【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

◎「年金受給資格25年→10年」の施行は「消費税8%時」に修正しろ!一体改革100時間審議スタート

2012年05月08日 23時59分59秒 | 第180通常国会(2012年1月~9月)一体改革

[写真]一体改革法案の趣旨説明をする厚労相の小宮山洋子さん、2012年5月8日(火)、衆院本会議、民主党ホームページから。

(手元メモからの傍聴記ですので、発言内容は議事録でご参照ください)

 さあいよいよ、一体改革国会のスタートです。

 昨年は連休前半ぶっ通しで「震災復旧補正(平成23年度1次補正)」を審議し、珍しい「全会一致」で成立しました。ことしは大型連休中は国会は開かれませんでした。

 連休明け最初は大型法案である「一体改革関連法案」で、年金関連、子ども子育て新システム、消費税増税など税制改正の3つに分けて、本会議で趣旨説明と代表質問があります。きのうの本会議も3時間20分にわたり異例の連休明け第1週となります。連休明け第1週から大型法案が審議入りする。これは通常国会会期末が6月中下旬であることを考えると異例なのですが、今後は、「余裕がない」ことだけでなく、「連休中の地元活動による世論吸収に考えが変わったという大義名分」での5月連休明け政局、6月の内閣不信任案政局、6月中旬の延長会期幅攻防の3つの政局を封じて、「熟議の国会」を実現できます。これは衆参与野党とも「弁が立ち修正協議ができる実務派」に有利になってきます。マスコミも同様かもしれません。今後、このパターンは増えていくでしょう。

 きょうの議題は、
「公的年金の最低保証機能強化法案(国民年金法改正案)180閣法74号」
「被用者年金一元化法案(厚生年金法改正案)180閣法78号」でした。

 議員紹介や先着順で一般傍聴できる衆議院本会議場の一般傍聴席は、採決のない議事日程にしては珍しく大入りでした。開議前には「それではここで自由解散になります。3時間の審議なので、お好きな時にお帰りください」というおそらく旅行代理店主催の日帰りツアーの方も多くいました。東京発行の新聞で「国会日帰りツアー数千円」という広告を目にすることが増えてきましたが、参加者は品の良いご高齢のご婦人が目立ち、国会への関心の高まりを感じます。

【小宮山厚労相の趣旨説明で、「25年→10年」は第2段階の消費税10%から!と強調、修正協議で8%時にすべきだ】

 ひな壇には野田佳彦首相、小宮山洋子厚労相、岡田克也副総理・一体改革担当相の順に座りました。

 小宮山さんは2法案まとめて趣旨説明演説に臨みました。ここで、私はアレッ!と思うことがありました。最低機能強化法案では、受給資格を25年→10年に短縮し、遺族年金を母子家庭だけでなく父子家庭にも広げることなどが盛り込まれています。ただ、この法律(案)の施行日を、小宮山さんは高らかに「消費税率の第2弾引き上げの10%への引き上げ時点、すなわち平成27年(2015年)10月1日を施行日といたす内容の法案でございます」としました。ということは、受給資格拡大、父子家庭拡大は、8%時にはなく、10%時ということになる。これでは、切望している人は8%時に年金事務所に行き、対象ではないと言われたら「また騙された」と思いますよ。もうそれは、民主党とか、そのとき第46期の与党というか、すべてひっくるめて政治に騙された。間接民主制なのですから、施行日までいちいち確認していません。これについて、本会議終了後に内閣府別館で開かれた岡田副総理の定例記者会見で聞いたところ、岡田さんも知らなかったとのことで、「確認してみたい」とのことでした。ちなみに小宮山趣旨説明演説のときには岡田さんはずっと原稿を見ながらたまに筆を入れていました。自分の答弁原稿を見ていたのでしょう。このように、岡田さんでも内容を知らない。100時間を超える徹底した議論と柔軟な与野党修正が必要です。でも、これで何とか修正して採決に持ち込んだときに、小沢グループが反対票を投じたら、自民党・公明党の担当者からもひどい目にあうのは確実です。行政や司法と違い、政治はしょせん感情です。

