○三井記念美術館 特別展『琵琶湖をめぐる近江路の神と仏 名宝展』(2012年9月8日~11月25日)
この秋、いちばん楽しみにしていた展覧会なので、初日からGO。いそいそと7階の美術館に向かおうとして、1階ロビー(アトリウム)で開催されている写真パネル展に気づいた。『水と神と仏の近江』(9月8日~23日、無料)である。仏像もいいが、風景写真がきれい。カメラマンは?と思って名前を探したら、小さく「寿福滋」とあって、ハッとした。『近江の祈りと美』(サンライズ出版、2010)の写真を撮られた方だ、とすぐに思い出した。さらに、パネルをめぐらせた展示区画の外に、薄いリーフレットが控えめに置かれていて、この写真パネル展の主催者が休館中の滋賀県立琵琶湖文化館だと分かったときは、ちょっと動揺するくらい感激した。おかしな言い方だけど、私は、そのくらい近江路が好きなのである。
本題。展示室1、2は小金銅仏と金工品。冒頭は、善水寺の『誕生釈迦仏立像』である。親指を内側にたたんだ小さな手に見とれた。次が聖衆来迎寺の薬師如来立像。右手で衣の端を掴んだポーズに記憶がある。側面や裏面にまわってみると、衣が身体にぴったり密着していて、動きやすそうだなと思った。報恩寺の観世音菩薩立像は、全体のバランスといい、表情といい、幼女のようにかわいい。左右に垂れた瓔珞がツインテールに見える。
展示室4が彫刻(仏像)。入口からチラリと見ただけで、期待で動悸が早まる。全部で、24、5体もあっただろうか。中に入ったら、その倍くらいの観客が集っていて、笑ってしまった。みんな熱心だな~。以前、2010年の『奈良の古寺と仏像(會津八一展)』のときに感じたのだが、ここの展示ケースの奥行きは、書画とか茶道具、せいぜい屏風の展示に適したサイズだと思う。そのため、大きな仏像を入れると、ガラス越しとはいえ、ものすごく接近した状態で鑑賞することができる。寺院ではもちろん、一般の展覧会でも、まずあり得ない距離なので、プロの学芸員になったみたいで嬉しい。
突き当たりの展示ケースには、特に大ぶりな立像4体が並んでいたが、ノミの目、歳月が露わにした地の木目、表面の漆(?)の剥げ残り具合など、拡大カメラでなめるように、しげしげ眺めることができた。櫟野寺の十一面観音立像は鼻梁の高い顔立ちが好き。八頭身体型で、台座に乗っているので、さらに顔が小さく感じられる。永昌寺の地蔵菩薩像は、翻波式衣文の鋭いノミさばきが印象的だった。いま図録写真を見ると、どちらも全く印象が異なるのが不思議だ。
展示室5には重文の神像彫刻が2件。小槻神社の男神坐像(伝大己貴命、伝落別命)は、もう少し展示位置を高くしてほしかった。特に伝落別命は、眉、眼球、上唇などを強調した特異な表情をしている。この迫力を味わうには、床に跪いて、鑑賞者の視線を低くする必要がある。建部大社の女神坐像は、何度も見たことがあるが、完全に裏側を見ることができたのは初めてだと思う。衝撃! 表(オモテ)面しか残っていないんだな。裏面が残っていて、体躯の厚みが感じられたら、正面の印象も少し違ったかもしれない、と思った。
最後の展示室7は全て仏画。しかしコーナータイトルの「密教関係」「釈迦関係」って、ちょっと素っ気なさすぎじゃないか?と可笑しかった。だいたい記憶にある作品が多かったが、仏画は前中後期で完全入れ替えらしい。図録を見ると、私の好きな長命寺の勢至菩薩像(元時代)は後期(10/30~)に入っている。むかし、琵琶湖文化館で初めて見たときの記憶はいまも鮮明だ。
ところどころに設けられた、パネルによる近江の風土紹介もよかった。特に展示室6の「神体山と近江の神々-八王子山・三上山・竹生島-」はじっくり読みこんでしまった。いちおう図録に文章は採録されているのだが、会場のパネルのほうが、写真や地図が添えてあって、分かりやすい。
寺社の名前をたくさん見ているうち、また近江に行きたくなってきたので、「神仏います近江」のパンフレットを貰って帰ってきた。交通の便が都市型じゃないし、拝観要予約の寺社が多いから、いろいろ大変なんだけどね。
※神仏います近江(社団法人びわこビジターズビューロー)
「ダウンロード」からパンフレットも入手できる。
この秋、いちばん楽しみにしていた展覧会なので、初日からGO。いそいそと7階の美術館に向かおうとして、1階ロビー(アトリウム)で開催されている写真パネル展に気づいた。『水と神と仏の近江』(9月8日~23日、無料)である。仏像もいいが、風景写真がきれい。カメラマンは?と思って名前を探したら、小さく「寿福滋」とあって、ハッとした。『近江の祈りと美』(サンライズ出版、2010)の写真を撮られた方だ、とすぐに思い出した。さらに、パネルをめぐらせた展示区画の外に、薄いリーフレットが控えめに置かれていて、この写真パネル展の主催者が休館中の滋賀県立琵琶湖文化館だと分かったときは、ちょっと動揺するくらい感激した。おかしな言い方だけど、私は、そのくらい近江路が好きなのである。
本題。展示室1、2は小金銅仏と金工品。冒頭は、善水寺の『誕生釈迦仏立像』である。親指を内側にたたんだ小さな手に見とれた。次が聖衆来迎寺の薬師如来立像。右手で衣の端を掴んだポーズに記憶がある。側面や裏面にまわってみると、衣が身体にぴったり密着していて、動きやすそうだなと思った。報恩寺の観世音菩薩立像は、全体のバランスといい、表情といい、幼女のようにかわいい。左右に垂れた瓔珞がツインテールに見える。
