勝手に書評

私が読んだ本の書評を勝手に行います。

真夏の方程式 / 東野圭吾

2012-05-26 | 小説
タイトル : 真夏の方程式
著者 : 東野圭吾
出版社 : 文藝春秋

---感想---
東野圭吾のガリレオシリーズ。

この所、東野圭吾と言えば、新参者でおなじみの加賀恭一郎シリーズが多かったのですが、久しぶりの湯川学登場です。って言うか、はじめ、加賀が出てくると(なぜか)思い込んでいて読んでいたので、いきなり湯川が出てきて面食らいました(苦笑)。

これまでのガリレオシリーズでは、湯川は草薙や内海から頼まれて事件に取り組んで行きますが、この作品では、その“約束”を破って、湯川自ら事件に取り組むという形態を取っています。そう意味では、これまでのガリレオシリーズとは一線を画しています。加えて、これまでのガリレオシリーズでは、曲がりなりにも犯人を検挙して事件が解決されていますが、この作品では、そう言う点もこれまでとは異なっています。それらの違いから、これまでのガリレオシリーズとは違うテイストの、中々面白い作品に仕上がっています。

ところで、作中、デスメックと言うJAMSTECを彷彿させる独法が行う海洋調査に対して、環境保護運動を(一部)地元住民が行うと言う設定があります。その中で、環境保護と開発の両立を巡る「開発と環境保護を両立させるならば、その双方について同等程度の知識が必要である。一方だけを重視するのは傲慢だ。相手の仕事や考え方をリスペクトしてこそ、両立の道も拓ける」と言う湯川の発言が、実際の世界にも当てはまるのでは無いかと思われて、非常に興味深かったです。これって、いまの原発と再生可能エネルギーを巡る騒動にも当てはまりますね。

久しぶりのガリレオシリーズ。中々良かったです。

ヒート / 堂場瞬一

2012-05-20 | 小説
タイトル : ヒート
著者 : 堂場瞬一
出版社 : 実業之日本社

---感想---
堂場瞬一のスポーツ小説シリーズ最新刊。今度の舞台は、マラソンです。

ここ数年、東京マラソンとか、大阪マラソンとか、市民参加型の都市マラソン流行ですが、この物語が舞台のマラソンは、そう言う市民参加型のマラソンとは一線を画す世界記録樹立を目指す一流のマラソンになっています。確かに、お祭り騒ぎのマラソンとは異なる、とことん記録にフォーカスしたマラソン大会があってもいいかもしれません。ただ、それが知事の思いつきというところが、「本当に有りそう」と言う思いにさせるところですね(苦笑)。

舞台が神奈川県と言う事で、箱根駅伝にも触れられています。箱根駅伝は正月のイベントとしては確かに見応えがあるんですが、大学の宣伝の場であったり、その後の選手の陸上競技活動に繋がらないという箱根駅伝の功罪も、本作ではタブー視せずに触れられています。勇気あると思います。

堂場瞬一の作品に共通ですが、この作品も、最後のクライマックスは読者の想像に任せると言う書き方になっています。賛否ある書き方だと思います。時々だと、そう言う伏せた結末もいいんですが、ことごとくそう言う結末だと、ちょっとなぁと言う気もしてしまいますね。

小説・震災後 / 福井晴敏

2012-05-03 | 小説
タイトル : 小説・震災後
著者 : 福井晴敏
出版社 : 小学館文庫

---感想---
タイトルにある“震災”とは、もちろん、3.11の東日本大震災の事。一般市民の生活に焦点を当て、日本の「未来」について語っている作品。

福井晴敏と言えば、『亡国のイージス』とか、『戦国自衛隊1549』とか、『終戦のローレライ』とかの、戦争モノ・自衛隊モノが強い作家のイメージですが、この作品はそれらの作品群とは一線を画しています。原発事故を下敷きに、親子のあり方、日本人のあり方を描いており、ある意味非常に重い、そして、含蓄のある作品になっています。

読んでいて、最近の原発を巡る騒動にも関連して「そうだよなぁ。」と思うことしきりです。原発の再開にしても全面廃止にしても、もはやエネルギー議論というよりイデオロギー論になってしまっていて、本当に日本の「未来」を考えた議論になっているのかが疑問です。作中の「未来を返せ!」と言う少年のセリフを、もっとちゃんと考える必要があると思いました。

タイトルは地味ですが、内容は重厚で充実しています。考えさせられました。