【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

藤谷光信さん「私は幼児教育とともに半生を過ごしてきた」幼稚園の保育参入(認定こども園)で参議院らしさ

2012年07月19日 07時46分44秒 | 第180通常国会(2012年1月~9月)一体改革

【画像】民主党の藤谷光信参院議員、2012年7月18日、参議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会、参議院インターネット審議中継からキャプチャ。

【参議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会 2012年7月18日(水)】

 衆議院本会議での不正常採決(6月26日)から3週間経って、やっと参院社保・税一体改革特(高橋千秋委員長)での質疑が始まりました。日本の国会特有の遅さですが、会期末(9月8日)には間に合いそうです。18日(水)と19日(木)、NHK入り。与党・民主党はトップバッター(櫻井充筆頭理事)が消費税引き上げの地ならしとなる経済の現況と下支え・成長戦略、2番バッター(鈴木寛政調副会長)が国家財政の大枠を説明・質疑しました。

 衆院段階は消費税そのものの制度設計や、成長戦略がやや手薄でしたので、参議院らしい良いスタートが切れました。

〈幼稚園経営者が審議に登場、職能代表の参議院らしさ〉

 3番手として登場した、民主党・新緑風会参議院議員(全国比例、来夏改選)の藤谷光信(ふじたに・こうしん)さん。幼稚園の保育参入(認定こども園移行)について質問しました。子ども・子育て新システム法案(180閣法75号)と認定こども園法改正案(180衆法25号)、および関係法律一括整備法案の3法案です。

 藤谷さんは住職で、浄土真宗本願寺派組織内候補として2007年逆転の夏で当選しました。山口県議を4期務め、山口2区補選での平岡秀夫陣営の選対本部長として政権交代に弾みを付けました。中学校、高校で教壇に立った後、30歳で幼稚園を設立しました。

 その藤谷さん、「私は幼児教育とともに半生を過ごしてきました」と質疑を切り出しました。

 「きょうから始まる参議院での審議ですが、閣法と衆院修正がかかった8法案を積み上げたら50センチになった」と笑わせ、「良識の府らしいていねいな議論をしたい」「現場に不安がある」とし、参院での子ども・子育て(幼保一体化・幼保一元化)の徹底審議を宣言。この日は50分間(質疑と答弁)すべてを幼稚園の保育参入について聞きました。保育所に子どもを預けている人は反発するかも知れませんが、藤谷さんが経営している幼稚園は一つですし、それをいかして、幼稚園長の現場の仲間の声を国会に届けている。そして、「すこし専門的な用語が多かったかもしれませんが」と付け加え、幼稚園、あるいは、今後幼稚園から移行した幼保連携型施設に子どもを預ける保護者への配慮も入れた質疑でした。久しぶりに参議院ここにあり、との感がありました。


〈幼稚園が認定こども園になれなかったのは、市町村長の妨害だった〉

 幼稚園が現行の認定こども園に移行しづらい「阻害要因とは何か」と、閣僚、自民党提出者、公明党提出者、民主党提出者に質問しました。この中で、市町村の認定が得られない、消極的な自治体が(一部に)あると指摘しました。

 藤谷さんは幼稚園経営者の仲間の声を代弁し、「既存施設の認定こども園への円滑な移行についてお伺いいたします。今回大きく制度が改善されることになっている、幼保連携型認定こども園は、学校と児童福祉施設の双方の性格を有するものであります。幼児期の学校教育と保育を同時に提供する究極の施策だ」と高く評価しました。「一方で、(現行の)認定こども園にはこのほかに、幼稚園型とか、保育所型とか、地方裁量型とかがありまして、いずれも幼保を総合的に提供する機能を有しております。とくに幼稚園型認定こども園というのは、認可を受けた幼稚園が、幼稚園で教育を終了して移行の時間も子どもを教育する機能を有している旨の認定を都道府県から受けるものであり、既存の多くの幼稚園にとっては移行しやすい類型であると考えております。しかしながら、実態としては、認定権限をもっているはずの都道府県は「地元市町村の同意が必要だ」と言います。市町村は「(既存保育所以外の幼稚園への)保育の需要がない」として同意を与えない例が各地で見られております」。

