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見もの・読みもの日記

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二大政党制嫌い?/明治デモクラシー(坂野潤治)

2005-09-15 23:55:17 | 読んだもの(書籍)
○坂野潤治『明治デモクラシー』(岩波新書)岩波書店 2005.3

 近代日本のデモクラシーは、明治維新からGHQの占領政策に至るまで、「上からの改革」によって与えられた、ということになっている。しかし、この俗説は正しくない。明治・大正・昭和(戦前)いずれの時代にも、民主主義の実現を求めて、絶え間ない「下から努力」があった、というのが著者の主張である。

 本書は、同じ著者が”昭和デモクラシー”の顛末を描いた『昭和史の決定的瞬間』(ちくま新書 2004.2)に続き、明治期の民主主義運動の達成と挫折を描いたものだ。ただ、正直なところ、日本近代史にうとい私には、本書の記述が、どのくらい”俗説”から離れたものであるか、正確には評価できなかったのであるが。

 本書の著述は、できるだけ当時の言葉に、直接、耳を傾けるという姿勢を取っている。そのため、明治人の文章がたくさん引用されている。これが、非常に興味深いものが多い。

 今週の日曜日、私は、自民党が圧勝した衆議院選挙の開票速報を見ながら、本書を読んでいた。福沢諭吉は、明治12年(1879)の著書『民情一新』で、なぜ政権交代が起きるかを、卑近な人情からおもしろおかしく説明している。旧を厭いて新を求める人情とか、狂言の作者が自作の芝居を以って「衆人の喜怒哀楽を自由自在に制御する」楽しみだとか、威張っていた大臣が失意の人になるのを見たがる野次馬根性とか、いちいち今回の選挙結果に合致しているように思えて面白かった。

 また、福沢は、もっと根本的に、ヨーロッパ社会が二大政党制を必要とする理由についても論じている。それは、専制と急進的な思想の正面衝突を回避するための政治システムとして作用しているのだという。

 しかし、日本では、120年前の福沢が目指した二大政党制が、今日もなお、獲得目標のまま放置されている。ここで著者は口を挟む。「日本人は二大政党制が嫌いなのではないだろうか」。著者は疑問を呈したきりで、明確な答えを出していない。しかし、結局、明治のデモクラシー運動が、「官民調和」という、戦後の自民党長期政権とよく似た体制に、なしくずしに雪崩れ込んでいった結末を見てしまうと、この、本音とも愚痴ともつかない著者のひとことは、軽々には読み飛ばせないものだと感じる。

 後半では、北一輝に注目。このひと、私はそもそも、二・二六事件との関連で、国家主義者のひとりとして名前を覚えたので、こんなふうに”明治デモクラシー”の局面に登場されると面喰らう。しかし、××主義者という枠組みでは捉え切れない多面性と独自性を持つ人物であるようだ。その全貌に迫ったという、松本健一著『評伝北一輝』全5巻(岩波書店 2004)を、読むべきや否や。
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