MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

大麻への強い想い

2020-08-27 22:47:00 | 健康・病気

連日強烈な暑さが続いているが、ようやく9月。

Covid-19 感染が収まる気配のないまま、

この先気温が下がっていくとなると、

また別の心配が生まれてくる。

今のうちにしっかりと診断体制を整えておく必要が

あると思うのだが…

 

ま、それはさておき、

8月のメディカル・ミステリーです。

 

8月22日付 Washington Post 電子版

 

For days she couldn’t stop getting sick. At first she doubted the probable cause.

何日も、彼女は症状の悪化を止めることができなかった。彼女は、最初、推定された原因ではないと考えた。

By Sandra G. Boodman,  

 

 その嘔吐はほとんど前触れなく、何ら明らかな理由もないままに起こった。

 それは Alice Moon(アリス・ムーン)さんが友人たちと外出した翌日に時々見られることがあった。また、ロサンゼルスの広報のスペシャリストである彼女が空港に向かう途中の車の中、あるいは飛行機の中で起こることもあった。この症状は頻回にみられたので、Moon さんは起こったときのためにビニールのゴミ袋を持ち歩くようにした。その嘔吐は旅行の不安に対する反応ではないかと友人たちは推測した。

 最悪の症状の一つは2018年3月に起こった。それはたいへん楽しみにしていた彼女の母親の誕生のお祝いで Moon さんがニューヨーク市で5日間を過ごしていたときだった。

 「私がずっと以前から食べたいと思っていた凍らせたココアを買ったときでした」と彼女は思い起こす。突然、Moon さんは腹痛、嘔気、そして発汗の発作に襲われたが、汗が大量だったため、マイナス1℃の気温にもかかわらず、彼女は帽子もコートも手袋も脱ぎ捨てた。彼女はこの旅行の多くを、心配した母親とともにホテルの部屋で過ごすことになったが、あまりに体調が悪かったのでずっと前から計画していたことが実行できなかった。

 

Alice Moon さんは cannabis products(大麻製品)の販売を推進している。彼女の予測できない嘔吐の症状は 2016年のハロウィーンの夜に起こった。

 

 数週間後、胃腸専門医は Moon さんの予測できない嘔吐の疑わしい原因に焦点を絞り行動指針を示した。しかし、Moon さんはこれを疑わしく思い、その年の残りの期間を試行錯誤に費やしたが、症状は徐々にひどくなっていく一方であり、結局その診断に疑問の余地がない状況となっていった。

 現在31歳になる彼女は今もその結果に立ち向かっており、それによって思いも寄らなかった形で身体的、精神的、そして職業的に自身の生活が変わったのである。

 

Insomnia remedy 不眠治療

 

 最初の症状は2016年のハロウィーンの夜に起こった。Moon さんと友人が trick-or-treaters(ハロウィーンでお菓子をねだる子供たち)を見ながら近所を歩き回っていたときのことだった。突然 Moon さんが嘔吐し始めたのである。「意味がわかりませんでした」と彼女は言う。

 彼女は自宅に戻り、少しマリファナを吸った。マリファナで嘔気や嘔吐を和らげることができることから化学療法を受けている人たちの間で用いられていることを彼女は知っていたからである。Cannabis products(大麻製品)を販売促進する Moon さんは、2011年からマリファナ産業の分野で働いてきた。その一環として、ある薬局では「すべての人たちでそれが有用だと思う」と彼女は語っている。(カリフォルニア州は1996年に医療用として、また2016年にはレクリエーション(娯楽)目的で cannabis を合法化している)。

 Moon さんは、長く続いていた不眠と闘い、不安やうつを抑える目的で、この数年間、夜間に cannabis を用いてきた。彼女は自身を、毎日使用するが中毒にはなっていない人間であると表現する。「私は一日中マリファナでハイになるような人間の一人では決してありませんでした」と彼女は言う。

 例のハロウィーンの症状は2、3時間続いたが、その数日後に受診したところ胃食道逆流症と診断された。医師は彼女に、香辛料の利いた食べ物やトマトなどの酸味の強い食べ物を避け、処方箋がなくても購入可能な制酸剤を内服するよう助言した。

 2、3ヶ月間は、それらの方法が有効に思われた。しかし、2017年の初めになると嘔吐が再び出現した。その症状は、週に一回起こっており、Moon さんにはたとえ少量であってもアルコールの消費に一致している様に思われたので飲酒を中止した。

 しかし、嘔吐は続いた。彼女は月に一回は仕事で飛行機に乗っており、「私が車内で嘔吐した Ubers(配車サービスの車)がどのくらいの数になるのかわからなくなるほどでした」と彼女は言う。

 「私が憂慮していたのは確かですが、何をすべきなのかわかりませんでした」と Moon さんは言う。元から痩せていたが、彼女はさらに体重が減り始めた。彼女は5フィート6インチ(約171cm )の身長で、体重は110ポンド(約50kg)だった。

 2017年の終わり頃、彼女は cannabis 常用者の一部にみられる異常な症状についてのブログ記事を読んだ:それは何日も続くことのある治療の決め手がない難治性の嘔吐だった。

