白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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謎の一手(Master-申真諝戦)

2017年01月11日 23時59分59秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日はAI囲碁ソフト「Master」の打った、ある1手をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
その手は、韓国の申真諝との碁で現れました。
何と、黒1のノゾキ!
これを見た瞬間、目を疑いましたね。

Masterは人間との60局で、見た事の無い手を数多く打ちました。
それは、ある時はなるほどと思える手であり、ある時は半信半疑ながらも、一理ある事は感じる手でした。
しかし、この手はどうでしょうか。
これを見て好手と感じるプロは、世の中に1人もいないでしょう。

ノゾけば、白はAと繋ぐ1手でしょう。
この交換が黒にとってプラスとは、とても思えないのです。
もし良い手になるとすれば・・・。





2図
白1の後、黒2と滑るなら理解はできます。
白3となった形なら、黒△と白1は利かしとみる事もできるからです。
黒2、白3を先に打ってから黒△とノゾくと、白1と繋いでくれません。
ただ、仮にこうなったとしても、黒△を打った事がプラスとは思えませんが・・・。





3図
また、こんな配石で黒1とノゾく事は、あり得ない発想ではありません。
上辺の白を強襲して・・・。





4図
このように進めば、黒△が切りを防ぎ、大いに働いています。
こんなに都合良く行くかは別として、作戦としては理解できます。





5図(実戦)
しかし、実際にはこんな進行になりました。
黒△と白1の交換が、全く役に立っていません。
となれば、悪手とみるしかないのです。
何故なら、黒△を打たなければ、黒から様々な選択肢があるからです。
碁において選択肢を狭める手は、大抵悪手になります。





6図(可能性その1)
白の1間の形は、黒1の詰めが弱点です。
放置すると黒2の後続手段があり、白3と強引に止めようとしても、黒Aのハネ出しが成立します。
ところが、現実には黒△と白△の交換があり、白3に黒Aという手はありません。
つまり、黒1と迫る手の価値が、著しく下がっているのです。





7図(可能性その2)
黒1という手も、時々打たれます。
次に黒AやBが厳しく、白は手を抜き難く、通常は何か対応が必要になります。
しかし、白△に石があると白は強い石になっており、黒1などと打っても何の楽しみもありません。





8図(可能性その3)
黒1と三々に入る事もあります。
すると白12までが代表的な定石で、黒が先手の分かれになります。
しかし、もし白12の所に、予め白石があったらどうでしょうか?
今度は白が先手になってしまいますね。
丸々1手違うのでは、三々入りがつまらない手になっています。





9図(可能性その4)
また、黒1と逆からノゾく可能性もあります。
これは梶原武雄九段が愛用した手であり、後に黒AやBから動き出す手を残す意味です。
ノゾいた石が具体的に役に立つ可能性が見えているので、こちらならまだ分かるのです。
(実際には、これも大半のプロが悪手と判断しています)

しかし、外ノゾキには具体的に役立つビジョンが見えません・・・。
プラスが無くてマイナスが多い手は、悪手と判断するよりありません。
しかし、打っているのはMaster・・・ひょっとしたら碁の真理に近い手なのかもしれない、などと思ってしまいますね。

尤も、仮にこれが良い手だとして、人類が活用する事は不可能でしょうね。
少なくとも、アマの皆さんが真似して得はありません。
毒薬か劇薬か定かではありませんが、取り扱い注意です。
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