 藤谷さんは山口県です。このやりとりを待機児童で悩む都市部の関係者が聞いたらビックリするでしょう。実は、待機児童ゼロでありながら、幼稚園が定員を大きく下回っていて、幼稚園が保育に参入したいのに、市町村長が政治的に幼稚園の認定こども園移行を阻止してきた現状があるのです。本当に日本は広いですね。高名な経済学者・社会学者もほとんどが都市部在住ですから、「子ども・子育て新システム法案では待機児童解消につながらない」と批判している論文を読みましたが、それとは違った光景がこの日本にあるのです。せっかくインターネットがあるので、全国民が全国のさまざまな事情を共有したい者ですが、その理由はまったく小生のあずかり知らぬ所ですが、こういった情報発信の地域差というものもあるようです。

 藤谷さんは「平成21年度にまとめらた報告書(小渕報告)では、認定件数が伸び悩んでいる理由」を次の3点挙げていると指摘しました。

 (1)財政支援等が不十分である
 (2)省庁間や自治体間の連携が不十分である
 (3)事務手続きが煩雑等

 の課題を挙げているーーとして「こうした状況を改善するために、事務手続きや会計の簡素化が行われまして、平成20年度第2次補正予算では「安心こども基金」が創設され、総合的な財政支援が行われ、(平成21年9月からの)民主党政権下でも積み増しが行われている」としました。しかし、「認定こども園創設からすでに6年以上が経過していますが、4月1日現在でも、認定こども園の認定件数は911件にとどまり、教育振興基本計画で挙げられた2000件の目標には遠く及びません。それは、幼稚園のほんの1割しか幼稚園型認定こども園になっていないからだ」と指摘しました。

 そのうえで、保育所関連団体からの圧力を受けた市町村長による「行政指導」が認定こども園を阻害しているとして、「私はこれまでも政策立案が机上の空論にならないためには現場の状況をよく把握しておくことが必要だとたえず訴えてきました」としました。

 池坊保子公明党衆議院議員(元文科副大臣)は「私は衆院段階での閣法の修正、認定こども園法改正案の中間的な役割を果たしました」と高らかに宣言した上で、「市町村が阻害要因になっていたという(藤谷さんの)話はその通りでございまして、財政的措置がないために、基準を満たしているにもかかわらずなかなか(幼稚園から認定こども園に)移行されなかった現実がございます」と認めました。とくに8000園の目標が911園にとどまっている現状について「保育所の数に比して、幼稚園の方が認定こども園に移行したことについて、(当該自治体の)保育所には感謝を申し上げたいと思います」として、保育所関連団体が、首長に対して、幼稚園の認定こども園移行を阻害する行政指導をするよう働きかけていた(一部の)実態を暗に認めました。これは、定員割れした幼稚園が保育に参入すると、運動場、園庭(えんてい)などの施設面で既存幼稚園は圧倒的に有利なので、保育所経営者が政治的に支援する市町村長に認定しないようさせていたという現実があったからです。

 自民党の馳浩さん(閣法修正者・衆法提出者)は「施行まで時間があるので、それまでは(自民党政権が予算した)安定こども基金を活用するよう行政にもお願いしたい」と応じました。


[画像]衆院特別委員会の閣法修正者・衆法提出者で公明党の池坊保子・衆院議員、参議院社会保障と税の一体改革特別委員会、2012年7月18日、、参議院インターネット審議中継からキャプチャ。


[画像]衆院特別委員会の閣法修正者・衆法提出者で自民党の馳浩・衆院議員、参議院社会保障と税の一体改革特別委員会、2012年7月18日、、参議院インターネット審議中継からキャプチャ。

