見もの・読みもの日記

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東アジアの希望/日本×香港×台湾 若者はあきらめない(SEALDs)

2016-07-23 08:03:43 | 読んだもの(書籍)
○SEALDs編;磯部涼構成『日本×香港×台湾 若者はあきらめない』 太田出版 2016.7

 7月10日の参議院選挙の前、選挙や政治関連の書籍を集中的に読んでレビューを書いていた中で、最後に(選挙直前に)読んで、非常に面白かった本。SEALDsメンバー(奥田愛基、牛田悦正、溝井萌子)と台湾および香港で学生として政治運動に携わった若者の対話5篇を収める。2015年12月から2016年3月にかけておこなわれたもの。

 冒頭で牛田くんが、「自分が『東アジア』という地域に住んでいることを想像したことがあるだろうか。僕はあまりなかった」と率直な告白をしている。だいたい今の標準的な日本人の感覚はこんなものだと思う。私は「東アジア」という地域に強い愛着があるので、台湾のひまわり学生運動(2014年3月18日~4月10日)にも、香港の雨傘運動(2014年9月26日~12月15日)にも関心を払ってきた。特に前者は、ちょうど台湾滞在中だった教育学者の佐藤学先生が、Twitterで刻々と現地の様子を伝えていたのが印象的だった。逆に、日本のテレビがほとんど何も伝えていないことに絶望していた。

 香港の雨傘運動については、座り込みの始まった当初の印象はあまりないが、だんだんTwitterなどで情報が伝わってくるようになり、ついに解散(強制排除)に至ったときは感慨深かった。当時の私は、どうして日本では、こういう若者の政治運動が起きないんだろう、と少し苛立っていたのだが、SEALDsの前身のSASPLが初めてサウンドデモをしたのが2014年2月1日だというから、私が気づいていなかっただけかもしれない。

 対話1は、香港の雨傘運動の中心となった学生組織「学民思潮」のスポークスマンをつとめた周庭(アグネス・チョウ)さん、対話2~4は「学民思潮」招集人だった黄之鋒(ジョシュア・ウォン)くんがゲスト。香港の抱える政治的課題について、日本の有識者の解説ではなく、香港人の話が聞ける機会は少ないので、非常に興味深かった。多くの日本人は、親中国か反中国かで問題を単純化しがちだが、そういうものではないということも分かった。中国人でもイギリス人でもない「香港人」というアイデンティティが、返還から20年経って、生まれつつあるのだ。雨傘運動の学生たちは1997年の香港返還以降に生まれたので、香港の前途を決めなければいけない世代だという自覚がある。黄くんが日本のアニメ『デジモン』を引用して、自分たちを「時代に選ばれし子どもたち」と呼んでいるのが面白かった。

 対話5は、台湾のひまわり学生運動のリーダーの一人だった陳為廷くんがゲスト。彼の考える「台湾ナショナリズム」とは、「その土地に住んでいる人たちが、自分の土地やその土地の将来について、責任をもって考える」社会をつくることである。だから、中国の介入には反対するけれど、むやみに中国人を排斥し、差別すること(台湾にはそういう勢力もいるのだ)には否定的である。非常に理性的で、気持ちがいい。また、立法院侵入の経路など、臨場感のある裏話もあって面白かった。

 香港の学生も台湾の学生も、最終的にはかっちりした組織をつくった。SEALDsの、指導者のいないふわふわした組織も魅力ではあるけれど、香港の黄くんに「組織化は重要です!」と諭されて、奥田くんと牛田くんが「勉強になるね」と神妙に反応しているのが面白い。そして、香港も台湾も学生運動をベースに新しい政党が生まれているので、SEALDsが解散することをとても惜しんでいる様子だった。

 また、どの国の学生運動も共通して、反民主勢力との闘争以上に(?)共闘勢力の大人たちとの感覚や認識の違いに苦労しているらしい。香港の学民思潮がカンパで100万香港ドル(1千450万円以上)を集めたとき「草の根運動じゃない」と言われたとか、台湾の時代力量(ひまわり学生運動から生まれた政党)が旧来の左翼から「お前らは左派じゃない」と批判されたとかの話に、SEALDsメンバーは「超共感」していた。

 非常に面白かったのは、香港・台湾の学生たちが共通して聞きたがった「日本人は共産党が嫌いなんですか?」という質問。香港の周さんが「日本人は共産主義というものをちゃんと知っているんですか?」とも聞いていたけど、中国共産党と実際に対峙している彼らのほうがずっと冷静で理性的である。関連して、奥田くんが志位さん(日本共産党委員長)に冗談で「名前を民主党にしましょう」と言って「そりゃ無理だよ」と返されたという話には笑ってしまった。

 若者らしい軽い口調で、冗談もはさみながら、それぞれの国(社会)を思う対話の内容は真剣である。個人的には、日本国内でSEALDsへの関心が高まったおかげで、本書のような出版が企画され、香港や台湾で新しい政治運動を牽引する若者の声を聞くことができたことが、何より嬉しかった。

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