〇甲斐みのり『地元パン手帖』 グラフィック社 2016.2
食べ物や食べ物屋さんの写真を集めた本は、ときどき、手元に置いて眺めたくなる。これまでも、蕎麦とか餃子とかスイーツとかの本を取り上げてきた。本書は、食パン、メロンパン、菓子パン、総菜パンなど、その土地で長年愛される「地元パン」を200個超集めたものである。
著者によれば、日本人が朝や昼に食事としてパンを食べるようになったのは戦後からで、地域色の強いパンを扱うパン屋の多くが、昭和20~30年代に創業し、学校給食を手がけてきた歴史があるという。私は昭和30年代の生まれだが、小学校の給食はずっとパンだった。小学生の頃、近所のパン屋さんでは、ガラスケースの中のパンを指さすと、店員さんがトングで取って、白い紙袋に入れて(ちょっと端を折って)くれたのを覚えている。店内のパンを自分でトレイに乗せる方式のパン屋さんができたのは、もう少しあとのことだった。
本書に紹介されているパンには、たぶんセルフサービス方式のパン屋で売られているものと、個別包装式のものが混じっており、後者のほうがやや多い気がする。ちなみに私が経験した、小学校の給食のパンは無包装だった。個別包装式のパンに親しむようになったのは、コンビニでパンを買うようになった1970年代以降である。
と、パンにまつわる自分の記憶を確かめたくなるような、懐かしい写真が本書には満載である。私は旅行好きで、いろいろと引っ越しを重ねていることもあり、けっこう知っている「地元パン」が目についた。まず北海道といえば、チョコレートと見せかけて羊羹でコーティングした羊羹パン。ビタミンカステラも覚えがある。小樽・正福屋のぱんじゅう。ベビーカステラもこの紙袋(福助マーク)だった。高知の帽子パンは、高知駅ナカのパン屋で買った覚えがある。京都・志津屋のカルネももちろん知っている。鳥取・境港の鬼太郎パンは、持ち歩きが心配で買えなかったのが心残り。長野の食パンピーナツとか青森のイギリストーストのように、なぜか既視感があって、どこかで見ているのか、類似品を見たのか、謎の解けないものもあった。
パンも美味しそうだが、それ以上に楽しいのは、包装袋のデザインである。透明な袋は中身のパンを見せるものだがら、その邪魔にならない程度に、しかしお店の棚で目立つよう、明るく素朴なデザインが、1~2色の色づかいで印刷されている。品名は日本語表記が主。「カステラ」「かすてら」のさまざまな字体を眺めるだけで面白く、飽きない。裏表紙には、パンを抜き取った包装紙だけの集合写真もあり、巻末に「パンや店のロゴ」集もついている。たぶん昭和30~40年頃のテイストが濃厚で、とてもなつかしい。
こうしたパンは、もはや郷土銘菓の範疇だと思う。とはいえ、収集を始めて10年という著者によれば、本書の制作中に店主が高齢で店を畳んでしまった例もあるというし、私も東京で、地元に愛されながら閉店したパン屋がいくつか頭に浮かぶ。可能な限り長く続いてほしいが、いつまでもあると思うなとも肝に銘じておこう。
食べ物や食べ物屋さんの写真を集めた本は、ときどき、手元に置いて眺めたくなる。これまでも、蕎麦とか餃子とかスイーツとかの本を取り上げてきた。本書は、食パン、メロンパン、菓子パン、総菜パンなど、その土地で長年愛される「地元パン」を200個超集めたものである。
著者によれば、日本人が朝や昼に食事としてパンを食べるようになったのは戦後からで、地域色の強いパンを扱うパン屋の多くが、昭和20~30年代に創業し、学校給食を手がけてきた歴史があるという。私は昭和30年代の生まれだが、小学校の給食はずっとパンだった。小学生の頃、近所のパン屋さんでは、ガラスケースの中のパンを指さすと、店員さんがトングで取って、白い紙袋に入れて(ちょっと端を折って)くれたのを覚えている。店内のパンを自分でトレイに乗せる方式のパン屋さんができたのは、もう少しあとのことだった。
本書に紹介されているパンには、たぶんセルフサービス方式のパン屋で売られているものと、個別包装式のものが混じっており、後者のほうがやや多い気がする。ちなみに私が経験した、小学校の給食のパンは無包装だった。個別包装式のパンに親しむようになったのは、コンビニでパンを買うようになった1970年代以降である。
と、パンにまつわる自分の記憶を確かめたくなるような、懐かしい写真が本書には満載である。私は旅行好きで、いろいろと引っ越しを重ねていることもあり、けっこう知っている「地元パン」が目についた。まず北海道といえば、チョコレートと見せかけて羊羹でコーティングした羊羹パン。ビタミンカステラも覚えがある。小樽・正福屋のぱんじゅう。ベビーカステラもこの紙袋(福助マーク)だった。高知の帽子パンは、高知駅ナカのパン屋で買った覚えがある。京都・志津屋のカルネももちろん知っている。鳥取・境港の鬼太郎パンは、持ち歩きが心配で買えなかったのが心残り。長野の食パンピーナツとか青森のイギリストーストのように、なぜか既視感があって、どこかで見ているのか、類似品を見たのか、謎の解けないものもあった。
パンも美味しそうだが、それ以上に楽しいのは、包装袋のデザインである。透明な袋は中身のパンを見せるものだがら、その邪魔にならない程度に、しかしお店の棚で目立つよう、明るく素朴なデザインが、1~2色の色づかいで印刷されている。品名は日本語表記が主。「カステラ」「かすてら」のさまざまな字体を眺めるだけで面白く、飽きない。裏表紙には、パンを抜き取った包装紙だけの集合写真もあり、巻末に「パンや店のロゴ」集もついている。たぶん昭和30~40年頃のテイストが濃厚で、とてもなつかしい。
こうしたパンは、もはや郷土銘菓の範疇だと思う。とはいえ、収集を始めて10年という著者によれば、本書の制作中に店主が高齢で店を畳んでしまった例もあるというし、私も東京で、地元に愛されながら閉店したパン屋がいくつか頭に浮かぶ。可能な限り長く続いてほしいが、いつまでもあると思うなとも肝に銘じておこう。