックス

2007年07月17日 18時30分03秒 | 国際政治
 80年代以降に急速に進展した市場のグローバル化を背景として、いずれの国でも”グローバル化”や”国際化”が国家挙げてのスローガンとなった観があります。しかしながら、このグローバリズムには、奇妙なパラドックスがあることに気付いている人は、そう多くはありません。

 グローバリズムのパラドックス、それは、グローバル化を掛け声に、国境を越えた人の移動を自由化すればするほど、これまで築き上げてきた現代国家が、逆方向に退行してしまうという現象です。これは、先進国ほど深刻です。何故ならば、自由、民主主義、法の支配といった諸価値を基盤に作り上げられてきた制度が、これらの価値を共有しない人々によって崩されてしまう可能性があるからです。前近代的なネポティズムや人治、あるいは、慣習的な腐敗構造が先進国に蔓延し、やがて、自らも前近代的なシステムに埋没してしまうかもしれないのです。

 時代を開くはずのグローバリズムが、実は、時代を逆行させるかもしれない、これは、心配性の私の杞憂なのでしょうか?

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北朝鮮の悪徳国家宣言

2007年07月16日 17時45分25秒 | アジア
 北朝鮮とは、全く通常の思考では理解不可能な国です。何故ならば、自国が悪徳国家あることを、わざわざ言動で証明しているのですから。

 そもそも、核問題の発生は、1994年の米朝枠組み合意を北朝鮮が一方的に破ったことに端を発しています。しかも、自分自身が約束を破っておきながら、他国に対しては、義務を履行するように要求し、かつ、核という暴力をちらつかせながら見返りまで求めるのですから、これを悪と言わずして何を悪と言うのでしょうか?核問題のみならず、拉致、偽札造り、覚せい剤の密売、支援金や援助物資の着服、北朝鮮の行ってきた悪事は、数え切れません。

 自らを悪徳国家と宣言している国に対して、良識ある国がうかつに妥協しては、暴力団をはびこらせるようなものです。北朝鮮に対しては、犯罪に対峙する気概で臨まなくては、NPTを遵守してきた国々に対して示しがつかない、と思うのです。

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論理破綻を抱えた中国共産主義

2007年07月15日 18時09分06秒 | アジア
 中国は、言わずと知れた共産主義国家です。共産主義の理論とは、下部の経済構造が上部の政治構造を決定するという政治経済連続論を基調としています。

 それでは、改革開放路線を選択し、急速な市場経済化を成し遂げた中国は、その結果として、上部の政治的な構造に変化が起きることを受け入れるのでしょうか?共産主義にあっては、計画経済と共産党一党独裁はひと組のセットであり、本来、両者の分離は不可能です。しかしながら、経済分野に市場経済を導入したことは、すなわち、個人の利益に多様性が発生することを是認したことになり、それは、論理的には、政治における多党制の登場をも認めることに繋がる行為となるのです。

 政治的に共産主義を堅持しようとすれば、政治と経済を分離しなくてはならなくなり、この分離が、また共産主義の理論に矛盾するという現実。この現実に、果たして、中国は耐えられるのでしょうか?

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外資規制強化に見る政経のジレンマ

2007年07月14日 14時12分35秒 | 国際政治
 最近となって、日米欧は、外国企業による自国企業の買収防止のための外資規制を強化する方向に動き出したといいます(7月14日付日経新聞朝刊)。その目的は、中国やロシアといった新興国の政府系ファンドが、巨額の資金力を動かして、安全保障関連の企業を買収することを防ぐことにあります。確かに、市場のグローバル化の観点に照らしてみますと、資本移動の規制強化は時代の逆行に映るかもしれません。

 実のところ、この措置は、学問的にも重要な問題提起を行っています。それは、経済的な相互依存関係が平和をもたらすとする主張(相互依存論)は、安全保障上の問題のない諸国間においてしか通用しないのではないか、という疑問です。中国やロシアは、グローバル市場への参加によって急速な経済成長を遂げましたが、政治的な対立が残っている場合には、これらの諸国の経済力の増強は、安全保障上のリスクの上昇を招く危険性があるのです。

 経済的関係の強化が政治的な脅威をもたらす時、どちらを選択すべきなのか。この問いに対する答えこそ、今回の外資規制強化であったように思えるのです。

 

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トルコの加盟でEUがイスラム化?