 「イカレた目をした人物のイラストが描かれていたのを覚えています」と Moon さんは言う。「しばらくの間、私はそのことを頭の中にとどめていましたが、自分の話としては納得できませんでした。しかし私は確かにマリファナを使った翌日に嘔吐し続けていたのです」

 症状が頻度とひどさを増していく中、Moon さんは、嘔吐の時間を抑えてくれるように思われる唯一のものが hot bath(温浴)であることを発見した。「それがなぜ効くのかは分かりませんでした」と彼女は言う。「浴槽から出るや否や、私は嘔吐し始めていたのです」疲れ切って脱水状態となったまま浴室の床の上で寝てしまう夜もあった。

 

Unconvinced 納得できない

 

 悲惨だった例のニューヨークへの旅行のあとすぐに Moon さんが受診した胃腸科医は理学的診察を行い 自分が cannabis の常用者であることを Moon さんが彼女に告げると、彼女は詳細な質問を行った。Moon さんの症状と温浴によって症状が緩和されたことに基づいて、彼女は cannabinoid hyperemesis syndrome(CHS, カンナビノイド過嘔吐症候群)を疑った。これはまさに数ヶ月前に Moon さんが読み、そして却下した疾患だった。

 この稀な疾患は 2004 年にオーストラリアの医師らによってはじめて報告された。彼らは、cannabis を頻回に使用する人のうち、熱いシャワーや入浴によって緩和される激しい嘔吐を起こす少数例を記載した。Moon さんのように、制吐作用を持つマリファナを用いることで嘔吐を抑えようとするも失敗に終わった人も少数いた。しかしヘビーユーザーの一部には、消化管への作用を持つ cannabis が逆説的効果を有することから、制御不能なひどい嘔吐を引き起こす可能性がある。オーストラリアの研究者らの報告によると、それを止める唯一の方法はマリファナを断つことだったという。

 かつてはまれと考えられていたが、cannabis を合法化している州において米国の医師による CHS の症例報告が増加してきている。

 「私の cannabis の使用が彼女を非常に心配させることになりました」と Moon さんは思い起こす。その胃腸科医は Moon さんに、マリファナの使用を3~6ヶ月間中止してみて、それでももし症状がみられるようなら再開してみるよう助言した。その専門医は Moon さんに、他の疾患を鑑別するために、不必要かもしれない高額で危険を伴う可能性のある検査を依頼したくないと話した。

 Moon さんは異議を唱えた。「私はこれが原因であると納得していませんでした」と彼女は言う。彼女はこれについてじっくりと考えたが、Malibu(マリブ)で行われた cannabis をテーマにしたディナー・パーティに出席することを決意した。

 しかし自宅に戻って数時間後、Moon さんに嘔吐が始まった。そしてそれは2週間以上止まらなかった。

 症状が始まってから4日して Moon さんは自宅近くの緊急ケアセンターに行った。当直の医師は CHS について知らなかった。ひどい脱水を治療するため彼は点滴を行い、彼女に制吐剤を投与した。制吐剤は一般的に CHS に対して無効である。しかし、彼女が軽快したかに見えたため彼は彼女を自宅に帰した。

 数時間後、Moon さんは再び嘔吐し始めた。彼女のルームメイトは出かけて、香辛料のチリ・ペパーに含まれる活性成分由来のカプサイシンをベースにした処方なしで購入できるクリームを買った。チリ・ペパーは CHS によって引き起こされる嘔吐を軽減することが知られている。Moon さんは腹部に少量を塗ると眠り込んだ。

 ところが数時間後、彼女は激痛で目が覚めた。

 「私のお腹の上にガスバーナーを当てたような感じでした」と彼女は言う。彼女は必死になってそのクリームを取り除こうとして濡れた布でお腹を擦ったがそれは燃える感じを増強させただけだった。(Moonさんはその後、水ではなくミルクを用いるべきだったことを知る)

 3日後、依然として嘔吐が続いていたため、友人が彼女を再び緊急ケアセンターまで車で連れて行った。前回彼女が受診した医師は彼女に点滴を行い、彼女がかかっていた胃腸科医に電話した。彼女は血液検査に加え CT と MRI 検査を依頼したが全て正常だった。

 その胃腸科医は、Moon さんの嘔吐が cannabis によって引き起こされているとの疑いを繰り返した。彼女は嘔吐がいつ止まるのか予測できなかったが、数日後、ようやく嘔吐は止まった。

