■京都国立博物館 特別展覧会『高僧と袈裟-ころもを伝え こころを繋ぐ-』(2010年10月9日~11月23日)
3連休旅行、2日目の続きから。本展は「袈裟を通して見えてくる日本の仏教と染織の歴史を辿る、初めての試み」。この企画を知ったときは、あまりにマニアックで、言葉を失ってしまった。誰が見に行くんだ、こんなもの、と思ったが、けっこう観客がいた。ひとつは、明らかにお坊さん。それから、染色・織物関係者。あと、袈裟の金襴は「名物裂(めいぶつぎれ)」として、掛軸の表具や茶入の包み(仕覆)に用いられるため、茶の湯関係者の関心も引いているのだ。さすが京都である。
唐招提寺からは、鑑真料(鑑真が使用した)と伝える袈裟が出品されていた。透かし彫りの内蓋越しに畳まれた布を確認することはできるが、施錠されているため「詳細は調査できない」のだそうだ。東福寺には「伝法衣箪笥」というのがあることを初めて知った。兵庫・興長寺に伝わる、ぼろぼろの「阿弥衣」(時宗の僧侶が着る粗末な麻衣)は異彩を放っていた。「遊行元祖御衣壱枚」と墨書した紙片が裾に付けられていた。愛らしさでは、南禅寺初代・無関普門相伝の「刺繍九条袈裟」。
古い図像では袈裟の釣紐を結んでいるのに対して、鎌倉仏教あたりから「環」を用いていること、金襴袈裟は日明貿易以降に流行したことなど、歴史的な知識も少し仕入れる。夕方、博物館のカフェで若いお坊さんのグループがくつろいでいたのが、なんだか微笑ましかった。
■大津市歴史博物館 開館20周年記念企画展『大津 国宝への旅』(2010年10月9日~11月23日)
最終日は大津へ。本展は国宝35点、重文55点など大津ゆかりの名宝約150点を展示する(書画は前後期でほぼ総入れ替え)。私は滋賀県の文化財を、ずいぶんヒイキにしているつもりだが、大津市だけでこんな展覧会ができてしまうのはすごい。会場の冒頭を飾る、華開寺の木造阿弥陀如来坐像はいいなあ。平安仏らしい丸顔。典雅で、でしゃばらず、エラぶらない感じが、私の思う近江らしさにぴったりくる。最澄や円珍ゆかりの文書もどっさり出ていて嬉しかった。おお、最澄の「國宝」の文字がある!とかね。
仏像では、盛安寺の十一面観音菩薩立像が一押し。唐風のぽってりした丸顔に浮かぶ、厳しい表情。猪首で逞しい上半身に対して、下半身はすらりと腰高で直線的。実は旅行前に「秘仏の扉」というサイトで「5、6、10月の土曜日公開」という情報を見ていたので、盛安寺に行こうかどうしようか、迷っていたのだ。ここで拝観できてよかった。園城寺の愛染明王坐像は、六臂の持物が全て失われているせいで、細い腕の簡素な美しさが引き立っている。怒髪と一体化した獅子冠もかわいい。
そして、とうとう、園城寺(三井寺)の秘仏『絹本著色不動明王』(黄不動)に初対面(2009年、サントリー美術館では見逃している)。図像では旧知だったはずなのに、ものすごい衝撃。秘仏には、見たままを語っておきたい、書き残しておきたいと思わせるものもあるが、この黄不動に関しては、語ってはいけないものを見た、という感じがする。本展には、このほか、冷泉為恭写など模本4点も同時展示(前期のみ)。黄不動の正面には、母を慕う仔犬のように、円珍・智証大師の坐像が据えられていた。
■名古屋城 開府400年記念特別展『武家と玄関 虎の美術』(2010年9月25日~11月7日)
新幹線で京都→名古屋へ移動。名古屋は初日に全部見てしまうつもりだったのだが、時間が足りなかったので仕方ない。しかも、名古屋に着いて、ポスターを見るまで、え?蘆雪が来てるの? うわ、応挙も!?ということを知らなかったのだ。初日の土砂降りとは打ってかわった好天気、人込みに揉まれながら、初めての名古屋城天守閣へ。本展は2階の展示室で行われている。
