【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

◎自民党政府、労働者派遣法改正案を提出、生涯派遣で一生搾取の「リンカーン前米国」化の奴隷法案を許すな

2014年03月23日 13時36分59秒 | 第186通常国会(2014年1月)好循環実現国会

 自民党政府は、ぬけぬけと、2014年3月11日(火)、第186通常国会に「労働者派遣法改正法案」を提出しました。

 この法律名は、民主党政権時に野党・社民党の協力を得て、2012年タイトルが変わっています。

 「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」

 となっています。

 これらを改悪する法案が「労働者派遣法改正法案」で、議案番号として、第186閣法56号と振られています。
 
 では、何が問題なのでしょうか。

 1985年は、男女雇用機会均等法に続いて、労働者派遣法ができました。この中(第40条の2などに基づく施行令)で、「専門26業務」として、タイピスト、社長秘書、翻訳、アナウンサーなどが派遣労働の対象となりました。

 やがて、派遣会社は大きい会社になっていきました。私が以前、席を隣にして働いていた「日経スタッフ」所属(登録?正社員?)の派遣労働者は、今は同社の身売りにより、「テンプスタッフ」という会社になっています。

 現行の労働者派遣法の第2節、第30条から第38条には、「派遣元事業主の講ずべき措置など」が定められています。「派遣元事業主」とは、テンプスタッフなどの派遣会社のことです。

  現行法には、教育訓練の実施などがあります。改正法案第1条は、これらの多くの条文を改正することを盛り込んでいます。

 この中に、「第30条の2」を新設するとの条文があります。

 自民党政府が提出した改正法案は次のように書いてあります。

 「第30条の2 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者が段階的かつ体系的に派遣就業に必要な技能および知識を習得することができるように教育訓練を実施しなければならない。この場合において、当該派遣労働者が無期雇用派遣労働者(期間を定めないで雇用される派遣労働者をいう。以下、同じ」)であるときは、当該無期雇用派遣労働者がその職業生活の全期間を通じてその有する能力を有効に発揮できるよう配慮しなければならない。

 という文章を法律に加えるように書いてあります。

 派遣元事業主は、2年ないし3年の派遣期間を終えた派遣労働者から、「引き続き働きたい」との希望があったら、
 (1)派遣先への直接雇用の依頼、(2)新たな就業機会(派遣先)の提供(3)派遣元事業主において無期雇用(4)その他安定した雇用の継続が確実に図られると認められる措置ーーのいずれかを講ずるとしています。もちろん(1)の派遣先への直接雇用の依頼、つまり正社員化が基本です。しかし、(3)派遣元事業主において無期雇用となる場合があります。

 ここが大問題です。18歳から派遣で働いた20歳が、テンプスタッフから「こちらの会社で無期雇用」としてもらう。そして、「やがては日経新聞記者になれるかも」との期待を抱かせて、派遣先である日本経済新聞社の補助アシスタントして、低賃金で60歳まで働き続ける。しかし、正社員と派遣労働者の均等待遇は欧州と違い、日本では実現していません。派遣労働者にはベースアップ(賃金表の改善)がありませんから、「同一労働同一賃金(同一価値労働同一賃金)」のILO憲章前文の実現は、日本では夢のまた夢です。

 ここで、「いやまあそういうけど、安くても働き続けられれば幸せだよ」などと言った瞬間にあなたが奴隷。病気になればポイ捨てですよ。

 となると、20歳から60歳まで、40年間、同一価値労働を、正社員より安い賃金で働く派遣労働者が自民党政府が3月11日に提出した改正法で生まれることになります。これが、奴隷制でなくて、何なんでしょうか。奴隷ですよ、奴隷。

 自民党が3月11日に提出した法案は、派遣元事業主が派遣労働者を「生涯ハケン」にして、一生にわたり搾取し続けることを可能とする奴隷化法案です。

 その証拠の一つとして、労働組合関係者も加わってつくった労働政策審議会答申にあった、「派遣労働は一時的、臨時的な働き方(テンポラリーワーク)である」との文言が、法案から落ちていることについて、内閣法制局第四部長は14日の参・大臣所信演説への一般質疑で、「法制局チェックに持ってきた時点で書いてなかった」と答弁してくれており、官僚の中からも、私たちの味方が出てきています。

 ところで、厚労省は派遣労働者の正社員化に向けて、「キャリアアップ」という言葉を繰り返し言います。なんとなく理解しがちな「キャリアアップ」とはどういう意味でしょう。すでに存在するキャリアアップ助成金とは次のような制度です。

[厚労省ウェブサイトから引用はじめ] 

