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ミステリ感想-『アルカトラズ幻想』島田荘司

2013年04月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
世界が2度目の大戦へと突き進む中、アメリカの大学構内で性器の周囲を切り取られた女性の遺体が発見された。
続けて第二の犯行が起こり、被害者には最初の殺人と同様の暴虐が加えられていた。
凄惨な猟奇殺人に世間も騒然とする中、刑事は「恐竜と重力」の論文に注目し……。
舞台は変わってアルカトラズ監獄。収監者たちの間ではナチスによる核攻撃と地球空洞説の噂がささやかれる。
そして"彼"はかつて脱獄に失敗し射殺された男が遺した「パンプキン王国」に迷い込み……。

~感想~
構想10年と銘打つだけはある「眩暈」、「ネジ式ザゼツキー」の系譜に連なる、いかにも御大らしい本格に仕上がった。

冒頭の猟奇的事件に続き、論文がまるまる一本挟まれるという破格の構成がまず光る。そこで語られる「大型恐竜は幻である」という論が非常に興味深い。こんな面白い話をどうして誰も教えてくれなかったんだ。
そこからさらに事件は混迷を深めると思いきや、意外にも急転直下で収束し、舞台はアルカトラズ監獄へ。
トンデモ理論の応酬のはてに、パンプキン王国への扉が開くや物語は一気にファンタジーの世界へ飛び込んでしまう超展開。並の作家ならばこのままあさっての方向へ迷走するものだが、そこはゴッド・オブ・ミステリこと島田荘司。終わってみれば全てが現実の光景へとつながるド本格の着地を見せ、最後も綺麗に閉じてみせた。
トリックもネタバレを避けて言えば、さすがに「あっち」だったら見当が付いてしまいかねないところ、「こっち」を題材にしたことで読者の意表を突くとともに、どうしても「あっち」の影に隠れてしまいがちな「こっち」にスポットを当てるという、いかにも御大らしい考えが垣間見えて心憎い。

豪快なトリックと有無を言わせぬストーリーテリングで数々の「ねーよww」を「あるあるww」に強制変換してきた御大。前作「ハロウゥィーン・ダンサー」ほどの(無かった!「ゴーグル男の怪」なんてものは無かった!)大ネタではないものの、歴史の裏側に「ありえたかもしれない」逸話をねじ込んだ、年度を代表する力作である。
これぞ本格ミステリ。島田荘司はいまだ先頭を走り続ける。


13.
評価:★★★★ 8

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