白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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Master対棋士 第22局

2017年02月27日 23時53分02秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
明日は有楽町囲碁センターにて指導碁を行います。
ご都合の合う方はぜひお越しください。

さて、本日はMasterと陳耀燁九段の対局(2局目)をご紹介します。
序盤の一手が非常に印象的でした。



1図(テーマ図)
まずは白1にビックリです。
黒2が見え見えで、次に白Aなら黒Bとなります。
黒△が良い所にあり、白は序盤早々弱い石を作ってしまいます。
これが嫌なので白1ではBやCなど、広い方に向かう事が殆どです。





2図(変化図1)
黒のコスミツケに対して、白1とカケるのは一つの形です。
もし黒2と受けてくれれば、一例として白11までの進行が考えられます。
白はゆったりした形になり、こうなれば十分です。





3図(変化図2)
しかし、白1には黒2、4とごりごり切って行きます。
黒は空き三角の愚形とはいえ隅で根拠を確保しており、一方白は2つ弱い石ができてしまいます。
この戦いは黒有利という事もプロの常識です。





4図(実戦)
しかし、実戦は白1を一本打っておいて白3!
何という飛躍した手でしょうか。
恐らくこの手を見た全ての日本棋士(或いは中韓の多くの棋士も)は、本因坊道策を思い浮かべた事でしょう。
史上最強と名高い大名人も、300年以上前に似た雰囲気の手を打っていたのです。
ちなみに、その手は酒井猛九段の名著「玄妙道策」でも紹介されています。

この白3がどういう意味かというと、このあたりに援軍を作っておいて白Aを成立させようという事です。
また、黒が先に△や1の石を取りに来れば、捨てて他で利益を得ようとしています。
どちらの進行を目指すべきか、黒を悩ませています。





5図(変化図3)
黒1と出れば、白2と右側に転身する予定でしょう。
白6となった結果は、黒△と押さえて上辺の黒模様を大事にしたにも関わらず、ちょうど白に消された格好になっています。
それどころか、うっかりすると右上の黒全体を攻められかねず、黒としては嬉しくない進行です。





6図(実戦)
実戦は黒1、3とまず右側をつながり、白4を待ってから黒5に回りました。
最も手堅い対応です。
左右の黒が固まっており、これで白が上手くやったと言われても、疑問符が浮かんでしまいますが・・・。





7図(実戦)
白1を一つ利かして、白3、5の大場に回りました。
こうなってみて、はじめてなるほどと思えました。
この後黒Aと詰めて白を攻めたくなりますが、上辺での応酬の結果、その手が打ちにくくなっているのです。
Masterの打ち方は、部分だけでは正しく判断できません。





8図(変化図)
黒1と詰めれば、白4までの進行が想定されます。
白AからBの切りになり、黒としては鬱陶しい所です。
また、白Cあたりで左辺と上辺を繋げる手も生じています。





9図(実戦)
そこで詰めずに黒1と打ちましたが、白2と開いて安定する事ができました。
落ち着いた展開になり、コミを生かす事ができそうです。

この局面で、本当に白がリードしているかどうかは分かりません。
それでも、こうなるなら白で打ってみたいと感じる棋士は、それなりに多いのではないでしょうか。

ちなみに、朴廷桓九段は黒番で4図まで全く同じ布石を打ち、そこから変化しました。
48局目なので、ご紹介は当分先になりますが・・・。