総点数45件112点は多くはないが、面白かった。蘆雪の無量寺の”飛び出す”虎。応挙の金刀比羅宮表書院のもふもふした白虎。海北友松の建仁寺の雲龍図襖絵もすごい迫力。桃山寺院の禅寺や城郭では、諸獣は仏法や領主を守るものであった、という説明になるほどねえと思う。薄暗がりの中で、巨大な龍や虎が睨みをきかせる部屋に招き入れられた賓客は、どんな気持ちだったろうかと想像する。やましい心があったら、冷や汗をかくだろうな。でも、近頃のマンガやドラマにあるように、龍や虎の前に領主が座っちゃいけないんだな、とも思った。
豊干禅師と寒山拾得が虎にもたれて仲良く眠る様を描いた黙庵筆『四睡図』(前田育徳会)は初見。むかし、橋本治の『ひらがな日本美術史』で「意外とメルヘンなもの」というタイトルで取り上げられていて、へ~え、水墨画って意外と可愛いんだなあと思った記念の作品。一目見て、いいな!と思った『鍾馗虎図』(鍾馗が虎を押さえつけている)は雪村筆だった。
かくて、3日間の収穫は展覧会7件。図録を5冊購入して東京へ戻る。
3連休旅行、2日目の続きから。本展は「袈裟を通して見えてくる日本の仏教と染織の歴史を辿る、初めての試み」。この企画を知ったときは、あまりにマニアックで、言葉を失ってしまった。誰が見に行くんだ、こんなもの、と思ったが、けっこう観客がいた。ひとつは、明らかにお坊さん。それから、染色・織物関係者。あと、袈裟の金襴は「名物裂(めいぶつぎれ)」として、掛軸の表具や茶入の包み(仕覆)に用いられるため、茶の湯関係者の関心も引いているのだ。さすが京都である。
唐招提寺からは、鑑真料(鑑真が使用した)と伝える袈裟が出品されていた。透かし彫りの内蓋越しに畳まれた布を確認することはできるが、施錠されているため「詳細は調査できない」のだそうだ。東福寺には「伝法衣箪笥」というのがあることを初めて知った。兵庫・興長寺に伝わる、ぼろぼろの「阿弥衣」(時宗の僧侶が着る粗末な麻衣)は異彩を放っていた。「遊行元祖御衣壱枚」と墨書した紙片が裾に付けられていた。愛らしさでは、南禅寺初代・無関普門相伝の「刺繍九条袈裟」。
古い図像では袈裟の釣紐を結んでいるのに対して、鎌倉仏教あたりから「環」を用いていること、金襴袈裟は日明貿易以降に流行したことなど、歴史的な知識も少し仕入れる。夕方、博物館のカフェで若いお坊さんのグループがくつろいでいたのが、なんだか微笑ましかった。
■大津市歴史博物館 開館20周年記念企画展『大津 国宝への旅』(2010年10月9日~11月23日)
最終日は大津へ。本展は国宝35点、重文55点など大津ゆかりの名宝約150点を展示する(書画は前後期でほぼ総入れ替え)。私は滋賀県の文化財を、ずいぶんヒイキにしているつもりだが、大津市だけでこんな展覧会ができてしまうのはすごい。会場の冒頭を飾る、華開寺の木造阿弥陀如来坐像はいいなあ。平安仏らしい丸顔。典雅で、でしゃばらず、エラぶらない感じが、私の思う近江らしさにぴったりくる。最澄や円珍ゆかりの文書もどっさり出ていて嬉しかった。おお、最澄の「國宝」の文字がある!とかね。
仏像では、盛安寺の十一面観音菩薩立像が一押し。唐風のぽってりした丸顔に浮かぶ、厳しい表情。猪首で逞しい上半身に対して、下半身はすらりと腰高で直線的。実は旅行前に「秘仏の扉」というサイトで「5、6、10月の土曜日公開」という情報を見ていたので、盛安寺に行こうかどうしようか、迷っていたのだ。ここで拝観できてよかった。園城寺の愛染明王坐像は、六臂の持物が全て失われているせいで、細い腕の簡素な美しさが引き立っている。怒髪と一体化した獅子冠もかわいい。
