MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

七転八倒してますが…

2020-04-29 14:07:11 | 健康・病気

4月のメディカル・ミステリーです。

新型コロナとは関係ないお話ですが、

お読みいただけたら幸いです。

 

4月25日付 Washington Post 電子版

 

She fell more than 30 times. For three years, doctors couldn’t explain why.

彼女は30回以上転倒した。しかし3年間、医師らはその原因がわからなかった。

 

By Sandra G. Boodman,

 踏み台から転げ落ちたのが最初だった。Carol Hardy-Fanta(キャロル・ハーディ・ファンタ)さんは、続いて、マサチューセッツ州西部の自宅の外で携帯電話を見ているときに段差につまづいた。その次は、5マイルのハイキングのときに、石や木の根っこに足を取られて3度転倒した。

 Hardy-Fantaさんは、最初のころは、繰り返しつまづくのは単純な理由によるものだと考えた:注意散漫だったためだと。しかし、3年間で30回以上の転倒――そのうちいくつかは明らかな原因がなかった――を繰り返したため、診断されていない医学的問題が“彼女が丸太のように倒れる”原因となっているのではないかと彼女は医師に繰り返し尋ねた。

 2016年から2019年にかけて彼女が受診した医師は10人――整形外科医4人、神経内科医3人、リウマチ専門医1人、podiatrist(足治療医)1人、そしてかかりつけの内科医――だったが、それぞれ異なる結論を下していた。一人は彼女の足元がおぼつかないためだと言った。彼女の症状の原因として基本的に整形外科的な疾患が疑われるとしながらも、明らかな説明ができなかった医師もいた。

 画像検査によってようやく疑われていた病気が明らかになったのは2019年9月のことだった。彼女によると、その診断名は、かかった医師のうち何人かには否定されていたものだったという。

Carol Hardy-Fantaさんは3年間に30回以上転倒した。自身の病気を見つけ出すまでに数多くの医師を受診しなければならなかった。今、彼女とその家族は、彼女の人生を変えるような疾患と付き合えるよう調整を行っている。

 

 「彼らはとても優秀な人たちです」現在71歳の Hardy-Fanta さんは言う。彼女の夫はボストンで医師をしている。「彼らは本気で力になりたいと思ってくれていましたが私の症状に惑わされていたようでした」。「しかし、もしあれほど何度も転倒する人がいたら、真剣に注意を払わなければならないと思います」

 

An odd way of standing 奇妙な立ち方

 

 転倒は2016年に始まったが、それは、Hardy-Fantaさんと彼女の夫がボストン郊外の自宅を売却し、都心の condo(分譲マンション)と、彼女が“dream home(夢の家)”と表現するBerkshires(バークシャー)にある家との2ヶ所での生活を始めて間もなくのことだった。

 Hardy-Fanta さんは大学シンクタンクの所長の職を退職していた。女性と政策についての彼女の4冊目の著書が発刊されたばかりだった。彼女の健康状態は良好だったが、それは母親から受け継いだものと彼女は思っていた。その母親は精神的にも元気で、100歳で死去する直前まで身体能力も保たれていた。Hardy-Fantaさんは、夫と旅行すること、そして Berkshires をうねうねと走る眺めの良い田舎の道で長距離のサイクリングをすることを楽しみにしていたという。

 転倒が始まったころ、Hardy-Fanta さんは、両側の股関節、左の臀部、および左足の痛みを抱えており、同時に説明しがたい姿勢の異常もみられた。彼女は左足の外側で立っていることに気づいたのである。そこで彼女は足治療医を受診し、最近の転倒について説明した。その説明を聞いた彼は、彼女が“少しおっちょこちょいな人間のようだ”という印象を持った。その足治療医は歩行用のブーツを処方し、彼女はそれを忠実に履いたが、彼女の股関節痛は増悪した。かかりつけの内科医はそのころ、彼女の股関節のそばにある液の満たされた袋の炎症、すなわち bursitis(滑液包炎)と診断し、理学療法を勧めていた。彼女の奇妙な立ち方は股関節の痛みに対する反応とみられていた。

 しかしブーツでも理学療法でも痛みを軽減させることができなかったため、彼女は関節の病気である可能性を考えリウマチ専門医を受診した。彼は複数のMRI検査を行った;しかし股関節に軽度の関節炎があった以外には有意な病変は何も認められなかった。

 次の受診先は整形外科医だった。その医師はステロイドの注射を行った。その後7ヶ月に渡って Hardy-Fanta さんは一連の医師から5回の注射を受けた;年に4回の注射が一般的に最大の安全用量とみなされている。残念ながらそれらは痛みの緩和にはほとんど効果がなかった。

