MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

症状を繰り返した少年の本当の苦しみ

2018-10-24 16:04:07 | 健康・病気

10月のメディカルミステリーです。

 

10月20日付 Washington Post 電子版

 

Leaping from specialists to ERs fails to solve this young boy’s odd ailments

専門医から緊急室まで飛び回ってもこの少年の奇妙な病気は解明できなかった

 

 

By Sandra G. Boodman,

 

 よちよち歩きのころから Michael(マイケル)くんは何度も医学的な症状に苦しんだが医師らは原因を説明できなかった。

 ひどい足の痛みが最初だった。その数年後には、時に激しい、繰り返す腹痛がみられた。さらにその後、この小さな少年には、厄介な咳がみられるようになり、呼吸困難を伴った。5年生のとき、転倒し尾骨を打撲した後には、ひどい疼痛に襲われ車椅子の状態となった。

 経過中、心配した両親は彼を4ヶ所の緊急室や多くのワシントン地区の専門医に連れて行った。それらは、整形外科医、神経内科医、小児科医、そして胃腸科医だった。しかし実質的にあらゆる検査で原因を明らかにすることはできなかった。

 この10歳の少年の病歴のバラバラな要素をまとめ、この少年と家族にとってターニング・ポイントとなった予想外の診断を下したのは、ある熟練した小児科医だった。

 それから3年、現在14歳で高等学校の1年生となった Michel くんは、彼の人生の最初の10年間を支配してきたこの病気を乗り越えたようにみえる。

 彼の父親は、息子の病気は種々の“最悪の要因”に起因したと考えているという。また、彼は、Michael くんを診察した医師らが 「彼らの推測をもう少しだけ率直に」伝え、もっと指示を与えてくれていたらと考えているようである。Michael くんのプライバシーを守るために、彼の両親は、彼と自分たちがミドルネームによって特定されることがないよう求めている。

 

A child in pain 痛がる子供

 

 もう少しで2歳というころ、それまで健康だった Michael くんは足を引きずり初め、歩かなくなった。かかりつけの小児科医は明らかな原因を見つけられず、彼を小児神経内科医に紹介した。その医師は画像検査や血液検査など詳細な検査を行った。若年性関節炎や悪性腫瘍など考えられる原因は除外され、この幼児は特発性関節腫脹と診断された。これは、原因不明に関節が腫れる病気である。Michael くんの父親 Ralph(ラルフ)さんによると、この少年は何の治療も受けなかったが、一週間後には症状は自然に消失したという。

 その翌年、Michael くんはある朝、膝とおなかが痛いと叫んで目を覚ました。両親は彼を近くの ER に連れて行った。医師らは何も発見できなかった:Michael くんは歩けたし、熱はなく、触られても痛みはないようだった。数時間後、医師らは彼を自宅に戻した。一日後には彼は走り回っており問題はないように思われた。

 数ヶ月後、腹痛が再び何度か起こり、時には下痢を伴った。New England でプライマリケア医をしていた Ralph さんの妹は、彼がドミニカ共和国への旅行中に寄生虫感染症にかかったのではないかと考えた。しかし小児科医によって行われた検査では寄生虫は除外された。

 その翌年、Michael くんの腹痛と関節痛が周期的に繰り返し見られるようになったため、別のERへの受診を迫られた。

 「概して、自分たちは身体的愁訴に対して反応が低い人間です」と Ralph さんは言う。彼と妻の Maria(マリア)さんは、この下の息子の病気をあまり大げさに扱わないようにしていた。それによって彼が不必要に「注目されたがるように」なってしまうことを心配したからである。

 当時、この家族は別の問題を抱えていた:Michael くんの兄が注意欠陥多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder, ADHD)に苦しんでいたのである。この病気によって Ralph さんとの間に衝突が引き起こされていた。一方、Maria さんは入院を要するほどの重症の肺炎に罹っていた。さらに Ralph さんは、南アジアの登山旅行の後に何度か膝の手術を受け、その際に生命を脅かすような血栓症を併発していた。

 2013年、Michael くんが親水公園でハンバーガーを食べ食中毒になったとき、下痢と嘔吐が治まったあとも強い腹痛が長く続いた。

 彼は小児胃腸科医を受診したが、検査では痛みを説明できるものは何も見つからなかった。その痛みで Michael くんは一学期のうち17日間、授業を欠席することになった。Michael くんの腹痛は、食事やストレスに関係する可能性があるとその医師は言った。

 小児精神分析医との面談後、彼の痛みは軽減したようだった。自分の気持ちを内緒にする傾向があった Michael くんは学校で問題があったこと、家族が病気だったので彼らが死んでしまうのではないかと恐れていたことなどを両親に打ち明けた。