そして、とうとう、園城寺(三井寺)の秘仏『絹本著色不動明王』(黄不動)に初対面(2009年、サントリー美術館では見逃している)。図像では旧知だったはずなのに、ものすごい衝撃。秘仏には、見たままを語っておきたい、書き残しておきたいと思わせるものもあるが、この黄不動に関しては、語ってはいけないものを見た、という感じがする。本展には、このほか、冷泉為恭写など模本4点も同時展示(前期のみ)。黄不動の正面には、母を慕う仔犬のように、円珍・智証大師の坐像が据えられていた。
■名古屋城 開府400年記念特別展『武家と玄関 虎の美術』(2010年9月25日~11月7日)
新幹線で京都→名古屋へ移動。名古屋は初日に全部見てしまうつもりだったのだが、時間が足りなかったので仕方ない。しかも、名古屋に着いて、ポスターを見るまで、え?蘆雪が来てるの? うわ、応挙も!?ということを知らなかったのだ。初日の土砂降りとは打ってかわった好天気、人込みに揉まれながら、初めての名古屋城天守閣へ。本展は2階の展示室で行われている。
総点数45件112点は多くはないが、面白かった。蘆雪の無量寺の”飛び出す”虎。応挙の金刀比羅宮表書院のもふもふした白虎。海北友松の建仁寺の雲龍図襖絵もすごい迫力。桃山寺院の禅寺や城郭では、諸獣は仏法や領主を守るものであった、という説明になるほどねえと思う。薄暗がりの中で、巨大な龍や虎が睨みをきかせる部屋に招き入れられた賓客は、どんな気持ちだったろうかと想像する。やましい心があったら、冷や汗をかくだろうな。でも、近頃のマンガやドラマにあるように、龍や虎の前に領主が座っちゃいけないんだな、とも思った。
豊干禅師と寒山拾得が虎にもたれて仲良く眠る様を描いた黙庵筆『四睡図』(前田育徳会)は初見。むかし、橋本治の『ひらがな日本美術史』で「意外とメルヘンなもの」というタイトルで取り上げられていて、へ~え、水墨画って意外と可愛いんだなあと思った記念の作品。一目見て、いいな!と思った『鍾馗虎図』(鍾馗が虎を押さえつけている)は雪村筆だった。
かくて、3日間の収穫は展覧会7件。図録を5冊購入して東京へ戻る。
大和文華館には行ったのですが、大津市歴博は
今期は行けなさそうなので、記事を拝見できて
良かったです。行った気持ちになりました。
11/29~12/4まで慶應大学三田キャンパスで古典籍の展覧会があります。
12/4は「古典籍の探究-書誌学の世界」というシンポジウムも開催されます。
ご興味あれば是非。
慶應大、斯道文庫の『書誌学展』ですね。
ぜひ行きたいと思ってます。
とは言え、会期が短いので、勤め人の身で行けるのは、実質12/4(土)1日だけなので、何とかこの日を逃さないようにしなければ…。
武具甲冑関しては古い物で現存数が極めつくない鎌倉時代のウブ星兜鉢・鎌倉末期の筋兜など室町後期の変わ兜・安土桃山期の変り兜や南北朝時代の軍陣鞍鐙・室町末期頃の馬鎧・木製盾などなど中世~江戸初期まで戦国時代の資料が中心に所蔵され全てウブのまま展示されています 年間定期ごとに展示変えされていますがいまだに20年以上展示ししけれない鎧兜や刀剣類が展示しけれない物が沢山あるそうです。今わ国立博物館・外国・私立美術館博物館などに貸し出しはしていないそうです全て写真撮影できます
http://www.kawagoe-rekishi.com/
行ったことあります。大変面白かったです。
残念ながら展示替えのため『絹本著色不動明王』はみられなかったですが、盛安寺の十一面観音菩薩立像や聖衆来迎寺蔵の絹本著色六道絵は印象的でした。地獄恐いですね…。
最後の方の解説パネルで阿修羅と帝釈天の戦いの場面を描いた絵があって、帝釈天は最強とか阿修羅は雷神が苦手とかいろいろおもしろかったです。
それにしても渡唐中の円珍の直筆の文書が残っているなんて凄すぎます。