○国立劇場 平成25年9月声明公演『天野社の舞楽曼荼羅供』(2013年9月14日、14:00~)
この公演の開催を知ったのは6月頃だったろうか。あぜくら会向けの前売開始日に速攻で予約した。
天野(あまの)社とは、和歌山県伊都郡かつらぎ町にある丹生都比売神社のこと。まだ訪ねたことはないが、2012年の和歌山県博の特別展『高野山麓 祈りのかたち』で、この神社の名前を覚えたあと、翌日、粉河寺から橋本に向かう途中の駅のホームに「丹生都比売神社(天野社)」への案内を見つけて、ハッとした記憶がある。その天野社では、20年に一度遷宮の後、華やかな舞楽を伴う法要が、鎌倉時代から江戸時代まで盛大に行われてきたが、天保10年(1839)の執行を最後に百七十年間、途絶えていた。本公演は、平成26年(2014)に本殿修復が完成し、遷宮が行われるに当たり、舞楽曼荼羅供を「芸能公演としてまず復興」したものである。…というのは、公演が終わってから、プログラムの解説を読んで把握したこと。声明好き・舞楽好きの私は、当日、とりあえずワクワクしながら席についた。
無人の舞台は、すでに幕が上がっている。開演前なら写真を撮ってもいいことを係員に確認して(二階席から)撮影した。

手前中央が舞楽のステージ。左右に楽人の座がある。一段高い奥のステージは法要を行うところで、プログラムには「道場」とある。中央に大阿闍梨の座(公演では客席側を向いて着座)。その左右に十数人ずつの僧侶が着座した。舞台の最奥には、金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅が掲げられている。
プログラムに掲載されている「次第」をなるべく忠実に写しておくと、こんな感じ。
・集会之鐘(しゅうえのかね)
・出仕之鐘(しゅっしのかね)
・集会乱声(しゅうえらんじょう)
・【舞楽】振鉾(えんぶ)一節二節
開演時刻の数分前、どこからともなく鐘(銅鑼?)が響き、薄明の舞台に、左右から楽人が入場。やがて客席が暗くなり、舞台が明るくなると、演奏が始まる。はじめに左方(南都楽所)の舞人が「振鉾」一節を舞い、次に右方(天王寺楽所雅亮会)が舞う。
・【管弦】鳥向楽(ちょうこうらく)=迎楽
・庭讃(ていさん)、四智梵語(しちぼんご)、反音(へんのん)
・大阿闍梨登礼盤(だいあじゃりとうらいばん)
・【管弦】白柱(はくちゅう)
・惣礼(そうらい)
・供花(くけ)
左右の楽人とは別に、烏帽子・直垂姿の六人(鳳笙・篳篥・龍笛 各2)が登場し、行道の楽を奏でる。花道を30人ほどの僧侶の集団が進んでくる。先頭には、法螺貝・銅鑼・銅拍子(?)を奏でる僧侶(各2)。単純な旋律を繰り返すだけなのだが、法螺貝の音がものすごく気持ちいい。大好きだ。僧侶の集団は、力強く真言を唱え、沓音高く舞楽舞台を縦断して、檀上に上がる。赤い傘を差し掛けられていた大阿闍梨が着座。花が供えられる。大阿闍梨は本格的に諸仏の供養を始める。僧侶たちの読誦、斉唱、合唱が繰り返される。
・表白(ひょうひゃく)、諷誦文(ふじゅぶみ)、発願(ほつがん)、四弘(しぐ)、仏名(ぶつみょう)、教化(きょうげ)、神分(じんぶん)、云何唄(うんがばい)、散華(さんげ)、対揚(ついよう)
・【管弦】慶雲楽(きょううんらく)=散華行道楽
このへんの順序は定かでない。会場内の電光掲示板の解説もあまり詳しくなかったし、プログラムも「次第」と「曲目解説」と「(声明の)本文」とに、少しずつ異動がある。
休憩後、後半に移る。
・唱礼(しょうれい):五悔(ごかい)、発菩提心真言(はつぼだいしんしんごん)、三昧耶戒真言(さんまいやかいしんごん)、勧請(かんじょう)、五大観(ごだいかん)
・普供養・三力(ふくよう・さんりき)
・理趣経 中曲(りしゅきょう ちゅうきょく)
・【舞楽】陵王(りょうおう)
