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ミステリ感想-『摩天楼の怪人』島田荘司

2006年03月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
臨終の床に瀕した往年の大女優は語る。「この事件の犯人は私。でもその謎は誰にも解けない」
停電で機能を停止した高層ビルの34階にいた彼女は、たった10分で1階にいた男を射殺し、戻ってきたという。
一斉に破裂した窓とともに墜落死した男、次々と謎の自殺を遂げる女優たち、時計部屋の処刑、謎めいた暗号。
すべての事件の裏には、摩天楼を跳梁跋扈する怪人ファントムの影が妖しくうごめく。


~感想~
『魔神の遊戯』『ネジ式ザゼツキー』といった21世紀型の島田作品ではなく『水晶のピラミッド』『アトポス』ら往年の系譜に連なるべき作品。
不可能犯罪、怪人、密室、暗号、地下帝国と、20世紀初頭のマンハッタンを舞台に、いかにもな舞台装置と仕掛けがこれでもかと詰め込まれている。
摩天楼という1つのビルを中心に語られているにもかかわらず、冒険譚としても成立し、誰もが期待する御手洗と怪人の対決ももちろん用意されている。
『アトポス』以来、奇想・トリックに傾いた御手洗シリーズが、久々に物語・浪漫をメインに押し立てて堂々の凱旋を果たした。

舞台からして摩天楼という「いかにも島田荘司らしい物理トリックがありそう」なもの。冒頭には大女優による「この事件は人間業を超えたとてつもない事件である」という乱歩めいた挑戦的なセリフまで吐かれ、50年の時を越え怪人が姿を現す段に及んでは、あの頃の御手洗シリーズを思い出して顔のにやつきを抑えられない。
正直、トリックには少々物足りないものを感じたが、この雰囲気と展開が「あぁ~御手洗物を読んでるなぁ」と大満足させてくれる。

『オペラ座の怪人』を下敷きに、20世紀初頭のマンハッタンを取り巻く状況や演劇界の様相などもさらりと取り入れ、一人の女優の人生を浮き彫りにしてみせるあたりはまさにお家芸。
開幕から幕引きまで一気に読み通せる、まさにまさにの「島田荘司の御手洗物」でした。


06.3.14
評価:★★★☆ 7

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