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ミステリ感想-『水魑の如き沈むもの』三津田信三

2010年01月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
近畿地方のとある農村。村の人々が畏怖し称えてきたのは、源泉である湖の神・水魑様だった。
水魑様をまつる儀式のさなか、衆人環視の湖上の密室で事件は起こる。
刀城言耶が事件解決のため奔走するも、惨劇はそれだけにとどまらず……。


~感想~
シリーズ最長となったこの作品、解決シーンではいつもながらの残りページの限界に挑戦するような目まぐるしい二転・三転を見せてくれるのだが、そこにいたるまでの過程が今回はいまひとつ。
『厭魅』・『凶鳥』・『首無』・『山魔』と必ず目の覚めるような大ネタを仕込み驚かせてくれたが、今回はそうした一発ネタは見当たらない。ある人物のなにげない一言に何重にも秘められた誤導・トリプルミーニングや、視点をひとつ変えることで明るみに出る伏線など冴えてはいるのだが、たとえば謎の中心・解決の契機となる、ある因習の真相は、意外性と言う点で「そういう因習もあるだろうなあ」というレベルに落ち着いてしまい(回りくどくてすみません)、鬼面人を驚かすようなケレン味に欠けるのだ。
シリーズを重ねるごとに、最初は設定資料そのものだった村の風習や成り立ちなどを、わかりやすく噛み砕き、今作では労せずに読むことができるのだが、そういった不気味な雰囲気や突飛な因習を今回はほとんど一人の人物が引き受けてしまい、極端な話「こいつが鬼畜でした」で済まされてしまうのも惜しいところ。
また怪異と謎解きの融合、すべての怪異が現実へと解かれながらもそれでも怪異が忽然と立ちのぼる――それがこのシリーズの特徴だと思っていたのだが、これも怪異は怪異のままでほとんどが投げっぱなしにされ、いっこうに現実側に近づいてこないのも悲しいところ。結界とか霊視とかが平然と(それも推理の材料にまで)使われるシリーズだったっけか?
つまり個人的に刀城シリーズの魅力だと思っていた部分がことごとく薄く、物足りないのが特徴なのだから困ってしまう。
実はこの『水魑』は序章に過ぎず、次回作で置き去りにされた怪異たちがひもとかれ、伏線として機能していく――なんて妄想まで抱いたり。どうした三津田信三の如き騙るもの。


10.1.8
評価:★★★ 6

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