MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

素直になれなくて

2008-05-24 23:25:07 | 社会・経済

医療事故は、被害を受けた患者はもちろんだが、

医療を提供した側にとっても大きな不幸である。

癒着胎盤の剥離に手間取り、出血多量で妊婦を死亡させたとして

業務上過失致死罪と異状死の届出義務違反で

福島県立大野病院の産科医師が逮捕された事件は

社会に大きな波紋を投げかけた。

そもそも不確実性の高い医療の現場において、

不明確な過失行為に刑事罰を適用しようとする警察、検察に対し、

多くの医学会や医療系ブログから抗議の声が上がった。

これは、患者と医療者の関係を超えた、

医療における過失の意味解釈の根幹にかかわる問題だ。

医療者の能力の欠如が、即、人命に関わりかねないのが

医療現場であるのは確かだ。

医療者間の能力差は避けられないことから、

不幸にして患者が最悪の転帰をたどった場合、果たして、

それが力量不足によるものか、過失によるものかの

判断には、きわめて難しいものがある。

そのような状況において、ひとたび医療事故が発生した場合、

まず重要なことは、真実を明らかにすることであろう。

日本では、医療者側でも、患者側でもこれができないために、

特に死亡事例においては、最初から警察の介入を余儀なくされると

考えられる。

これに対して、新しいシステムを構築しようとするのが、

現在進められている、事故調査委員会の設置であり、

この運用方法が

『医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の

原因究明・再発防止等の在り方に関する試案』、

いわゆる第3次試案に挙げられている。

ただ、これについては、

明らかに誤った医療行為によって患者が死亡した場合以外でも

刑事訴追される可能性が残されており、依然医療者側からの

反対意見は多い。

一方、米国では、医療事故にからむ民事訴訟は多いものの、

過失による死亡事例においても刑事訴追されることは

極めて少ないそうだ。

米国においては、民事訴訟などの紛糾を極力避けるため、

近年、医療者側は積極的な情報開示を行い、明らかに

過誤があった場合には謝罪を行う傾向が見られるという ↓ 。

5月18日付 New York Times 紙、ウェブ魚拓

これまで、医療過誤が起こると、それにかかわる弁護士や保険会社は

医師や病院に対し、過誤を否定し、自己防御するよう助言してきた。

過誤の容認や悔恨の表現は、提訴を招くと考えられてきたのだ。

しかし、医療過誤対処にかかる多額のコストや

患者家族の強い要求の増加に悩む、John Hopkins や

Stanford など、一部の著名な医療センターでは、

むしろ患者側と非敵対的なアプローチを模索するようになった。

明らかに過誤があった場合、これを迅速に公開し、

誠意ある謝罪と適正な補償をj申し出ることで、

心の通う交渉を行い、提訴に駆り立てる患者側の怒りを

和らげることを期待する。

また、真実を明確にし、そこから過誤の再発予防の教訓を得、

今後の患者の安全性を高めてゆくことも可能となる。

情報の開示や謝罪が提訴数をむしろ増加させるのではないかとの

懸念はあったが、これを行った施設では医療過誤訴訟の件数が

大幅に減少しているという。

しかし、現場医師の抵抗もあり、情報開示が実践されている病院は

まだまだ少ない。

米国では年間98,000人が医療事故被害で死亡しているとされるが、

その30%しか患者側に情報開示されていないという。

しかし、一旦医療者側が謝罪したことが、後に裁判となった場合でも

不利になることはないように定める州も34に上り、

患者側への率直な対応が今後さらに進められそうである。

さて、そういった観点からわが国を見るに、

前述の第3次試案では、医療者側からの患者側への

誠意ある対応が進んでゆくとは期待できないように思う。

恐らく、過失有無などの判断は医療事故調査委員会に一任され、

判断が下されるまでは医療者側は口をつむぐに違いない。

患者と医療者の間に、本当に『良い関係』を築く方策は

もっと別なところにあるような気がしてならないのだ。

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2 コメント

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医療における過失はあって欲しくはありませんが、1... (yunppi)
2008-05-26 16:08:51
医療における過失はあって欲しくはありませんが、100%の保障はありえないですよね。患者側は医師に身をゆだねるしかないですから、出来る限りの信頼関係が欲しいです。やはり過失を隠すことより、原因等を示した上で、謝罪された方が後々にも良いような気がします。
 それに、刑事訴追はちょっと違うような気が・・・。それこそお医者さんのなり手が減るなんてことにならないか心配です。
>yunppiさん (MrK)
2008-05-26 23:07:36
>yunppiさん
治療成績など完全な情報公開が進めば、患者は、より優れた病院を選択するようになるでしょう。成績は一様ではあり得ないわけで、成績の悪い病院は今後どのようにして患者との信頼関係を築けばいいのでしょう?負け組として消え去るべきでしょうか?後期高齢者医療制度もそうですが、医療そのもののあり方に矛盾が多すぎて医療の本来あるべき姿が見えてきません。この上、善意に満ちた医療者が、結果次第で刑事訴追される可能性があるとなれば、医療の完全崩壊も現実となるでしょう。根本的に考え直さなければならない時期にあると思います。

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