 2017年8月、Hardy-Fanta さんは左足を取られ転倒、腕を骨折し修復手術を必要とした。

 そのころ彼女は2、3週間毎に転倒していた。左手を時々不随意に握ってしまい、書字は小さく縮こまったようになり、時にそれらが彼女自身にも読めないことがあることに気付いた。話し方も変化した;声は小さく、より早口になった。しばしば夫は彼女の言っていることが理解できないこともあった。

 彼女は神経内科医を受診したが、彼女の症状に“神経学的原因が存在する証拠”は何も見つからなかった。彼女に対し転倒予防のため歩行訓練を始め、股関節痛に対する理学療法を続けるよう彼は勧めた。

 2017年11月、二人目の神経内科医を受診した。医学雑誌を熱心に読んでいた Hardy-Fanta さんは、繰り返す転倒や他の症状が Parkinson’s disease(パーキンソン病)の兆候ではないかと恐れていたという。この進行性の神経疾患では脳の神経細胞の機能が低下、死滅することで神経伝達物質の dopamine(ドパミン)のレベルが低下するために発症し、運動が障害される。

 自分がパーキンソン病である可能性について医師に尋ねると、それは考えにくいと彼は告げた。彼によれば、彼女にはこの疾患に特徴的な、振戦、固縮、動作緩慢のいずれも認められないということだった。

 「彼女の診察結果は安心できるものであり、神経疾患の潜在を示唆する証拠はない」と彼は記載しており、最初の神経内科医と同じ考えだった。

 

Not reassured 安心には至らず

 

 バランスを改善させ転倒を予防するための理学療法や歩行訓練にもかかわらず Hardy-Fanta さんの股関節の痛みは増悪した。彼女はしばしば歩行器や車椅子を利用しなければならなかったが、それによって転倒は減少した。

 2018年初頭に施行されたMRIで、彼女の右の大腿骨頭に avascular necrosis(虚血性壊死)が起こっていることがわかった。徐々に増悪し疼痛を引き起こすこの疾患は、血流の途絶によってもたらされる骨組織の壊死に起因する。その原因には長期に及ぶ高用量のステロイドの使用がある;コルチゾンの関節内注射後の壊死も報告されている。

 2018年3月、Hardy-Fanta さんは右股関節の全置換術を受けた。これによって疼痛は一時的に軽減した。しかし、左手がさらに鉤状になっていることに気づいて驚いた。また、彼女にはパーキンソン病患者によく見られる一時的な運動障害である freezing gait(すくみ足)の徴候がみられた。

 2019年1月、3人目の神経内科医は“frontal gait disorder(前頭葉性歩行障害)”と診断し、進行性神経疾患を調べる目的で PET 検査を彼女に行った。彼は脳の進行性の変性によって引き起こされる稀な疾患である frontotemporal dementia(前頭側頭型認知症)を除外したいと Hardy-Fanta さんに説明した。アルツハイマー病に類似するこの変性疾患は行動や言語の変化をもたらす。

 その検査では認知症の徴候は認められなかったが、その神経内科医は、もし Hardy-Fanta さんがパーキンソン病を心配するなら DaT scan(ダット・スキャン:ドパミントランスポーターシンチ)と呼ばれる特殊な検査が明確な答えを提供してくれる可能性があると提案した。この脳検査はドパミン活性を映し出す放射性トレーサーを用いるものである。パーキンソン病の患者では、この検査で活性低下が示される。本検査はパーキンソン病を特異的に診断できるわけではない――パーキンソン病の大部分のケースは症候や理学検査をベースに診断される――が疑いの残るケースには診断の補強に有用となる。

 2019年9月に行われたこの検査によって Hardy-Fanta さんと彼女の夫が恐れていたこと、すなわち神経変性疾患であるパーキンソン病に一致する証拠が確認された。

 およそ100万人の米国人が罹患しているパーキンソン病は長い年月をかけてゆっくりと進行する。約2;1で男性が女性より多い。本疾患に根本的治療法はないが、通常は薬によって対応可能である。原因はほとんどわかっていないが、一部の例では遺伝因子、あるいは重金属や農薬への曝露が関与している可能性がある。

 「その診断に私たちは大変動揺しました」と Hardy-Fanta さんは言う。視野狭窄だったと彼女が見なしているこれまでの対応に対し彼女は腹を立てている:整形外科医たちは彼女の痛みを整形外科的原因のせいにしていたようだが、それはパーキンソン病の徴候だった可能性がある。さらに神経内科医たちは、彼女の小声の会話、書字の変化、あるいは手が開かない症状などはパーキンソン病によくみられる徴候でありながら、振戦や固縮など、特徴的ないくつかの症状がみられないからといって本疾患を除外した。とりわけ Hardy-Fanta さんは多くのコルチゾンの注射を受けたことを後悔していると言う。これが壊死を引き起こし、股関節置換術を余儀なくされたと彼女は考えている。

