hiyamizu's blog

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角田光代『それもまたちいさな光』を読む

2012年09月03日 | 読書2

角田光代著『それもまたちいさな光』文春文庫カ32-8、2012年5月文藝春秋発行、を読んだ。

デザイン会社に勤める仁絵は35歳独身。いまの生活に不満はないが、結婚しないまま1人で歳をとっていくのか、悩みはじめていた。そんな彼女に思いを寄せる幼馴染の雄大。だが仁絵はときめかない雄大との結婚に踏み込めない。
仁絵自身、周囲の人に反対されてものめり込んでしまう恋愛に陥ったことがあり、そして友人達も抜け出せないでいる。

特別付録に、「小島慶子とラジオ対談」が載っている。
もともとこの本は、TBS開局60周年を記念して、角田さんにラジオ小説を書いてもらい、TBSでラジオドラマ化するという企画により生まれた。(放送は2011年12月23日、24日)

初出「オール読物」2012年1月号



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

まったく相手に誠意がないとわかっていても、友人たちにきつく止められても、どうしても止められない恋愛があるらしい。不可思議な吸引力があるというのだが。

いかにも角田さん、読みやすい。例えば、矮小な例だが、登場する人物の名前や概要がかなり読み進めないとなかなか分からない小説が多い。この小説では、最初の10ページで主要な7人の紹介が終わっている。

ラジオを聴く習慣がなかった角田さんなのに、ラジオドラマ向けの小説をあっさり(?)書いてみせた。ラジオを聴く人、番組を作る人、そして、同じ番組を聴いている人同士のつながりを見事にとらえている。

特別付録の小島慶子との対談の中で角田さんが、小説の書き方について語っている。

この小説みたいに結末がはっきりわかるものは、最後から組み立てていくんですね。
・・・
私は、書き手の名前を伏せて1文を抜いたときに、これは誰の文章か絶対にわからないような、無個性な文章を書くように心掛けているんですよ。・・・
私、形容詞を結構使っちゃうので、ゴテゴテした形容詞を取るとか、あえて平仮名にして個性を出すことをしないとか、感覚的な擬音語、擬態語を使わないとか・・・。
・・・
私が書く主人公は女性が多いんですけど、女性主人公は自分が嫌いなタイプを設定するんです。その人の性格と、あと、たぶん十人が十人、その人と話したときにイラッとするポイントを決めます。・・・
自分の好きなタイプの女性を書いてしまうと、自分の味方になって、その人が小説の中で正義を持ってしまうんです。でも、嫌いな人だと、私が客観性を保てるんです。





登場人物
悠木仁絵(ゆうき・ひとえ)
デザイン会社で働く35歳、独身。幼馴染の雄大から「35歳になった時2人とも結婚していなかったら結婚しようと昔約束した」と言われる。しかし、小さい頃から何もかも知っていて、全くときめかない。また、お互いの泥沼の過去の恋愛も知っている。

駒場雄大(こまば・ゆうだい)
仁絵の幼友達。洋食店を受け継ぐ。高校3年生の時に6歳年上の自称ダンサーにナンパされ、その人に溺れた。

田河珠子(たがわ・たまこ)
仁絵の友人で、美術大学の同級生。最近海外での展覧会も決まった売れっ子のデザイナー。
野島恭臣との付き合いは実質終わっているが、引きずって連絡を待っている。

野島恭臣(のじま・やすおみ)
かって人気のキャラクターデザイナー。珠子が泥沼の付き合いを続けている。

岸井ノブオ、野村香菜、国枝寛
仁絵の勤めるデサイン事務所の経営者、所員

長谷鹿ノ子(はせ・かのこ)
大手出版社の50代の編集者。仁絵の職場に出入りする。15年も不倫関係を続けている。

竜胆美帆子(りんどう・みほこ)
ラジオのDJ、パーソナリティ。最初は夜早く寝て朝早く起きる規則正しい生活をし、新聞など見てきちんとニュース抑えていた。しかし、入院した義母が、毎日漠然とラジオを聞いているとわかって、ラジオというのは毎日どうでもいい事を語れば良いと思った。どんなに元気がないときでも、ぐわい悪い時でも、届くこと、小さなことを話そう。
この本には、彼女のラジオの語りが所々ではさまれる。


角田光代の略歴と既読本リスト


コメント
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