小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『あした天気にしておくれ』岡嶋二人

2014年11月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
3億2千万円で落札された期待の若駒セシアが、デビュー前に再起不能の骨折をした。
管理する鞍峰牧場は骨折の隠蔽をもくろみ、セシアの狂言誘拐を企てる。

83年文春3位、江戸川乱歩賞・候補、吉川英治文学新人賞・候補、本格ベスト91位


~感想~
エイシンサンディのように良血なら未出走でも種牡馬にしてある程度の投資は回収できるのでは…と競馬ファンなら思うところだが、本作の刊行はエイシンサンディがまだ産まれてもいない1983年で、狂言誘拐を企てた中心人物もあるいは窓際に追いやられていたり、あるいは資金面で苦心していたりと、犯行に踏み切らざるをえない事情があり、さほど無理は感じない。
そしてすでに設定の段階で面白い物語が、中盤から思いもよらない展開を見せ、倒叙形式でありながら謎解きの妙も味わえるという凝った構成で、誘拐に関するあるトリックも「競馬ミステリ」にふさわしい意外性あるもので、なんとも言えない結末まで気を抜かせない。
誘拐・競馬・倒叙と様々な要素が絶妙にかみ合った良作である。

ここからは余談だが、本作は江戸川乱歩賞の最終候補に残るも「トリックが実現不可能で前例もある」ことを理由に落選したという。
作者は文庫版のあとがきで反論しており、まず「トリックが実現不可能」なのは(乱歩賞の選考をした)現時点でのことで、作品の時代に設定した1981年には可能だったという。そもそも「現時点で不可能」が認められないなら全てのSFミステリや捕物帖が存在し得ないではないか。
また「トリックに前例もある」には「競馬の外の社会で頻繁に行われていることからの応用」で「この小説のトリックを思いつくための入口は、あちらこちらにゴロゴロしている」と皮肉交じりに反論しており、これだけの良作を難癖としか思えない理由で落とすとは(後に落選させながらも刊行してくれたとはいえ)新人賞の選考というものを有望株を潰すための場だと勘違いしている輩は80年代の昔からはびこっていたのだなあと思わずにはいられない。


14.11.23
評価:★★★☆ 7

コメント (3)    この記事についてブログを書く
« ミステリ感想-『人間の顔は... | トップ | 今週のNXT #250 »

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (以前、岡嶋二人を読んでいないのを不思議がった者)
2014-11-26 02:08:53
1980~1981年の江戸川乱歩賞は島田荘司の『占星術~』と
岡島二人の『あした天気~』が落選していて
今にして考えると全く馬鹿げてるなぁとは思うものの、
本格ミステリが完全に廃れた当時なら妥当な判断だったのかもと迷うところです。
返信する
Unknown (Unknown)
2014-11-26 10:31:21
今年度の新刊で、北山猛邦の「少年検閲官」の続刊である「オルゴーリェンヌ」が中々の傑作らしいです。俺も未読ですが読んでみてはどうでしょうか。
返信する
Unknown (小金沢)
2014-11-26 21:18:09
>>岡嶋二人の人

その節は岡嶋二人を読むいいきっかけになってありがとうございましたw まだ5冊しか読んでませんが安定感では僕の中で東野圭吾に並んでます。

「占星術」なんて歴史的傑作レベルを落とされたらそりゃ御大も復讐に燃えて本格ミステリ宣言しますよね。


>>名無しの人
来年のこのミス対象なので、いま読んでる今年のこのミス対象たちが片付いたら買いたいと思います。
ちなみに最寄りの書店では取り扱ってませんでした。だからアマゾンに負けるんだよ!
返信する

コメントを投稿