 Parkinson’s Foundation(パーキンソン財団)のメディカル・ディレクターである神経内科医の Michael S. Okun(マイケル・S・オークン)氏によると、Hardy-Fanta さんのケースは、本疾患が女性ではどのような症状を発現し得るかについての知識が相対的に不足していることを例証するものだという。

 パーキンソン病は一つの疾患ではないと彼は言う。「パーキンソン病には非常にたくさんの異なるサブタイプがあります」と Okun 氏は言う。彼は University of Florida(フロリダ大学)の神経内科部門の責任者を務めている。

 彼によると、Hardy-Fanta さんの繰り返す転倒は確かに“red flag symptom(警告徴候)”ではあるが、初期段階のパーキンソン病に特徴的な症状ではないという。

 「我々は診断にあたってはもっとしっかりと行う必要があります」と Okun氏は言う。パーキンソン病の患者が、後になって筋骨格系の病気ではなく神経疾患に関連していることが判明するような症状のために手術を含む不必要な整形外科的処置を受けてしまうことはよく見られることであると彼は付け加える。

 

Forging ahead 前に向かって進む

 

 2019年秋、Hardy-Fanta さんは4人目の神経内科医への受診を始めた。この医師はパーキンソン病および関連する運動障害を専門にしている。

 その専門医は Sinumet(シネメット)を処方した。これはパーキンソン病の症状を治療するのに通常用いられる。これによってHardy-Fanta さんには改善がみられ、これによって診断が確定した。(この薬剤を内服しても改善が見られない患者は異なる運動疾患を有する可能性がある。一方反応が良好な場合にはパーキンソン病が示唆される)。

 神経内科医は Hardy-Fanta さんに、彼女の左足の外側で立つという奇妙な姿勢は、左足と股関節の痛みと同じように恐らくこの病気の初期症状であったようだと説明した。彼女の転倒のうち幾度かは dystonia(ジストニア)による可能性があった。これは異常な姿勢や運動の障害をもたらす不随意な筋の収縮である。ジストニアはパーキンソン病でよく見られる症状である。

 Hardy-Fanta さんによると、彼女と家族は、この人生を変えるような疾患と付き合うよう調整を行っている。彼女は水泳を始め、定期的な運動を行いながら活動の維持を目的とした理学療法を受けることを続けている。彼女は夫と数回の旅行を計画し、また、より多くの時間を割いて2人の成人した娘と10ヶ月になる孫と一緒に過ごすようにしている。

 Hardy-Fanta さんは自身の診断に3年かかり、数多くの検査と不必要な治療を受けてきたことを腹立たしく思っているが、もっと早期に診断されていることが望ましかったかどうかは分からないという。

 「4年前に自分がパーキンソン病だということを知りたいと思っていたでしょうか?」そう彼女は自問する。「正直わからないのです」そう彼女は言う。

 

 

 

パーキンソン病の詳細については、

パーキンソン治療の応援サイト “パーキンソンスマイル.net

を参照いただきたい。

 

運動は大脳皮質の運動野からの指令によって行われるが、

この指令にドパミンによる調節が加わることによって

円滑な運動が可能となる。

このドパミンを作る細胞が中脳の黒質にあるドパミン神経細胞である。

パーキンソン病の患者ではこのドパミン神経細胞が壊れてしまうため

ドパミンが減少し様々な運動障害が引き起こされる。

本疾患の大部分はいまだに原因不明である。

遺伝性に発症するケースもあるがまれである。

罹患率は人口10万人あたり100~150人だが、

60歳以上では10万人に約1,000人と多くなっている。

40歳以下で発症する例は若年性パーキンソン病と呼ばれている。

 

運動症状はパーキンソン病の発症早期からみられ、

①静止時振戦(じっとしているときに手足が震える)、

②筋固縮(筋肉のこわばり)

③無動・寡動・動作緩慢(動きが鈍くなる)、

④姿勢反射障害(身体のバランスがとりにくくなる)の4症状が

パーキンソン病の4大症状と呼ばれている。

新しい診断基準では、これらのうち、

無動・寡動・動作緩慢が必須症状とされており、

これに筋固縮あるいは振戦のいずれかの症状があり、

さらにドパミン補充療法が有効、嗅覚低下などの支持所見があり、

他の原因・疾患が除外されればパーキンソン病と診断される。

またすくみ足、嚥下障害、姿勢異常などが見られることもある。

運動症状は初期には左右いずれか一方に発症することが多いが、

病状の進行とともに両側に見られるようになる。

典型的な症状を示すケースでは診断は可能だが、

初期には本記事のように非典型的な症候を呈する例があり

診断が困難な場合もある。

ただ、元気だった人が転倒を異常に繰り返すようになった、

という症状の背景には、脳に何かただならぬことが

起こっている可能性を考えておく必要があるだろう

コメント
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