電光掲示板に「唱礼」と表示されて、僧侶たちが真言を唱え始めた。と思ったら、左方の楽人が、どこかで聞いたような曲を奏で始めた(打楽器だけ?)。そして、燃えるようなオレンジ色の装束をまとい、黄金の仮面を被った陵王が、威風堂々、舞台に登場。聞き馴れた出だしの旋律とは、似て非なる登場だったので、え?ええ?!とうろたえる。僧侶たちの念誦のメロディに乗って、陵王は平然と(いつもの?)曲を舞い始めた。びっくりした。昨年、『四天王寺の聖霊会』公演を見たが、あくまで舞楽は舞楽、法要は法要の別パートだった。こんなふうに僧侶の念誦(声明)と同時進行で舞楽が行われるなんて、考えてもいなかったので、頭の中が真っ白になるくらい驚く。
奏楽は、僧侶の念誦のメロディに遠慮しているようで、はじめ管楽器が加わっていなかったように思う。途中で篳篥と龍笛が加わったが、笙は最後の最後まで加わらなかった。
・唱礼(しょうれい):三十七遍合殺(さんじゅうしちへんかっさつ)
・【管弦】裹頭楽(かとうらく)=合殺行道楽
・後讃(ごさん):四智漢語(しちかんご)、心略漢語(しんりゃくかんご)、供養讃(くようさん)
・後唱礼(ごしょうれい):普供養・三力(ふくよう・さんりき)、小祈願(しょうきがん)、礼仏(らいぶつ)、廻向(えこう)
・廻向方便(えこうほうべん)
・【舞楽】狛桙(こまぼこ)
ということは、次の「狛桙」も…と思っていたら、予想どおり。「三十七遍合殺」(ひたすら「毘盧遮那仏」と唱える)を挟み、「後讃」の念誦とともに、右方の舞人が登場して舞う(四人舞)。遠慮がちな奏楽を伴うが、カラフルで長いバーを携えて、ぴょこぴょこ屈伸する「狛桙」の所作は、体操みたいでかわいい。
・還列讃(四智梵語)(かんれつさん しちぼんご)
・反音(へんのん)
・【管弦】長慶子(ちょうけいし)
僧侶たちは、再び隊列を組んで、花道より退場。楽人は、おなじみ「長慶子」を奏して、静かに退場する。
ううむ、どのへんまでが記録に基づく復元なのか、公演用に整えられたのか、定かでないが、面白かった。耳で声明の旋律を愉しみながら、目で舞楽を愉しむというのは、ほかではできない経験だったと思う(電光掲示板で声明の本文を追っていたので、さらにあわただしかった)。できるものなら現地で行われる法要も参観してみたいものだ。
この公演の開催を知ったのは6月頃だったろうか。あぜくら会向けの前売開始日に速攻で予約した。
天野(あまの)社とは、和歌山県伊都郡かつらぎ町にある丹生都比売神社のこと。まだ訪ねたことはないが、2012年の和歌山県博の特別展『高野山麓 祈りのかたち』で、この神社の名前を覚えたあと、翌日、粉河寺から橋本に向かう途中の駅のホームに「丹生都比売神社(天野社)」への案内を見つけて、ハッとした記憶がある。その天野社では、20年に一度遷宮の後、華やかな舞楽を伴う法要が、鎌倉時代から江戸時代まで盛大に行われてきたが、天保10年(1839)の執行を最後に百七十年間、途絶えていた。本公演は、平成26年(2014)に本殿修復が完成し、遷宮が行われるに当たり、舞楽曼荼羅供を「芸能公演としてまず復興」したものである。…というのは、公演が終わってから、プログラムの解説を読んで把握したこと。声明好き・舞楽好きの私は、当日、とりあえずワクワクしながら席についた。
無人の舞台は、すでに幕が上がっている。開演前なら写真を撮ってもいいことを係員に確認して(二階席から)撮影した。

手前中央が舞楽のステージ。左右に楽人の座がある。一段高い奥のステージは法要を行うところで、プログラムには「道場」とある。中央に大阿闍梨の座(公演では客席側を向いて着座)。その左右に十数人ずつの僧侶が着座した。舞台の最奥には、金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅が掲げられている。
プログラムに掲載されている「次第」をなるべく忠実に写しておくと、こんな感じ。
・集会之鐘(しゅうえのかね)
・出仕之鐘(しゅっしのかね)
・集会乱声(しゅうえらんじょう)
・【舞楽】振鉾(えんぶ)一節二節
開演時刻の数分前、どこからともなく鐘(銅鑼?)が響き、薄明の舞台に、左右から楽人が入場。やがて客席が暗くなり、舞台が明るくなると、演奏が始まる。はじめに左方(南都楽所)の舞人が「振鉾」一節を舞い、次に右方(天王寺楽所雅亮会)が舞う。