 この件で議案を確認したところ、最低保障機能強化法案の附則第1条は「第一条 この法律は、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律(平成二十四年法律第▼▼▼号)附則第一条第三号に掲げる規定の施行の日から施行する。」とあり、180閣法72号の「社会保障の安定財源を確保するための税制抜本改革(消費税増税)法案」には附則第1条で施行期日を3つに分け、第3項で「平成二十七年十月一日」とあります。ただ、最低保障機能強化法案の附則第1条には、「公布の日から」適用されるものもあります。本会議では、自民党の鴨下一郎さんは「受給資格の短縮は第22回参院選の2010年自民党マニフェストにも明記している」、日本共産党の高橋千鶴子さんは「共産党も長年推進してきました」と賛同しています。だったら、「8%」時、すなわち2014年4月1日に施行すべきではないでしょうか。ぜひ修正協議で、国会の責任として法案を修正して欲しいと考えます。

【私も勘違いしていたが、「100年安心プラン」と「消えた年金」は別問題だとの理解が必要だ】

 トップバッターの質問者は長妻昭さん。元厚労相で民主党厚労部門会議座長です。


[写真]一体改革国会スタートの質問演説に立つ、民主党の長妻昭さん2012年5月8日、衆院本会議、民主党ホームページ

 長妻さんは「スウェーデンでは超党派の年金協議会ができて、7年後に法律ができた。その間に政権交代があったにもかかわらず。年金制度は政権交代のたびに変わってはいけない。日本でも政権交代ある政治が実現した以上、政権交代のたびに年金問題を政争の具にしてはいけない」と演説しました。これには、95%以上が2期生以上である自民党から猛烈な野次が飛びました。そりゃそうだろうという気がします。

 私自身もつい最近まで勘違いしていました。2004年年金改革の「100年安心プラン」と、2004年通常国会で発覚し2007年通常国会まで2度の参院選での自民党敗退の要因となった「消えた年金」の問題。「消えた年金発覚時はどこが100年安心だ、バカヤロー」。私もそう思いました。ところが、今ふりかえると、「基礎年金の半分(2分の1)は保険料ではなく税負担(国庫負担)」「年金と保険料双方への物価スライド(マクロ経済スライド)」による現行制度の継続性は、野田総理も答弁で評価していました。これは、マクロ経済スライドをすることで、100年間にわたって年金が払えることがチェックできている。だから100年安心なんですね。野田総理は褒めるばかりではなく、100年安心プランの「終身雇用」「専業主婦」「納付率100%」の3つの前提が変化してきているので「対応できていない」とも指摘しました。これも自民党の小泉進次郎さん、公明党の竹内譲さんら最前列に座る5人ちょっとの議員以外は「納付率が下がったのは、民主党の消えた年金キャンペーンで不安が広がったからだ」と長妻さんをヤジる。気持ちはよく分かります。この点で、「消えた年金」キャンペーンについて、野党に謝罪する用意があるかと、岡田副総理に記者会見で聞いたところ、「消えた年金は極めて大きな問題だった」「長妻さんは大臣になり消えた年金記録の回復をおおむね実現した」として、岡田さんは長妻さんのことを徹頭徹尾擁護しました。

【「荒波の中で船を乗り換えるような物だ」】

 「自民党政権の官房長官への登竜門」とされる自民党政調会長代理の鴨下一郎さん。野田総理とは日本新党の同期の桜ですが、新進党には参加せず自民党に入党。先祖代々の日本医師会会員で、環境大臣として入閣した後に、志願して厚労副大臣を務めました。

  で、鴨下さんにとっても自公案とは現行制度(2004年年金改革)という考え方があるようです。この点、自民党の伊吹文明・一体改革特別委員会筆頭理事が「対案」を用意していると言われます。またきょうの議論のなかでも、自公から「今回民主党政権が提出した被用者年金一元化法案は2007年に自公が提出したものにそっくりで、民主党が賛成していれば平成22年4月施行が可能だった」(公明党の石井啓一政調会長)との不満が出ています。ですから自公案とは現行制度プラス被用者年金一元化ということになるかもしれません。しかし、国民参加の議論を目指す上で、自民党と公明党は、「自公案とはそっくりそのまま現行制度のことだ」というパラダイムで統一してしまうというのが序盤戦で有用に感じられます。伊吹筆頭理事にはそうしてほしいと感じます。