 有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者(正社員待遇を受けていない無期雇用労働者を含む。以下「有期契約労働者等」という)の企業内でのキャリアアップ等を促進するため、これらの取組を実施した事業主に対して助成をするものです。

 本助成金は次の6つのコースに分けられます。

I 有期契約労働者等の正規雇用等への転換等を助成する「正規雇用等転換コース」
II 有期契約労働者等に対する職業訓練を助成する「人材育成コース」
III 有期契約労働者等の賃金テーブルの改善を助成する「処遇改善コース」
IV 有期契約労働者等に対する健康診断制度の導入を助成する「健康管理コース」
V 労働者の短時間正社員への転換や新規雇入れを助成する「短時間正社員コース」
VI 短時間労働者の週所定労働時間を社会保険加入ができるよう延長することを助成する「短時間労働者の週所定労働時間延長コース

[引用おわり]

 このように厚労省が言っている「キャリアアップ」とは、同じ会社の中で、非正規から正規雇用に転換することを言っています。私の定義では、これをキャリアアップと呼びません。外国発祥の商業者で、学生アルバイトから正社員になった現在40代の社長が複数いますが、今の日本の会社で、30歳の非正規が正社員化されて「キャリアアップ」と呼ぶでしょうか。それを口実に、会社は国からお金をもらっている。

 この法案は、日本を、リンカーン前アメリカ同様の奴隷社会にする法律。まして日本では肌の色が同じなのに、奴隷制を敷くことになる天下の悪法です。例えば、今国会で成立しなくても、自民党がこのような天下の悪法を法案として提出した事実は絶対にゆるぎない。

 私は、自民党がこの法案を提出したこと自体を絶対に許しません。私の正義が許さない。自民党はここまで堕ちたのか。自民党よ、恥を知れ!と断言します。

 「自民党政府が提出した」という事実をしっかりと残す意味もあり、早めにこの法案の問題点を引き続き、書いていきたいと考えています。

 なぜ、このような悪法を自民党が押し通すのか。その背景の一つとして、政権交代後、安倍自民党は、黒田緩和1か月後の2013年5月に1万5000円を越えて、年末に最高値を更新。しかし、アメリカFRBのイエレン新議長の下での金融引き締めで下がってきています。きょう(23日)付の朝日新聞2面は「首相側が、特に外国投資家の受けがよいとアピールするのは、労働規制の見直しだ。雇用の安定が損なわれる懸念もあるが、株価対策につながり、経済界も強く要望する」と書いています。

 安倍首相は、アベノミクスの成果として、日経平均株価を気にしていて、外国人投資家は労働者派遣法改正法案の成否を意識しているという背景があるようです。ところが、欧米・韓国と違い、日本は、終身雇用を前提とした賃金表があり、正社員と派遣労働者間の均等待遇がまったくない、という状況は、これは外国人投資家も知らない。で、たぶん自民党の政調審議会、総務会の議員もそこまで分かっていないのでしょう。

 廃案に持っていくために、野党はこの法案についてあまりアピールしないというスケジュール感を持っているようにも思えます。6月22日(日)の会期末までに参議院で可決しなければ廃案になるからです。JEED不正入札事件の徹底追及も、法案審議入りを遅らせる意味合いも多少は含んでいます。

 ただ、共産党の大門実紀史さんがテレビ入り参予算委で取り上げました。彼は「まあ、法案審議はまだ先でしょうから、きょうはこのくらいにとどめます」としました。このように、目立たないようにして廃案にさせるという手法をとるわけですが、もうそんな時代じゃないでしょう。「落としどころを先に言う政治」に転換していきましょうよ。すでに3月11日に自民党政府が提出したことは官報にも記載済み。野党共闘で、ニコニコ動画で討論会して、6月22日審議未了より前倒して、法案そのものを自民党政府が衆議院に対して撤回要求(国会法59条)するところまで追い込む。そういう戦術があってもいいんじゃないでしょうか。

 ぜひ、良識ある自民党員のみなさまにも、この天下の悪法を廃案にするよう、所属支部・県連の党本部幹部・厚生労働部会関係の国会議員に働きかけてくださいますよう、民主党員の立場からもお願い申し上げたいと思います。 


2013年8月6日(火)付エントリー)

自民党政府、労働者派遣法改正法案を第186通常国会に提出へ 「40条の2」再改正


2013年8月21日(水)付エントリー)

キャリア女性1985年夏の敗戦 タイピスト、翻訳、通訳など労働者派遣法「専門26業種」廃止へ


2014年3月14日(金)付エントリー)

内閣法制局部長が異例の暴露、「派遣は一時的な働き方だ」との答申「厚労省が法案から省く」 参・厚労委



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