展示室4が彫刻(仏像)。入口からチラリと見ただけで、期待で動悸が早まる。全部で、24、5体もあっただろうか。中に入ったら、その倍くらいの観客が集っていて、笑ってしまった。みんな熱心だな~。以前、2010年の『奈良の古寺と仏像(會津八一展)』のときに感じたのだが、ここの展示ケースの奥行きは、書画とか茶道具、せいぜい屏風の展示に適したサイズだと思う。そのため、大きな仏像を入れると、ガラス越しとはいえ、ものすごく接近した状態で鑑賞することができる。寺院ではもちろん、一般の展覧会でも、まずあり得ない距離なので、プロの学芸員になったみたいで嬉しい。
突き当たりの展示ケースには、特に大ぶりな立像4体が並んでいたが、ノミの目、歳月が露わにした地の木目、表面の漆(?)の剥げ残り具合など、拡大カメラでなめるように、しげしげ眺めることができた。櫟野寺の十一面観音立像は鼻梁の高い顔立ちが好き。八頭身体型で、台座に乗っているので、さらに顔が小さく感じられる。永昌寺の地蔵菩薩像は、翻波式衣文の鋭いノミさばきが印象的だった。いま図録写真を見ると、どちらも全く印象が異なるのが不思議だ。
展示室5には重文の神像彫刻が2件。小槻神社の男神坐像(伝大己貴命、伝落別命)は、もう少し展示位置を高くしてほしかった。特に伝落別命は、眉、眼球、上唇などを強調した特異な表情をしている。この迫力を味わうには、床に跪いて、鑑賞者の視線を低くする必要がある。建部大社の女神坐像は、何度も見たことがあるが、完全に裏側を見ることができたのは初めてだと思う。衝撃! 表(オモテ)面しか残っていないんだな。裏面が残っていて、体躯の厚みが感じられたら、正面の印象も少し違ったかもしれない、と思った。
最後の展示室7は全て仏画。しかしコーナータイトルの「密教関係」「釈迦関係」って、ちょっと素っ気なさすぎじゃないか?と可笑しかった。だいたい記憶にある作品が多かったが、仏画は前中後期で完全入れ替えらしい。図録を見ると、私の好きな長命寺の勢至菩薩像(元時代)は後期(10/30~)に入っている。むかし、琵琶湖文化館で初めて見たときの記憶はいまも鮮明だ。
ところどころに設けられた、パネルによる近江の風土紹介もよかった。特に展示室6の「神体山と近江の神々-八王子山・三上山・竹生島-」はじっくり読みこんでしまった。いちおう図録に文章は採録されているのだが、会場のパネルのほうが、写真や地図が添えてあって、分かりやすい。
寺社の名前をたくさん見ているうち、また近江に行きたくなってきたので、「神仏います近江」のパンフレットを貰って帰ってきた。交通の便が都市型じゃないし、拝観要予約の寺社が多いから、いろいろ大変なんだけどね。
※神仏います近江(社団法人びわこビジターズビューロー)
「ダウンロード」からパンフレットも入手できる。
昨年の「神仏います近江展」を髣髴とさせる内容で、昨秋の感動がよみがえります。
同時期に東京のみで開催中の展覧会と合わせて、訪問できる機会があればと切望しているところです。
私が近江をより好きになったきっかけは、2010-2011年の滋賀県美・愛媛県美・世田谷美を巡回した「白洲正子展」で、その後、白洲さんの随筆を読んで、偏愛するようになりました。
近江という土地には、言葉では何とも表現しがたい魅力があります。
決して信心深い方ではないのですが、そこかしこに神仏がいるような空気感があり、本文中にも言及されている寿福さんの写真を見るとそんな印象をより強く感じます。
話は変わって、9月1日の記事は、「しかし、周辺地域の…」から始まる第7段落に強い共感を覚えつつ拝読しました。
話は戻って、昨秋の「神仏います近江展」の図録ですが、東博のミュージアムショップにあったのを見て、「さすが東博」と妙に感心しました。
また、当時展覧会会場で流していた展覧会のプロモーション映像がとても秀逸で、「商品化して販売して頂けませんよね?」とバカなことをグッズ売り場の方に尋ねたことを思い出しました。
新年には、静岡市美術館で「近江巡礼 祈りの至宝展」を開催するようです。
今年前半に地元紙に出ていた記事によると、文化館の事実上の閉館もあり、滋賀県は積極的に収蔵品を貸し出して活用する方向のようです。
何だか、どうしようもない駄文となりましたが、お詫び申し上げて、コメントを閉めます。
失礼致します。
どなたからのコメントも嬉しく拝読しておりますが、何事にもすばやく反応できない性質で、お返事の機を逃してしまって申し訳ありません。(※他の方々にも)
静岡市美術館の展覧会の情報は初めて知りました。ありがとうございます! 琵琶湖文化館には、いろいろ思い出と思い入れがあるので、ぜひ行ってみたいと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いします。
http://blog.goo.ne.jp/jchz/e/191e151c37809a2885ce45079b36db5e
私も本の存在を知ってから、実際に書店で出会うまで、ずいぶん時間がかかったことを思い出します。
最近は図書館も、人気のある本しか置かなくなっているのは、悲しい風潮だと思います。
あの本を読んでから、近江八幡と聞くと、ヴォーリーズ→清水安三という連想が浮かぶようになりました。