 一年後の2014年12月、悩ましい咳と呼吸困難で再び彼は ER を受診した。喘息や他の疾患は除外され、医師は当初、声帯機能不全と診断した。これは、声帯が正常に開かないときに起こるものである。しかしその診断はやがて否定された;数週後には咳と呼吸困難は消失したからである。

 その翌月、Michael くんは自宅の私道の凍結したところで転倒し、尾骨と腰を打撲した。両親は彼を応急手当のできる施設に連れて行き、続いて整形外科医を受診した。レントゲンでも MRI でも彼の強い痛みを説明できる損傷は示されなかった。歩行がひどく苦痛そうだったため両親は車椅子を借りた。

 「まさにこのときから症状が悪化していったのです」 と Ralph さんは思い起こす。

 

Pointed advice 適切なアドバイス

 

 3週間後、Michael くんはまだ強い痛みを訴えており、歩行はできないようだった。両親は彼を ER に連れて行った。

 彼を診察した熟練した小児科医は率直な判断を行う人物で、そのアドバイスは具体的だった。

 即刻、車椅子をやめるように彼は勧めた。息子さんにはそれは必要ないと。彼の腰痛には特定できる原因は見つかっていないし、Michael くんの病歴は、数多くの検査につながるも何ら異常が認められなかった似たようなできごとにあふれているというのである。

 Michael くんが一般には心身症として知られている身体症状症(somatic symptom disorder)であると彼は言った。彼の痛みは本物だが、その起源は精神的なものであり、身体的なものではなかったのである。

 その医師は、多面的なアプローチで治療に臨むことをアドバイスした:Michael くんは医学的に説明できない身体症状を専門とする小児精神科医を受診し、また、彼の痛みを和らげ、正常に歩く能力を回復するために理学および作業療法を開始すべきであるとした。家族は、彼の病気の一因となっている可能性がある家族の動態を探るために家族療法の実施を開始すべきであると考えた。また、手当たり次第に専門医を受診しさらなる不必要な検査が行われることを防ぐために手厚い医療的ケアが受けられるようプライマリケアの医師による調整が必要とされた。

 Ralph さんが言うには、その医師は「彼が痛みを感じていることは事実であり、彼が快方に向かうことに力を尽くすという」確固たる保証を両親が行うことを勧めたという。すなわち、次のように言いなさいというのである。「私たちはあなたの身体を鍛え直す必要があり、あなたは痛みを押して動かなくてはなりません。そうすればあなたは良くなるでしょう」

 身体症状症は就学前に始まる例もみられ、本症を発症した子供たちはしばしば多くの専門医を受診し、精密検査を受けているが、その成果はほとんど、もしくは全く得られていない。この疾患は心身相関(mind-body connection)の産物である。要するに心理的ストレスが身体症状をもたらすのである。(緊張型頭痛がその一例である)。

 身体症状症を発症した一部の症例では予想される以上に頻回に激しい嘔気や肉離れによる痛みなどの症状が経験されることがある。この疾患は、両親の離婚や本人の重病など、小児の生活に大きな変化があった後や、家族争議の結果として、あるいは、子供が精神的な障害ではなく身体的な障害で注目されるような家族内で起こることがある。遺伝的要因が関与している可能性もある。

 数ヶ月間 Michael くんを診察した小児精神科医は、Ralph さんが容認し署名した文書はあるものの、患者については一切話さないと言って、インタビューを拒否している。

 医療記録には、治療中に Michael くんが長く自分の殻に閉じめてきた多くの不安を伝えたことが示されている:それは、彼自身の健康が危機的状況にあったことや、“何年もの間”安らかな気持ちでいられなかったことなどである。さらに彼は、学校で問題を抱えていたことや、特にADHD に関連して父親と兄の間のいさかいに動揺していたことも伝えた。

 「Michael は後回しにされることを心配していたのだと思います」と Ralph さんは言う。

 身体症状症は「家族がその診断を受け入れることがない場合には特に」治療がむずかしくなる可能性があると Roberto Ortiz-Aguayo(ロベルト・オルティス‐アグァヨ)氏は言う。彼は Children's Hospital of Philadelphia の小児・思春期精神科の副部長で小児科医でもあり小児精神科医でもある。単に医師が潜在する身体的問題の原因を発見できてないだけではないかと主張して動こうとしない家族もあるという。

 もし医師が、小児が身体症状症ではないかと疑ったとしても家族との関係を悪くすることを恐れてその診断を下すことに躊躇する可能性があると彼は指摘する。

 身体症状症はよく見られる疾患であり、「いつも頭を悩まされている医師の大きな不満の根源を象徴するものとなっています:何かを見逃していたらどうなるのだろう?」そう Ortiz-Aguayo 氏は続ける。

 仮病を使って休むこと(malingering)、すなわち詐病は小児ではきわめてめずらしいと彼は付け加える。

 