 Moon さんによると、それからの5ヶ月間、不眠やうつと闘いながら cannabis をほとんど避けるようにしたという。

 しかし 9月下旬に彼女は CBD カプセル(ヘンプオイルカプセル)を間欠的に使い始めた。それによって、摂取用や吸入用のマリファナより嘔吐の誘発を抑えてくれるのではないかと考えたからである。12月22日まではなんとか抑えられていたようだったが、その日、祝日で家族のもとを訪れたとき、Moon さんはこれまで経験した中で最悪の発作に見舞われた。嘔吐があまりにひどかったため、Moon さんは旅行を切り上げ、ロサンゼルスに戻り、当地の病院に4日間入院した。彼女によると、そこの医師の診断は gastroparesis(胃不全麻痺)だった。これは胃がきちんと内容を空にできないことによって引き起こされる疾患である。Moon さんはさらに潰瘍と細菌感染症の診断を受けた。彼女は自身の CHS の診断について病院のチームに伝えたという;彼らはその病名を聞いたことがないと彼女に話した。

 

'A lot of suffering' 多大な苦痛‘

 

 「私は死にかけているようだと言われていました」と Moor さんは思い出すが、その後ゆっくりと回復した。いかなる種類のものであれ薬を彼女をが使用したのはあの時が最後になった。「それに手を出す気持ちは毛頭ありませんでした。使った結果に見合う価値がなかったのです」と彼女は言う。

 しかし、Moon さんは、とりわけ彼女の職業的、社会的生活が cannabis を中心に展開されていたことから、禁薬ができるとは思っていなかったという。「それは非常に辛いものでした」と彼女は言う。

 ロサンゼルスにある Cedars-Sinai Medical Center(シダーズ・サイナイメディカルセンター)の精神医学・行動神経科学部門の教授 Itai Danovitch(イタイ・ダノヴィッチ)氏によると、Moon さんの経験は、cannabis が何日もの発作性嘔吐を引き起こしているときであっても、多くの患者が直面する禁薬の困難を映し出しているという。(彼は Moon さんの実際の治療にはあたっていない)。

 「皆、使用している薬物を強く信じる考えを持っています」と Danovitch 氏は言う。彼は中毒精神医学が専門である。「そこには多くの、cannabis に対する文化的、宗教的、社会的、および地域的捕らえ方があり、それらが薬物使用者らの cannabis への執着を強くしているのです」

 多くの人たちは、薬物を使用していること、あるいは彼らがそれに依存していることを医師に告げようとはしないと彼は付け加えて言う。「CHSは依然として医師から過小認識されている状態にあります」と彼は言う。一般には CHS は他の疾患が除外されることで確定される除外診断となっている。

 なぜ一部の常用者が影響を受けやすいのか、あるいは、なぜ温水が症状を緩和するのかはわかっていない。ある研究によると、患者が CHSと診断されるまでに平均して7回の緊急室への受診、3回の入院を要していたことが明らかにされている。

 「CHSは、それがあることで非常にストレスの多い孤立化しやすい疾患です」と Danovitch 氏は付け加える。「患者が診断されるまでにしばしば長い時間がかかり、そこに至るまでに多大な苦痛が続きます」

 今、Moonさんはその苦痛と決別でき喜んでいる。彼女は現在、不眠の治療に瞑想を取り入れており、うつに対しては薬を内服している。これまで CHSの存在を信じない人たちや、彼女が症状を誇張していると主張する人たちからの攻撃に直面してきたと彼女は言う。

 彼女は、自身の経験を明らかにすることが他の人たちの救いになることを望んでいる。最近 Moon さんは、the Institute for Safe Medication Practices Canada(カナダ安全薬物療法協会)による cannabis 使用者向けの情報資料の原稿作成を手伝った。また彼女のウェブサイトにも CHS についての情報が載せられている。「広く伝えていくよう努力しています」と彼女は言う。

 

本邦では、大麻については大麻取締法により、

その所持、譲受、譲渡、栽培、輸出入が禁じられており、

事実上大麻使用することはできない。

一方、海外では医療用だけでなく、レクリエーション薬としても

合法化され、使用が認められている。

マリファナ、または cannabis は Cannabis sativa(大麻)と

して知られるアサ科の植物から抽出される天然物質である。

Cannabis は、レクリエーションとして陶酔するためや

治療上の目的で、喫煙、吸入、摂取されるなどして、

何世紀にもわたって用いられてきている。

米国では28州で医療用に使用され、そのうち8州では

レクリエーション用にも使用が認められている。

一般には副作用のない無害の物質であると考えられているが、

本記事にある Cannabinoid hyperemesis syndrome(CHS)は

慢性的な cannabis 使用例にみられる続発症である。

長期に渡って cannabis を使用している人で、

難治性の嘔気や嘔吐がみられ、その症状が

温水につかることで緩和される場合には、

臨床医は CHS を強く疑うべきである。

制吐剤に対する反応の欠如は CHS の診断の助けとなる。

CHS の治療を成功させる唯一の治療は cannabis からの

離脱だが、治療選択肢の一つの可能性がある薬剤として

ハロペリドールが検討されている。

CHS を経験している患者では cannabis の使用継続が

さらなる症状の引き金となるため、

使用を避けるためのカウンセリングを受けるべきである。

CHSはいまだ、その発症機序については不明な点も多く、

cannabis の使用者が増えている米国では注意喚起が

なされている。

マリファナの所持が禁じられている日本では

ほとんどお目にかかることはないと思われるが、

知識として持っておく必要がありそうだ。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする