われらが広島カープもついに力尽きました。
残念ながらCS進出は果たせそうにありません。
ラスト・イヤーの広島市民球場で日本シリーズを、
との願いは九分九厘叶わないでしょう。
しかしまぁ、今年はあの戦力でよく頑張ったものだと思います。
勝率5割がかなえば、ブラウン監督続投だそうなので、
おそらく、それは大丈夫でしょう。
新球場スタートをわけのわからん新監督で迎えることになれば、
間違いなくチームは空中分解しそうなので、
そういう意味では良かったと思います。
新球場一年目のシーズンは是非とも今年の延長線で
頑張ってもらいたいものです。
あ
さて、野球と言えばタイトルに挙げた小説。
先日、ある書店の新刊書の棚で、この本を
MrK 一押しの作家、“高村薫”の新刊と早合点してしまいました。
高村にしてはミョーに軽いタイトル、薄っぺらい本だと思ったのですが
よく確かめずにレジに持って行き、購入した後で
これが“北村”薫の作品であることがわかったのです。
あ
『野球の国のアリス』
あ
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あ
あ
講談社の、“かつて子供だったあなたと少年少女のための
ミステリーランド” シリーズからの一冊。
なんと、すべての漢字にルビがふってあり、
「しまった、子供向け図書だったか」と後悔。
しかし、2,100円も出したのだから
ま、とにかく読んでみることに…。
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桜が満開の季節、小説家のわたしは、ふいにま新しい中学の制服の女の子に話しかけられます。
半年前にわたしが取材した小学生の少年野球チームのエースでアリスという子でした。
アリスは男子にも負けない有能なピッチャーでしたが中学生になれば、女の子には活躍の場がなく野球をあきらめなくてはならないといいます。
「でも昨日までわたし、おかしなところで投げていたんですよ」「大変だ、大変だ、遅れちまう」とあわてて通り過ぎた宇佐木(うさぎ)という新聞記者を追いかけて、鏡の国に入ったアリス。
そこでは、同じ人たちが同じ町で生活していましたが、すべてが反対の世界でした。
新聞の文字も、建物の位置関係も、自動車の走行車線も…
そして、アリスの大好きな野球も、その大会には勝ち抜き戦(表の大会)がある一方で、負け残り戦(裏の大会)というのがありました。
なんとアリスの中学校はその最終戦に『負け残って』いたのです。そもそもは、試合に負けた子供達に敗者のレッテルを貼ることが望ましくないとの発想から、裏の大会が始まったらしいというのです。
負けたチームでも試合が続けられるようにと…
そのうち決定的なエラーなど恥や屈辱のプレーこそが見せ場となり、裏の大会は、表の大会以上に人気となりました。
大好きな野球が捻じ曲げられた形で楽しまれていることに憤慨するアリス。
その最弱を争う野球チームになんとか入りこみその最終戦に出場。
一回表、トップバッターのアリスはすかさず長打を放つのですが…アリスは力を発揮できず、あえなくチームはコールドで負け最弱が決定。
しかし、こちら(鏡の中)の世界にも現状を残念に思っている人間がいたのです。
宇佐木さんです。
彼は、一番負けたチームを表の大会の優勝チームと戦わせ、いい試合をしたらどうだろうと考えていたのです。
世間にはびこる見下す笑いをなくすことができるのではないかと。
試合を画策することで現実への最高の抗議としたかった…
宇佐木さんは奔走し、アリスや、あちら(元)の世界でバッテリーを組んでいた兵頭や、アリスの最大のライバルだった五堂(セクハラ五堂)君をこちらに呼び寄せ、チームに引き入れます。
こうして、最強チームと最弱チームとの一戦が始まったのです…
あ
お話は『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』をパロったような
不思議なストーリーを展開させてゆきますが、
物語の随所に『皮肉』がちりばめられていて、一度読んだだけでは
むずかしいところもあります。
冒頭に書いたように、一見ジュブナイルな作品に思われましたが、
小学生にはちょっと難解でしょう。
それでも、子供は子供なりに理解し感ずるところを感ずれば
それでいいのかもしれません。
あとがきの「わたしが子どもだったころ」で
著者自身が書いているように、「心のやわらかなうちに出会った
さまざまなドラマや本の中には、今でも鮮やかに
思い出すものがある」だろうからです。
シニカルな内容もある一方、
謡口早苗氏の素敵なイラストの効果もあって
わくわくするような気持ちで子供の世界を楽しめます。
かつて子供だった今の大人に、昔の純粋な気持ちを呼び起こし、
さわやかな読後感を残してくれる作品、と言い切っても
いいかと思います。
北村薫作品では、これまで
未来へのタイムスリップを題材にした『スキップ』しか読んだことは
ありませんでしたが、我々が経験することは、良いも悪いも
すべてが人間として大切な財産である、
共通してそんなメッセージが届けられているように思えました。