・【管弦】鳥向楽(ちょうこうらく)=迎楽
・庭讃(ていさん)、四智梵語(しちぼんご)、反音(へんのん)
・大阿闍梨登礼盤(だいあじゃりとうらいばん)
・【管弦】白柱(はくちゅう)
・惣礼(そうらい)
・供花(くけ)
左右の楽人とは別に、烏帽子・直垂姿の六人(鳳笙・篳篥・龍笛 各2)が登場し、行道の楽を奏でる。花道を30人ほどの僧侶の集団が進んでくる。先頭には、法螺貝・銅鑼・銅拍子(?)を奏でる僧侶(各2)。単純な旋律を繰り返すだけなのだが、法螺貝の音がものすごく気持ちいい。大好きだ。僧侶の集団は、力強く真言を唱え、沓音高く舞楽舞台を縦断して、檀上に上がる。赤い傘を差し掛けられていた大阿闍梨が着座。花が供えられる。大阿闍梨は本格的に諸仏の供養を始める。僧侶たちの読誦、斉唱、合唱が繰り返される。
・表白(ひょうひゃく)、諷誦文(ふじゅぶみ)、発願(ほつがん)、四弘(しぐ)、仏名(ぶつみょう)、教化(きょうげ)、神分(じんぶん)、云何唄(うんがばい)、散華(さんげ)、対揚(ついよう)
・【管弦】慶雲楽(きょううんらく)=散華行道楽
このへんの順序は定かでない。会場内の電光掲示板の解説もあまり詳しくなかったし、プログラムも「次第」と「曲目解説」と「(声明の)本文」とに、少しずつ異動がある。
休憩後、後半に移る。
・唱礼(しょうれい):五悔(ごかい)、発菩提心真言(はつぼだいしんしんごん)、三昧耶戒真言(さんまいやかいしんごん)、勧請(かんじょう)、五大観(ごだいかん)
・普供養・三力(ふくよう・さんりき)
・理趣経 中曲(りしゅきょう ちゅうきょく)
・【舞楽】陵王(りょうおう)
電光掲示板に「唱礼」と表示されて、僧侶たちが真言を唱え始めた。と思ったら、左方の楽人が、どこかで聞いたような曲を奏で始めた(打楽器だけ?)。そして、燃えるようなオレンジ色の装束をまとい、黄金の仮面を被った陵王が、威風堂々、舞台に登場。聞き馴れた出だしの旋律とは、似て非なる登場だったので、え?ええ?!とうろたえる。僧侶たちの念誦のメロディに乗って、陵王は平然と(いつもの?)曲を舞い始めた。びっくりした。昨年、『四天王寺の聖霊会』公演を見たが、あくまで舞楽は舞楽、法要は法要の別パートだった。こんなふうに僧侶の念誦(声明)と同時進行で舞楽が行われるなんて、考えてもいなかったので、頭の中が真っ白になるくらい驚く。
奏楽は、僧侶の念誦のメロディに遠慮しているようで、はじめ管楽器が加わっていなかったように思う。途中で篳篥と龍笛が加わったが、笙は最後の最後まで加わらなかった。
・唱礼(しょうれい):三十七遍合殺(さんじゅうしちへんかっさつ)
・【管弦】裹頭楽(かとうらく)=合殺行道楽
・後讃(ごさん):四智漢語(しちかんご)、心略漢語(しんりゃくかんご)、供養讃(くようさん)
・後唱礼(ごしょうれい):普供養・三力(ふくよう・さんりき)、小祈願(しょうきがん)、礼仏(らいぶつ)、廻向(えこう)
・廻向方便(えこうほうべん)
・【舞楽】狛桙(こまぼこ)
ということは、次の「狛桙」も…と思っていたら、予想どおり。「三十七遍合殺」(ひたすら「毘盧遮那仏」と唱える)を挟み、「後讃」の念誦とともに、右方の舞人が登場して舞う(四人舞)。遠慮がちな奏楽を伴うが、カラフルで長いバーを携えて、ぴょこぴょこ屈伸する「狛桙」の所作は、体操みたいでかわいい。
・還列讃(四智梵語)(かんれつさん しちぼんご)
・反音(へんのん)
・【管弦】長慶子(ちょうけいし)
僧侶たちは、再び隊列を組んで、花道より退場。楽人は、おなじみ「長慶子」を奏して、静かに退場する。
ううむ、どのへんまでが記録に基づく復元なのか、公演用に整えられたのか、定かでないが、面白かった。耳で声明の旋律を愉しみながら、目で舞楽を愉しむというのは、ほかではできない経験だったと思う(電光掲示板で声明の本文を追っていたので、さらにあわただしかった)。できるものなら現地で行われる法要も参観してみたいものだ。