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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2012秋@関西:石山寺縁起絵巻の全貌(滋賀県立近代美術館)

2012-10-09 23:57:06 | 行ったもの(美術館・見仏)
滋賀県立近代美術館 企画展『石山寺縁起絵巻の全貌~重要文化財七巻一挙大公開~』(2012年10月6日~11月25日※)

 この旅行は、先々週の突発的関西行きより先に決まっていたのだが、同行予定だった友人が体調を崩して取りやめたこともあり、週末、東京にもいろいろ魅力的なイベントがあったので、かなり迷った。けれども、結局、一期一会の確率が高いほうを選ぶことにして、ひとりで西に向かった。

 初日の目的は、まずこれ。石山寺が所蔵する重要文化財本全7巻を一挙公開する初の試みである。これは不思議な成立の経緯を持つ絵巻物であったはず、と解説パネルで確認(以下は図録から)。

・巻1~3:絵は高階隆兼派(鎌倉時代末期)、詞書は洞院杲守(南北朝時代後半)。
・巻4:絵は土佐光信(室町時代)、詞書は三条西実隆(室町時代)
・巻5:絵は絵師不明(南北朝時代)、詞書は冷泉為重(南北朝時代)
・巻6~7:絵は谷文晁(江戸時代19C初)、詞書は飛鳥井雅章(江戸時代17C中葉)

 過去の記録を調べたら、私は東博で巻7を、京博で巻3を見ているらしい。記憶に新しいのは、2009年、そごう美術館の『石山寺の美』展で、江戸時代の模本をいくつか見ながら、いつか本物を見たいなあと願ったことをよく覚えている。以下に梗概と私の注目ポイントを記しておくと、

・巻1:石山寺創建の由来と、その後の(平安初期の)霊験譚。導入部の背景の山並みがものすごく綺麗。緑と青、わずかな黄の作り出す様式美。水クラゲが立ち上がったような樹林の表現。琳派だ~と思った。続いて、大工、楽人、僧侶、御幸に従う貴族たちなど、さまざまな身分の人々が、ストーリーに関係なく、自由な表情を垣間見せる。

・巻2:引き続き、さまざまな霊験譚。道綱母も登場。後半の、歴海和尚が寺内の古池(龍穴)で龍たちの点呼を取る図がかわいい。いろんな龍がいるものだ。紺碧の池に桜吹雪の散りしく深山の風景も美しい。

・巻3:東三条院の石山寺参詣の図が冒頭から大半を占める。巻末に春日権現絵巻を思わせる雪景色あり。

・巻4:冒頭に紫式部。この絵巻は女性の登場が多い。あと、夢告譚も目立って多い。承暦年間に石山寺が火災に遭い、本尊観世音菩薩が火中から飛び出して、池の中島の柳の枝にかかってきらきら輝いた霊験譚を記す。いまの石山寺のあの池だ、と分かるところがすごい。

・巻5:この巻も夢告譚から。中ほどに登場する巨体の牛がインパクトあり。井戸のそばの小童が洋猫みたいな顔立ちの猫を抱いている。鳥羽院、藤原忠実など、登場人物は平安末期。

・巻6:頼朝の乳母・亀谷禅尼の信仰あつく、石山寺は関東御願寺となる。それにしても、谷文晁の画力というか、古典の模倣力はすごい。特にこの巻では、たぶん『平治物語絵巻・三条殿夜討巻』を参考にしているんだろうけど、猛火の表現がすごい。

・巻7:これは私のいちばん好きな巻。巻6の猛火に対して、こちらは、黒雲の下、逆巻く波濤のすさまじさを表現する。巻6の猛火はお手本があるが、こっちは文晁のオリジナルだろう。よく見ると、暗い波間に沈んでいる男たちが亡霊のように描かれており、応挙の『七難七福図巻』の水難図を思わせる。

 眼福~。模本や関連資料も多数出ており、特に興味深かったのは、京博が所蔵する『石山寺縁起絵詞』(南北朝時代)。重要文化財本全7巻の詞書とほぼ同一のテキストだけを筆写しており、絵の入るべきところには「絵」と記されている。当初から7巻33段の構想があったことを示す資料と言える。なるほど、絵巻って、こうやって作られていくのか…というのが、生々しく感じられた。でも図録の解説を読むと、現存絵巻のテキストとの微妙な差異が、また重要らしい。

※なお、上記会期のうち、重要文化財本7巻が全て見られるのは、10月6日~14日と11月13日~25日のみ。でも短期間でも、一度で全部見られる期間を設けてくれたのは、遠くから行く者にとって、たいへんありがたく、良心的だと思う。

 このあとは、京都・東寺にまわって『弘法大師行状絵巻』12年ぶり全巻展示(前後期入れ替えあり)も見ていこうと思っていた。ところが、宝物館は、てっきり17時閉館(16時半入館終了)だと思っていたら、16時半閉館(16時入館終了)だった。私が宝物館に到着したのは、16時10分過ぎくらい。「ダメですか?」と、一度はすがったのだが「もうレジ閉めちゃったんで…」と受付のお兄さんに言われて諦めた。ビジネスライクだなあ、東寺。寺としては、ちょっとガッカリだが、これだけシステマティックに経営をしている状況では仕方あるまい。

 少し早いが、大津の街へ。昨年に続き、大津祭の宵宮を楽しむ。今年の写真は後ほど。

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御礼(その1) (鴨脚)
2012-11-14 22:34:17
いつも楽しく拝読しております。
こちらの紹介を読んで行きたかったのですが、仕事に忙殺されて、休みが取れない状態・・・。それでも先週無理やり休んで見に行きました。
無理をして行った甲斐のある展覧会でした。情報、本当にありがとうございました。
印象に残った場面は、第7段の庭先で薙刀を回す男や戯れる男たち、第9段の繋がれた猫(江戸期まで犬は放し飼い、猫は繋がれる)や赤子の姿、第13段の行列を見物する子どもたち、第24段の場面全体などなどです。詞書にない人物たちに見入ってしまい、とても楽しかったです。半日をかけて、行きつ戻りつじっくり拝見しました。主催者には申し訳ないけど、空いていたのがなによりうれしかったです(絵巻の展覧会は、大概大混雑になるので、本当に鬱になる・・・)。
ただ、解説(カタログも)に誤字が多いのが気になりました。例:<第10段>帝子院(宇多法皇)→亭子院、二生→二世<23段>、山科実雄→山階実雄<29段32段>など。
カタログも模本の写真を沢山掲載して大変良くできていますが、誤字が多くて読みづらい(正誤表が挟んでありましたが)のが返す返す残念なことでした。
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