2007年07月13日 22時02分50秒 | ヨーロッパ
 トルコは、現在、EUへの加盟申請を行っております。国民の多くがイスラム教徒である同国の加盟は、キリスト教圏という共通の基盤の上に成立しているEUの将来をも占うとも言われています。

 ところで、トルコの加盟には、単なる宗教の相違にとどまらない問題があります。それは、仮に、トルコにおいて政教分離体制が維持できなくなった場合、イスラム教の教義がEUに内部化される可能性がある、という問題です。EUの立法や政策決定の仕組みでは、理事会の票数や欧州議会の議席数の割当てに人口比の原則が導入されています。つまり、人口を基準としますと、6889万人の人口を抱えるトルコは、ドイツに次ぐ票数と議席数を獲得できることになるのです。もちろん、制度的にはトルコ単独で法案や政策を可決させることはできないのですが、EU内におけるトルコの発言力は無視できないものとなりましょう。

 現在、トルコにおいて世俗主義を自任してきた第一党の公正発展党が親イスラム政策へと転ずる姿勢を見せる中、EU加盟のゆくへは、EU側の事情のみならず、トルコの国内事情にもかかっているのです。

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アジア諸国に良き統治を

2007年07月12日 16時58分13秒 | アジア
 近年、アジアの将来を語るに際し、常々、東アジア共同体といった地域統合が持ち出される傾向にあります。このプランは、国家の枠組みを希薄化し、流動性を高める方向に向かわせるものです。しかしながら、各地で国民弾圧事件や政変がおこるたびに、今のアジアに必要なことは、まずは、国家レベルにおける良き統治のための仕組み作りではないか、と思えてならないのです。国家の仕組みさえあやふやな段階で、国際機構作りを進めたとしても、それは、むしろ、テロや社会的対立の増加を招き、むしろ、不安定化を促進してしまう要因になるかもしれません。アジアの国々において民主主義、自由、法の支配といった諸価値が実現され、良き統治が行き渡ることこそ、今日取り組むべき最優先の課題となるのではないでしょうか?

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商品市場投機のブーメラン

2007年07月11日 17時04分19秒 | 国際経済
 近年に至って、バイオ燃料の普及による価格上昇が見込まれる穀物市場や、急速な経済成長を続けるBRICS諸国での需要増加を見越したエネルギー・資源市場などを対象に、投機的な資金が流入しているとの報道がなされています。これらの膨大な資金の流入はさらなる相場の上昇を招き、あたかもバブルのごとき様相さえ呈しています。

 短期的な取引で利ザヤを得るという意味において、確かに、投機的行為には合理性があるのかもしれません。しかしながら、長期的な市場の成長を考慮しますと、必ずしも利益に繋がらない可能性があるのです。何故ならば、原材料価格の高騰は製造業を直撃し、結果として市場全体の活動を低下させてしまうからです。景気の低迷は、当然に金融の分野にも及びますので、投機的な行動がブーメランの如く、自分自身の減益に跳ね返ってくるかもしれません。

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東アジア共同体の加盟条件とは?

2007年07月10日 18時42分02秒 | アジア
 地域統合の先駆者と言われるEUには、明確な加盟条件があります。それは、1.ヨーロッパの国であること、2.民主主義や自由といった諸価値を共有していること、3.機能する市場経済が存在していること、4.EUのメンバーとしての義務を果たすこと、などです。

 これらを東アジア共同体に当てはめてみますと、如何に、EU型の地域統合をアジアに当て嵌めることが困難であるか、理解することができます。しかも、これらの条件は相互に密接に関連していて、どれか一つが欠けても、地域機構としてEUは上手に機能しなくなるのです。

 東アジア共同体の場合には、メンバーの線引きが難しい上に、その加盟要件を決定する段階において、政治体制の異なる国同士の政治的な対立が表面化し、分裂してしまう可能性さえ孕んでいるのです。

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国連の死角

2007年07月09日 17時23分32秒 | 国際政治
 国連は、しばしば、全ての国際問題を解決する能力を持つ、全知全能の如き国際機関であると信じられています。第9条の規定を持つ日本国憲法もまた、この国連神話を前提としているといっても過言ではありません。

 ところで、国連は、果たして、本当にオールマイティなのでしょうか?実は、国連が、絶対解決できないケースが存在しているのです。それは、拒否権を持つ常任理事国が、侵略行為を行った場合です。中国によるチベット侵略、旧ソビエト連邦によるアフガン侵攻は、誰にも止めることはできませんでした。『ガリバー旅行記』の、リリパット国(小人国)に漂着したガリバーのように、常任理事国を、いくらまわりの諸国が抑えつけようとしても無理なのです。

 このように国連には、解決不可能なケースがありますので、国連を、唯一の国際法上の合法性付与機関として捉えるわけにはゆかないのです。 
 

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世界と歩む日本

2007年07月08日 16時43分31秒 | 国際政治
 今この瞬間、後の歴史を変えるような選択の場面に立ち会っているかもしれない、と考える人は、そう多くはありません。しかしながら、当時にあってほんの些細なことと思われた出来事が、後から振り返ってみれば、歴史の分水嶺になっていたという事例は枚挙に遑がないのです。本ブログでは、日本を含めて世界各地で起きている出来事の歴史的な意味を、公開されているわずかな情報を手がかりとしながらも、探って行きたいと思います。

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