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ミステリ感想-『リバース』北國浩二

2009年11月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
自慢の恋人をエリート医師に奪われてしまった省吾。あることからこの医師が彼女を殺してしまうと「知った」彼は、全てをなげうって奔走する。そんな省吾の執着に、周囲の人間はあきれ、次第に離れていってしまう。やがて、事態は思いも寄らない方向へ転じていく。痛々しいほど真っ直ぐな気持ちだからこそ、つかむことのできた「真実」とは。

~感想~
「信じないで後悔することと、信じて後悔すること、どっちが痛みが大きい?
同じ後悔するなら、信じたほうがいい。それで何も悪いことが起きなければ、笑い話がひとつ増えるだけだからね」



↑のセリフを見てもらってもわかるとおり、省吾の行動は半分以上、妄想の域に達していて、語り手で主人公でなければ、もし現実にこんなヤツがいたらと考えると、もうドン引きである。完全無欠にストーカーである。
しかも、あらすじでほのめかされた、元カノが殺されることを知った「あること」というのが、このくらいはネタを割ってもいいと思うから明かしてしまうが、サイコメトリー能力(物に触れることで、その物に残った思念を読み取る超能力。しかもこの作品では同時に未来予知までできる)という、創作にあたってなにか他に方法はなかったのだろうかと思いたくなるようなトンデモ設定である。
サイコメトリーおよび未来予知を根拠に元カノにつきまとう男に感情移入ができるのかと思われるだろうが、心配することはない。物語は中盤から急転直下の展開を見せ、思いもよらないどころか、ある種ベッタベタの結末を迎えるのだが、その過程で省吾のストーキングもトンデモ超能力もエリート医師の事件も、すべてが一つにまとまっていき、終わってみれば「泣けるちょっといい話」に落ち着くのだからすごい。「イニシエーション・ラブの乾くるみ推薦」と帯に書かれるだけはあるのだ。
昨今の「泣けなければ小説じゃない」とのたまうスイーツ(笑)から、乾くるみ(=イニシエーション・ラブ)ファンの本格マニアまで、誰しも満足させる良作であろう。


09.9.27
評価:★★★★ 8

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