見もの・読みもの日記

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見どころは中国絵画/ボストン美術館の至宝展(東京都美術館)

2017-08-14 21:19:59 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京都美術館 特別展『ボストン美術館の至宝展-東西の名品、珠玉のコレクション』(2017年7月20日~10月9日)

 ボストンには2回、行ったことがある。もちろんボストン美術館を訪ねたが、特に印象に残る作品には会えなかった。まあ常設展はこんなものか、と思った。それよりは、2012年、東博で行われた『ボストン美術館 日本美術の至宝』展の興奮のほうが記憶に残っている。今回は、前宣伝がゴッホなど西洋美術推しなので、東洋美術は来ないのかな?と思っていた。特設サイトを覗いてみたら、歌麿、一蝶、それに蕭白の『風仙図屏風』も来ると分かったので、見に行くことにした。

 会場に入ると、まず古代エジプト美術。王の肖像の頭部など、彫刻が中心。ふだんあまり見ないので珍しい。どことなく南アジア(カンボジアなど)の仏像に似ていると感じる。メロン型のビーズ(でかい)の首飾など、装飾品や工芸品も面白かった。

 続いて中国美術。実は、中国美術が来ていることを認識していなかったので、人だかりの後ろから何気なく覗いたケースに、徽宗皇帝の『五色鸚鵡図巻』を見つけたときは、死ぬほど驚いた(私、日本国内にある『桃鳩図』も見たことないのに…)。解説によれば「徽宗の手によることが最も確実視されている作例のひとつ」だそうだ。巻子の前半には題詩(七言律詩)があり、後半に五色鸚鵡の絵が描かれている。ほぼ白に近い薄桃色の花の枝、題詩によれば杏らしいが、そこに頭は黒く、顔から胸にかけては赤く、体は草餅みたいな薄緑色の小鳥が止まっている。優美、たおやか。なんという女子力の高さよ。なお、図録の解説にある「ズグロゴシキインコ」で検索すると、もう少し南国風の小鳥の画像が現れる。しかし私は、絵以上に前半の題詩(御筆)に目が釘付けになってしまった。痩金体の書の美しさ。書法は繊細だが、文字は大ぶりで堂々としている。全部で10行もある徽宗の書を見たことは、あまりなかったと思う。

 それから、団扇型の絹本墨画淡彩(山水図)が2件。馬遠筆『柳岸遠山図』と夏珪筆『風雨舟行図』である。ひえ~よくぞ南宋絵画を持って来てくれました。次に羅漢図が2件。『施財貧者図』と『観舎利光図』で、どちらも「五百羅漢図のうち」と注記が添えられているのを見て思い出した。もと京都・大徳寺が所蔵していた五百羅漢図100幅の一部である。前者は貧者たちの描き方に容赦がなくリアル、後者は蝙蝠の羽根をつけた小鬼のようなものが飛んでいて面白い。中国絵画の最後は陳容筆『九龍図巻』。あ、東博の中国絵画室で時々見る『五龍図巻』の画家かな、と思ったら当たっていた(ちなみに今年3月、藤田美術館が売却した『六龍図』も陳容の作品だ)。『九龍図巻』の龍は、四本足(手足)の描き方に躍動感とリアリティがある。たぶん応挙はこういう中国絵画を学んだのだろうなあ。

 中国絵画にすっかり圧倒されたまま、日本絵画に進む。蕪村、司馬江漢、歌麿、抱一など、ほぼ江戸絵画のみのセレクション。個人的に最大の見ものは蕭白の『風仙図屏風』。六曲屏風の左半分に、天から真黒な渦巻きが下りてくる。写真図版では気づきにくかったけど、けっこう墨がむらむらで、斑点のような墨の跡もあって、ウナギかナマズの体のようだ。中央に剣を構える道士。アメコミみたい、というより武侠ドラマの登場人物みたいだと思う(周伯通とか洪七公とか)。画面の右側では、黒服の男と白服の男が強風にあおられて転げている。その後景では、白いウサギと黒いウサギが草むらに伏せている。白いウサギのびっくり顔がかわいい。疾風怒涛のつむじ風の衝撃を表すような背景(ぎざぎざ線の岩、樹木)の描き方が斬新。

 蕭白はもう1点『飲中八仙図』も来ていた。展覧会的に推しは、英一蝶の『涅槃図』。まあきれいだし面白いし、近年修復でよみがえった意義があるけど、背景に海(?)が描かれていることをのぞけば、よくある涅槃図だと思う。むしろ私が気になったのは、鳥居派による芝居の絵看板。宝暦8年(1758)江戸の中村座で上演された「錦木栄小町」という芝居だそうだ。色もかたちも単純化されているが、登場人物の衣装には、これを演じる役者の定紋が入っており、よくできた「広告」芸術である。知られる中では最も古い現存例とのこと。

 このあとは、ヨーロッパ美術(特にフランス絵画)とアメリカ絵画、最後に現代美術と版画・写真が続く。東洋美術を見た直後に、油彩の近代風景画を見ると、空の青、野山の緑の美しさに目が打ちのめされるような感覚を味わう。どうしてこんな絵具があり得たのだろう。私は油彩画ばかり見ていると飽きるのだけど、このくらいの量を見るのはちょうどいい。モネの『睡蓮』も1枚だけだと尊さが身に沁みるようである。花瓶の盛り花を描いたクールベとルノワールの作品があって、クールベはクールベらしく、ルノワールはルノワールらしいので、ちょっと面白かった。

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