勝手に書評

私が読んだ本の書評を勝手に行います。

富士覚醒 / 石黒耀

2011-07-25 | 小説
タイトル : 富士覚醒
著者 : 石黒耀
出版社 : 講談社文庫

---感想---
『死都日本』『震災列島』に続く、日本が舞台のディザスターノベル第三弾。

3.11の東日本大震災後に文庫本として出たので、巻末の「解説」、「著者あとがき」共に、東日本大震災に言及しています。特に、「著者あとがき」では、『死都日本』で使用済核燃料貯蔵プールの危険性に付いて記した点について言及し、福島第一原発事故を「素人でも予測できるレベルの原発事故」と糾弾しています。確かに、『死都日本』を読んだときは、そのプロットが東日本大震災に似ていて、驚きました。

さて、このシリーズも第三弾となり、著者も慣れてきたのでしょうか? 前二作はどちらかと言うと、想定される事態を小説として頑張って纏めたという感じで、エンターテイメント性が足りなかった印象がありますが、本書では、前二作よりはエンターテイメント性にも配慮した内容という印象を受けました。

それにしても、これら三作品は、小説という形態を取ることで、災害に対する一般啓蒙書としてはかなり高いレベルのあるのではないかと思いました。まぁ、小説なので、最悪の事態を若干煽った所もあるのではないかと思いますが、それにしても、荒唐無稽の内容ではないので、一読に値すると思います。九州、愛知、静岡と舞台が徐々に東に移ってきています。と言う事は、もし次がるとしたら、首都圏が舞台なんですかね?

震災列島 / 石黒耀

2011-07-18 | 小説
タイトル : 震災列島
著者 : 石黒耀
出版社 : 講談社文庫

---感想---
東海・東南海連動地震に見舞われた、名古屋を描いた小説。2004年、講談社より刊行されたモノの文庫化。

東日本大震災の際、大津波に見舞われましたが、この小説でも名古屋が津波に見舞われる想定になっています。しかも(!)、地震に伴い浜岡原発が電源を失い、冷却機能を喪失。そして、水素爆発を引き起こす過程など、福島第一原発事故を知っていたのではないかと思うような事態が描かれています。

話としては、地震を契機に良からぬことを目論む輩と、それに対抗しようとする家族の物語なので、ディザスター小説と思うと、ちょっと外されますが、それにしても上記の浜岡原発の事故の描き方などにはビックリします。地震の想定なども、科学的想定に基づいたものらしいので、ちょっとコワイですね。

死都日本 / 石黒耀

2011-07-09 | 小説
タイトル : 死都日本
著者 : 石黒耀
出版社 : 講談社文庫

---感想---
2002年に刊行された本の文庫化。

タイトルだけ見ると、何やらおどろおどろしい怪奇小説の様な印象を受けますが、中身は、火山噴火により国家存亡の危機に瀕する日本を描いたクライシスノベルです。

舞台は、南九州。霧島の辺りです。本書を描くに当たり、著者は色々と調べたようで、火山噴火に関する描写は微に入り細に入り描かれており、怖いほどです。3.11で1000年に一度という大災害を経験した今、描かれている超超大規模の噴火が何万年という過去に発生しており、故に、未来(あるいは、現在)に発生しないと言う事は言えず、必ずしも荒唐無稽ではないと言う事が恐ろしいですね。

ただ単に、日本の破局を描くだけでは救いが無いですが、この書では、日本が立ち直る道を示しています。その道を進んでいく日本が、日本が最終的にどうなってしまうのかの結末までは、小説の中では敢えて描かれていませんが、その未来は、我々今に生きる日本人次第であるということを示しているような気がします。

関東大震災 / 吉村昭

2011-07-02 | ドキュメント/ノンフィクション
タイトル : 関東大震災
著者 : 吉村昭
出版社 : 文春文庫

---感想---
1923年9月1日に発生した関東大震災に関して記した記録文学。

先の『三陸地震大津波』が、主に、津波被害の遭難者から聞き取った事柄を、比較的淡々と記した形態を採っているのに対し、こちらの『関東大震災』は、地震の記録の他、関東大震災をめぐる地震学者の確執なども記してあり、より“文学”と言う形に近い。また、地震の記録そのものも、遭難者からの直接の聞き取りというよりは、公式記録+αに拠っているような気がします。

内容的には、先の『三陸地震大津波』が津波被害についての啓蒙書であり、こちらの『関東大震災』が地震火災についての啓蒙書と言えるような気がします。著者の吉村昭がまだ存命であったならば、この度の東日本大震災の事は、どの様に記録を残していくのか、非常に気になります。