勝手に書評

私が読んだ本の書評を勝手に行います。

「宗谷」の昭和史 南極観測船になった海軍特務艦 / 大野芳

2012-01-29 | ドキュメント/ノンフィクション
タイトル : 「宗谷」の昭和史 南極観測船になった海軍特務艦
著者 : 大野芳
出版社 : 新潮文庫

---感想---
南極観測に関連して日本人が忘れられない出来事といえば、3次隊に発見されたタロとジロの話ですが、その頃に南極観測船として活躍していたのが、宗谷です。この書は、その宗谷を巡る数奇なもの語りが表されています。

宗谷が、自衛隊ではなく海上保安庁の船であったという事は知っていたんですが、そもそもが旧ソ連からの発注により建造された船であるということは知りませんでした。旧ソ連だから砕氷船と言うのは、理解できます。この船の数奇な運命の大部分は、この件で表されるでしょうね。その後、日本と旧ソ連の国際問題となりながらも、日本側が違約金を支払うことで日本の船となったと言うことです。その後は、御多分にもれず旧日本海軍の船となり戦地に赴くわけですが、海図制作を任務とする特務艦となったことから、激しい戦闘には参加することもなく(巻き込まれることはあったようですが)、無事終戦を迎えています。

もう一つ、この本で知ったことは、宗谷と言う非常によく似た名前の鉄道連絡船があったこと。宗谷も、稚内航路で使用された船なので、砕氷船として作られていて、日本が南極観測隊を送り込むときの南極観測船の候補にもなったと言う事で、よく宗谷と宗谷は混同されるようです。

その他、南極観測隊を巡るゴタゴタ騒ぎは、アクの強い学者たちにはありがちな話かなとは思いました。

53次隊が南極に到着し、現在52次隊からの引継ぎの最中の南極観測隊。いまの南極観測船は、宗谷の6倍もの排水量を誇るしらせ(二代)になっています。

密室の鍵貸します / 東川篤哉

2012-01-21 | 小説
タイトル : 密室の鍵貸します
著者 : 東川篤哉
出版社 : 光文社

---感想---
『烏賊川市シリーズ』第一弾。「千葉の東・神奈川の西」にあると言う烏賊川市。普通に考えると、江戸川区とか、浦安とかのあたりになりますが、どうなんでしょうね? 作中では、特に重要でもないからとそれ以上の追求はされていません。

語り口が軽妙。軽~い感じで描かれていながらも、しっかりと推理小説の基本的なところは抑えて描かれているところは、中々素晴らしいと思います。しかも、物語で起きる様々な出来事が、その後につながる伏線になっているとはね。

ハードボイルドとは一線を画す、中々面白い作品です。

マスカレード・ホテル / 東野圭吾

2012-01-14 | 小説
タイトル : マスカレード・ホテル
著者 : 東野圭吾
出版社 : 集英社

---感想---
一つの場所・時間に、様々な人が集う模様を描く物語を“グランドホテルもの”と言うらしいのですが、物語のクライマックスに向けて、様々な出来事が発生し、雰囲気を盛り上げていくこの物語は、まさしく“グランドホテルもの”です。

ウィキペディアによれば、この物語の舞台となったホテルのモデルは、水天宮のロイヤルパークホテルだそうです。物語の中では“東京駅近く”と描かれていたので、帝国ホテル?ペニンシュラ東京?とか思っていたんですが、ロイヤルパークホテルとは・・・。確かに、地下鉄の駅が直結していると描写されてはいましたが、まさかね。

いやぁ、それにしてもホテルって、本当に色んな人がいるんですね(笑)。物語の中で描かれているのは、もちろんフィクションでしょうが、完全に作者の創作なんでしょうかね?しかも、無関係と思われたある出来事が、実は、この物語の核心に迫る出来事だったというのは、「おおぉ、そう来たか。」と思わされてしまいました。上手いですね。

非常に面白い物語です。ラストシーンも、結構好きです(笑)。

下町ロケット / 池井戸潤

2012-01-08 | 小説
タイトル : 下町ロケット
著者 : 池井戸潤
出版社 : 小学館

---感想---
第145回(2011年上半期)直木賞受賞作品。

2011年の3.11以降、“日本を元気に”とすると言う形で取り上げられることも有ったと思います。400ページほどの作品ですが、イッキに読んでしまいました。『空飛ぶタイヤ』『鉄の骨』など大企業vs個人(or中小企業)も池井戸潤の作品ですが、この『下町ロケット』もその系譜に繋がる作品といって良いのではないでしょうか。

フィクションなのですが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に相当する組織が宇宙科学開発機構と、パッと見そのままのような名前で出ています。東京大学宇宙航空研究所と言う描写も、現実では、JAXAの宇宙科学研究所の事なんでしょうね。もっとも、現実の宇宙研は、昔は確かに東大の組織でしたが、いまはその名の通り、JAXAの組織になっています。

ただ、作者が文系の人間ですからなのか、特許とかに関しての描写が甘いような気がします。まぁ、特許の話を詳しく書いても面白く無いので、良いのかも知れませんが、何か、作者自身が深く理解しないで書いているように思えました。(分かっていない人から説明されると、説明を受けた側はもっと分からなくなる)

ちょっと厳しいことも書きましたが、物語としては面白いです。必ずしも“日本を元気に”と言うテーマでは無いと思いますが、読み物としては良いと思います。