見もの・読みもの日記

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椿姫、リゴレット/オペラ映画フェスティバル(写真美術館)

2008-12-28 21:41:45 | 見たもの(Webサイト・TV)
○東京都写真美術館 『オペラ映画フェスティバル-イタリアオペラ 名作の森-』(2008年12月13日~12月28日)

http://gakugakai.com/

 このブログには「聴いたもの」のカテゴリーを立てていないが、何を隠そう、私はオペラファンである。最近、劇場に足を運ぶ機会はないが、こうやって書きものをしているときのBGMはオペラ音楽が多い。9連休の年末、結局、遠出の計画が立たなかったので、映画でも見に行こうと思って、この特集上映を見つけた。

 フランコ・ゼッフィレッリ監督の『椿姫(→詳細)』は1982年の制作で、日本では1985年に公開されている。80年代、人気テナーのプラシド・ドミンゴ(1941-)をフィーチャリングしたオペラ映画『椿姫』『カルメン』『オテロ』『道化師(※これだけ未見)』が次々に制作されたが、私は、この『椿姫』が、最も成功した作品だと思っている。

 なんと言っても、演じ手が、歌唱も容姿も最高。アルフレード役のドミンゴはこのとき41歳か。当時は若づくりしすぎだと思ってちょっと引いたが、今見ると違和感がない。演技だと分かっていても、世間知らずで無鉄砲な純情ぶりに惚れ直してしまう。ヴィオレッタのテレサ・ストラータス(1938-)は、導入部では若づくりの無理を感じたが、物語に引き込まれるにつれて気にならなくなった。生き急ぐように激しく走りまわる小柄な姿が、薄幸な運命を感じさせる。パリの社交界の雰囲気を再現した画面の豪華絢爛ぶりは、妥協なし。バレエがまた、いいのよねえ。田園風景の美しさは、舞台では絶対に出来ない演出である。

 『椿姫』は何度も聴いている作品だから、いまさら泣かないだろうと思っていたが、ドラマと歌唱に引き込まれて、泣いてしまった。私ばかりではなくて、終わったあと、涙を拭いている観客があまりに多いことにびっくりした。悪役は誰もいなくて、みんな善人ばかりなのに、逃れられない悲劇の罠が狭まっていく緊迫感は、近松の『天網島』に似ている、と言ったら唐突かしら。

 映画のラストシーンでは、なぜかアルフレードたちの姿が画面から消え、ひとりぼっちのヴィオレッタが床に崩れ落ちて息絶える。この演出は「アルフレードが訪ねてきたのは、ヴィオレッタの夢だった」(あるいは、ヴィオレッタ邸の財産を運び出しにきて、彼女の肖像画に魅せられた若者の夢?)を表しているのだろうかと、公開当時、ずいぶん論議になったように思う。私は、孤独に死んでいく姿はヴィオレッタの自己イメージで、実際の肉体は、アルフレードの腕に抱かれて息絶えるものと思いたい。ときどき、先日の飯島愛ちゃん急死のニュースが頭を過ぎっていたのは私だけだろうか。

 やっぱりオペラはいいなあ、とすっかり堪能したので、翌日の『リゴレット(→詳細)』も見に行ってしまった。1982年の制作で、マントヴァ公爵を演じるパバロッティの若々しいこと! ジルダ役のグルベローヴァの歌唱も素晴らしかった。でも私は、ジュリーニの『リゴレット』(1979年)を愛聴盤にしていたので、ちょっと端正さで劣るような気もした。あと『リゴレット』は、演劇的にあまりにも完成され過ぎているために、写実的な映画フィルムに落とすと、やや違和感が残る(四重唱の場面とか)。きっと『椿姫』のほうが文学的なんだろうな。

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2 コメント

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懐かしい歌手達 (ししまる)
2008-12-29 10:25:58
ちょうど学生の頃、きらめく如くの歌手達に自分の夢をのせながら聞き入っていたことを思い出しました。
レコードからCDへ、そして、ビデオや映画でオペラが見れる、クラシック界も大きく変化していった時代でした。
多くの歌手が現役を引退されていますが、スクリーンで再び会える喜びがありますね。
フレーニのミミ、グルベローヴァのルチア、
いろんなことを勉強されられました。
Unknown (jchz)
2008-12-29 20:40:11
> 多くの歌手が現役を引退されていますが、スクリーンで再び会える喜びがありますね。

ほんとにその通りです。画面に釘付けになっている間、時間が戻ったようでした。彼らの最盛期を知らない世代にも、いつまでも愛されてほしいなあと思います。

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