The aftermath その後

 

 Ralph さんによると、彼と妻はその診断を受け入れ、治療計画を遂行するよう努力したという。Michael くんが両親の健康、あるいは、兄と父の間の当時の困難な関係についてそれほどまでに心配していたことを彼らは知らなかったと彼は言う。もし知っていれば、彼らはこれらの不安について彼と包み隠さず話し合う努力をしていただろうと Ralph さんは言う。

 小児精神科医は Ralph さんに、毎晩就寝前にMichael くんに寄り添い彼の気持ちについて話し合える機会を持つよう勧めた。

 「私はこう思いました。『なるほど、そうか、私にも心理療法ができるんだ』」そう Ralph さんは言う。Michael くんは話したがっていたのである。その後多難な数ヶ月を経て、彼の症状は改善し、痛みなく正常に歩けるようになった。

 Michael くんは医師らが病気の原因について彼に包み隠さず話してくれたことを覚えている。「彼らは可能な限り最適な方法でそれを話してくれました」と彼は言う。「彼らは僕に事態は好転するだろうという希望を与えてくれたのです」

 この3年間、彼はスポーツに関連した外傷で2度の手術を受けたが、その後でさえ再発の徴候は見られなかった。

 身体症状症を疑った医師らがもっと率直であってくれていればと彼の父親は考えている。そうすれば専門医から緊急室へと飛び回ることに費やした数年間を短縮できていたかもしれないからだ。

 「医師の指示となれば、私たちはそれに従う人間です。もし誰かに一連のカウンセリングを受けるべきだと言われたら、私たちはそうしていたでしょう」と Ralph さんは言う。しかし実際は「身体的問題として医療化の渦に巻き込まれてしまったのです」

 

 

 

『身体症状症』(somatic symptom disorder)は、

かつては『身体表現性障害』と呼ばれていた

『身体症状症および関連症群』というカテゴリーの中の

下位分類の1つである。

小児の『身体症状症』については MSD マニュアル家庭版

ご参照いただきたい。

 

『身体症状症』とは

精神的ストレスや精神的な問題への反応として、

苦痛を伴う身体症状や日常生活を困難にする身体症状が

無意識に出現、それに対して強い不安を持ち、

実際よりも重篤なものと思い込んでしまい、

自分に身体疾患がないことの確認に

過度の時間や労力を費やしてしまうような

認知、感情、行動の異常である。

本疾患は、小児期では男女同程度にみられるが、

青年期になると女子により多くみられる。

症状は、痛み、呼吸困難、筋力低下など多様である。

麻痺、視力・聴力障害など神経症状に類似することもあるが、

頭痛、吐き気、腹痛など漠然とした症状を示すこともある。

このような症状は患児が意識的に作ったものではなく、

患児は実際に自分が訴えている症状を体験し苦しんでいる。

この点が詐病や仮病と異なるところである。

また症状は想像上のものであるにもかかわらず、

患児はその症状に過剰に反応し、頭の中がその症状で

いっぱいになっていることもあれば、

重篤な病気にかかっていると本人が思い込んでいることもある。

患児の関心は自分の健康や症状だけに向けられているため

症状の重さを心配し、健康や症状に関係する行動に

過剰な時間と労力を費やすことになる。

また家族が重篤な病気に罹ったときに小児が身体症状を

呈するケースがよくみられる。

 

本疾患の診断は、各種の検査を行って

症状の原因が身体的な病気である可能性を否定した後に、

症状に基づいて下されるが、過度の検査を行うと、

患児が自分の身体に悪いところがあるとさらに信じこんだり、

逆に心が傷ついたりする可能性があるため注意を要する。

医師は本人や家族と話をして、心理的問題がないかどうか、

また家族内の関係に問題がないかを明らかにする必要がある。

 

治療は患児自身や家族に対する精神療法として、

しばしば認知行動療法を用いた精神療法が有効である。

認知行動療法では、症状が悪くなるきっかけや状況、

逆に症状が良くなる因子を明確にし、

症状を持続させている思考や行動のパターンを、

本人や家族が認識できるようにして、悪循環を断ち

症状が軽くなるような行動を促していく。

また、催眠、バイオフィードバック、リラクゼーション療法

などが用いられることがある。

また、患児を普段の日常生活に戻すことを目的とした

理学療法や作業療法などのリハビリテーションプログラムも

併せて行われる。

また患児を支援し、定期的に診察を行い、すべての治療を

調整するかかりつけ医を確保ことも重要となる

これらの病気に伴うことのある痛み、不安、抑うつを

緩和するために

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの

薬物が用いられることもある。

 

なかなか大変な病気のようであるが、

さんざん検査を行って『どこも悪くない』と伝えるだけでは

全く解決に結びつかないということを肝に銘じておく必要が

ありそうだ。

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