 鴨下さんは、「現行制度はマクロ経済スライドで十分持続可能だ」として、新しい年金制度への移行は「荒波の中で船を乗り換えるような物だ」。最低保障年金の旗を降ろせと民主党に迫りました。最低保障年金(旧名称「国民基礎年金」)と所得比例年金は2003年の最初のマニフェストから入っています。そして現行制度は2004年の100年安心プランで、公明党主導の自公案。ですから、民主党案と自公案は同列に語るべきものではないかもしれません。この辺が政権交代ある政治での議論のひな型が第180通常国会で生まれてきそうな気配。私としては、「閣法vs現行制度」という対立軸の設定がどの党にとってもベストに感じます。

【中野寛成・特別委員長も積極的に、「談笑」】

 本会議中には、中野寛成・一体改革特別委員長が野党席に出向き、公明党理事の西博義さんらの臨席に座って話し込む姿が見られました。西さんの隣は強面の漆原良夫・公明党国対委員長。寛成、西、漆原の順にすわりました。5期生の漆原さんは顔を引きつらせ、演壇の方をずっと見ていましたが、ときどき、11期生の中野委員長と西さんの談笑に愛想笑いしていました。西理事も中野委員長とはしばらくずっと一緒にいるわけですので、顔をこわばらせながらも談笑しました。漆原さんも西さんも、中野・新進党政調会長、国対委員長としてお世話になった経験があるのでしょう。5分ほどしたら、中野委員長は、自民党の逢沢一郎理事の席に行き、しばらく立って話しましたが、席を譲られ、隣席に座りました。8期生で、昨年の通常国会の国対委員長だった逢沢さんですが、そのお父さんは4期ほど寛成さんと同僚。寛成さんは1期~4期までずっと民社党でしたから、若くして委員会理事の経験は豊富です。こうして見ると、議会政治というのは当選回数が大事だと感じます。そもそも能力がなければ、当選回数が増えませんから、当選回数の大事さを感じます。具体的には談笑という感じで、一体改革委員会としては顔合わせの段階でしょう。開議直前には民主党の武正公一理事が公明党にあいさつにいったり、自民党の逢沢理事が論客の加藤勝信・委員を呼んで話し合う場面もありました。「政治生命を懸けた」野田総理と同期当選の新進党仲間で、衆院財務金融委員会では野田財務相の家庭教師的存在だった竹内譲・委員は、公明党の長期低落傾向による世代交代の遅れのため、議場最前列に座っていて違和感を覚えました。ひな壇最前列の野田さんと議員席最前列の竹内さん。総理も同じことをしていのだな、と第180通常国会の一体改革を一緒に仕上げて歴史に名を残して頂きたいです。ちなみにこういったところ、写真記者さんたちはまったくカメラを向けていなかったですね。「小沢問題」が記者にとってもカメラマンにとってもいかに手抜きかが分かります。国会議員もジャーナリストも、仕分けされている気がします。 お名前存じ上げないけど、日刊スポーツの女性の記者はよく聞いていますね。

 けっきょく、100時間超積み上げて、修正協議して、やっと採決にこぎ着けて、そこで法案の中味がちんぷんかんぷんの小沢グループが反対票を投じたら、誰からも相手にされなくなるでしょう。これも議会政治というのは集団ですから、村社会的要素を完全に排除して否定すべきではありません。国民も建設的な提案をすると同時に、説得ができる人は各地、各団体で、オピニオン・リーダーとして説得役を務めるべし。そうすると、足腰の強い世論が可能になり、郵政選挙のような地滑りもなくなります。

 鴨下さんの演説でハッとしたのは、「年金世代が4000万人で、現役世代が6000万人」。つまり年金受給者と保険料納付者というのは事実上、全有権者ということになります。これは全国民全員の利害関係がある大議論です。もはや小沢一郎ではない。私たちにとっては、震災後国会のあり方をつくっていくうえで、最高の教材ということになります。

 衆議院議員、ジャーナリスト、市井のオピニオン・リーダー。
 実力者が集まれば、とびっきりの夏が来ます。

 「選択と集中」のために、のめり込みましょう。

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[お知らせおわり]

【追記 2016年6月23日朝8時半】

 このエントリー記事の初投稿日時は「2012-05-09 11:37:49」でしたが、本会議があった日である、8日付にバックデートしました。

【追記終わり】 



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