見もの・読みもの日記

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週末関西美術館めぐり:神戸市立博物館

2008-03-24 23:50:10 | 行ったもの(美術館・見仏)
○神戸市立博物館 南蛮美術企画展『バイオグラフティ異国趣味』

http://www.city.kobe.jp/cityoffice/57/museum/main.html

 今回の関西行、神戸まで足を伸ばすことにしたのは、上記サイトに上がっている南蛮美術企画展の写真に見覚えがあったからだ。昨年、国立歴史民俗博物館の企画展『西のみやこ、東のみやこ』で見て、いたく印象に残った金地扇面『都の南蛮寺図』である。ぜひとも、もう1回見たい。そう思って、土曜日は神戸・三宮に向かった。

 神戸市立博物館のチケット売り場で、私はしばらく立ち尽くしてしまった。どこにも「企画展」の料金表示がなかったからだ。「一般のお客様、200円です」と促されて、慌てて硬貨を探りながら、私、間違えたかな?と胸が騒いだ。しかし、ちゃんと上記2つの企画展は行われていた。館蔵品による企画展は常設展料金で提供されているのである。その内容が半端なものでないことは、以下、順を追って述べよう。これで200円って、関西の公営美術館・博物館は、ちょっと安すぎるんじゃないか…と私は本気で思った。

 まず、南蛮美術室の企画展『バイオグラフティ異国趣味』は、南蛮美術を作り(作らせ)、伝えた人々を、関連作品とともに紹介する。初めて見る作品、初めて知ることが山のようにあって、興奮の連続だった。

 近世初期の八曲屏風『観能図』は、天正16年の聚楽行幸または文禄2年の禁中能を描いたとされるもの。中央に「翁」を演じる能役者。御簾の中で女官に囲まれているのは後陽成天皇(ほとんど顔が見えている)。手前の広縁には秀吉。そして、地下の見物人の中には、南蛮人らしき姿が混じっている。長い煙管を使っているのは黒人だろうか。別の『花下群舞図』は、上賀茂神社の社頭での祭礼の様子を描くが、ここに登場する南蛮人は「南蛮人の扮装をした日本人」らしい。対になった祇園社の図には、恵比寿・大黒(の扮装をした2人)が描かれており、どちらも、海の外から来る財福神と認識されていたようだ。なるほどね。

 沈南蘋と長崎派の作品は、全く知らないわけではなかったが、こんなにまとめて系統立てて見たのは初めてのことだ。いちばん興味深かったのは、鶴亭という画家の『芭蕉太湖石白鷴図』。トリの表情が、同時代の若冲にすごく似ている! 当日見たものではないが、文化遺産オンラインから作品にリンクしておこう。若冲同様、黄檗宗ネットワークの影響圏にあったことも見落とせない。

 長崎派の画家・宋紫石が、平賀源内の著書『物類品隲』(ぶつるいひんしつ)にヨンストン『動物図譜』の写しを載せていることも初めて知った。『物類品隲』見たことあるのに! 科学史家の視点から見ると、美術史の着眼点は落ちてしまうんだなあ。

 榊原悟さんの本『江戸絵画万華鏡』で知った、司馬江漢の「太陽真景(真形)図」(銅板・木版画集『天球全図』の1枚)の本物にも感激した。これがキルヒャーの『地下世界』を原図としているということにも(アタナシウス・キルヒャーの名前を初めて覚えたのは、澁澤龍彦の本だったか、荒俣宏だったか)。本展には、近世の洋画家や洋学者が所持していたと分かる洋書が展示されている。もちろん、実際に木村蒹葭堂や平賀源内が持っていた「その1冊」ではないのだろうけれど。それにしても、うーむ、木村蒹葭堂はキルヒャーの『地下世界』を持っていたのか!!すごい!

 私の大好きな亜欧堂田善の江戸名勝図19枚は、久しぶりに堪能した。本展では「江戸銅版画のトップアーティスト」なんて称号を贈られていて嬉しい。この人、『青蔭集』という句集の挿絵も描いているのだな。「水墨の洋風画家」石川大浪っていうのも、実に変な画家である。この大浪やら、オランダ通詞の吉雄耕牛やら、天文学者の高橋景保もそうだが、”横文字のサイン”を用いた江戸人はけっこう多い。みんな、新しいものには弱いのである。

 本展の掉尾を飾るのは、近代の南蛮美術コレクターたち。高橋由一筆『初代玄々堂像』があったことを書き留めておこう。銅版画屋の玄々堂は、初期洋画家のサロンでもあったそうだ。最後に控えていたのが、小磯良平の描いた池長孟(いけなが・はじめ)氏の肖像。神戸市立美術館の南蛮美術コレクションの基礎を作った人物である。「池長孟」という珍しい名前には、かすかな見覚えがあったが、恥ずかしながら、何の知識も無かった。「身上つぶして南蛮狂」を名乗った人物だという解説に惹かれて、ミュージアムショップで『特別展・南蛮堂コレクションと池長孟』のカタログを買って帰ってきた。いや面白いな、この人。

※神戸市立博物館:名品撰(南蛮美術)はこちら↓
http://www.city.kobe.jp/cityoffice/57/museum/meihin/i5_namban.html

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1 コメント

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Unknown (vunoeh)
2008-03-27 01:38:50
ここの館蔵名品展は安くて空いてて展示のレベルが高いのでお勧めです。毎年やってるので機会があればまた見に来てください。
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