〈幼稚園と保育所のおいたちの違い〉

 私は自分が卒業した私立谷中幼稚園に行きました。年に1回程度は早朝散歩で訪れていますが、今回は一体改革審議で関心が一層高まっていたので行きました。32年経っても学舎がほぼ変わらぬ姿で残っているのはうれしいことですが、一つだけ変わっていたのは「午後5時までの延長保育(?)を1回500円事前予約でやっている」という張り紙があったことです。これがあることによって、働いているお母さんも保育所ではなく、谷中幼稚園に子どもを通わせやすくなり、子どもに就学前教育を受けさせやすくなるということでしょう。藤谷さんが経営している幼稚園のホームページを見ると、「4年保育、3年保育、2年保育、1年保育」があるうえ、「1歳から未就園児までのこあらクラブを地域解放事業としてやっています」と書いてあります。仮に認定こども園になれば、0~2歳児保育もできるし、預かり保育、延長保育など条件に合わせて子どもを小学校入学前まで預けて、保育だけでなく、就学前教育を受けられるということになるんだろうと、ホームページをみて思いました。藤谷さんは住職でもあるので、幼稚園の理念として「慈悲、平等、生命尊重の仏教の教えを指針とし幼児教育は人間形成の原点たる信念のもとに常に、礼儀、勤勉、清潔をこころがけ、真に信頼される教育を実践して、地域社会に貢献する」とあります。私の甥と姪も仏教系幼稚園に通いましたが礼儀正しく健やかな中学生・小学生になっています。ちなみになぜ仏教のお寺やキリスト教教会が経営する幼稚園が多いかとというと、幼稚園を増やす上で、土地があり、学のある人(住職、牧師・神父)があるから幼稚園になってもらったという経緯があります。この辺が地域の名士が請け負った特定郵便局と似た面があります。郵政民営化同様に、幼保一体化(幼保一元化)が進まなかった根底はこれが要因です。これを施設型給付や地域型保育(保育ママなど)給付を直接保護者につぎ込むことで、市町村、県教育委員会、厚労省、文科省の縦割り行政を打破するのが「子ども・子育て新システム」です。明治9年に、お茶の水女子大学附属幼稚園ができて以来、フレーベルのキンダーガーテン方式による就学前教育をより受けやすくしながら、施設にすぐれた幼稚園の保育参入で待機児童解消につなげるという画期的な法案が衆院を通過したのです。あまりにも、マスコミ報道が消費税およびその政局に集中したことは、今の時代を新聞記者としていきた諸君にとってもまことにもったいないことです。

〈3党合意法案で幼稚園の保育参入を加速へ〉

 3党協議でおもに公明党の主張が通り、昭和22年から続く児童福祉法24条の「市町村は保育に欠ける子の最終責任を負う」を削除する閣法が3党修正され、「保育が必要な子」への保育の実施事務が引き続き市町村が担うことになりました。このため、民間保育所には現行通り、市町村が保育所に委託費を支払い、市町村が保護者から利用料を徴収します。
 
 池坊さんは認定こども園について、「今までの許可制から指定制にした」 としました。3党合意では、「(市町村による)指定制に代えて、都道府県による認可制度を前提としながら、大都市部の保育需要の増大に機動的に対応できる仕組みを導入する」と書いています。「欠格事由に該当する場合や供給過剰による需給調整が必要な場合を除き、認可する」とあり、小宮山洋子内閣府少子化担当大臣もこれが最大のポイントであると答弁しました。

 大変専門性が高い質問でしたので、このエントリーの間違いも多いかと思いますが、これからの「90時間審議」の中で、私もより勉強し、あるいは修正や附帯決議もしっかりとフォローしていきたいと考えます。

〈認定こども園法案は、消費税並みに関心を呼んでいることに気付かない情けないマスコミ〉

 というのは、NHKが衆議院本会議を中継した6月26日に当ブログにgooアクセス解析で「認定こども園法改正案」と「認定こども園改正法案」などで410人、「総合こども園と認定こども園の違い」で40人がこのブログを訪れています。その日以降も「認定こども園法改正案」「総合こども園と認定こども園の違い」で連日訪れる方がいらっしゃいます。おそらく、保護者よりも経営者の方の方が多いようにも思いますが、いずれにしろ、忙しく、子どもの未来に多少なりとも不安を持っている方だと感じます。こういった報道をせずに、「消費税増税」「民主党分裂」と煽らないと食べていけないテレビ局、新聞社を情けなく感じます。そういった中で、私がやらねばならないと考えております。

〈少しずつ前進している幼保一元化(幼保一体化)〉

 藤谷さんの質問も幼稚園経営者のことだけ考えているように思いながらも、さすがは保護者への発言がありました。「今の質疑と回答(答弁)を全国の子どもをお持ちのお母さんたちがたぶん(NHKで)見ておられると思いますので、(制度論なので)抽象的な面もありますし、専門的な用語もありますが、少しずつ前進しているということが理解いただけるんじゃないかと思います」と語りました。

 ぜひ、90時間審議の中では、保育所からみた議論も聞きたいです。

 そしてなにより子育てを卒業した中高齢者がそのつど支持で「投票する政党がない」などと乞食思想をやめて、政治にかかわる。政治家を育てて、政党を育てる。それが子どもは家庭が育てて社会がそれを支える、チルドレンファーストの社会です。それは当たり前のことであり、当たり前のことができない人間が「消費税増税反対」などと言っても、この時代の流れの速さのなかではあっという間に忘れ去られます。

 子どものために。早い法案成立と、施行を運用面で前倒しする附帯決議やあるいは再修正・衆院回付成立を期待しています。

 三つ子の魂、百まで。どんな国難でも幼児教育はすべてに優先する最重要課題です。

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