駅前不動産屋今日も回りは敵だらけ

株式会社 ハウスショップ 東京都町田市

罠・・・・39

2020年02月29日 | 不動産業界

祐太と二人で昼食を終えて
約束した時間に葬儀屋に戻ると
すぐにパンフレットを見せられ
葬儀のランクの話しから打ち合わせが始まりました
山本は元々唯物論者ですから
宗教的な儀式にこだわりはありません
ですから
はっきり言いました
お金が無いので一番安い方でお願いします

すると次に呼んでくる僧侶はどうしますか
と聞かれましたので
山本はその事には全く感心がありませんので
お任せします
と言うと
祐太が口を挟みました
うちは浄土真宗ですからそちらでお願いします

この言葉に
祐太が実家の墓を守ると言ってる思いが伝わってきました。
そして最後に
参列者は何人くらいでしょうか?
と聞いてきましたので
実際には予測はできませんが
身内が14~5人
会社関係者が同じ位で
30人くらいだと思う
そう伝えました。
するとその担当は
では50人分くらい用意しておきます
と言いました。
話してる内に
いくらお金がかかるのか不安になりましたが
その時に明美が祐太の学費として取ってあった300万円
これを思いだして
最悪これを使わせてもらうから
と小声で祐太に言うと
祐太はもうそのお金を俺が使う事は無いから
と答えました。
これでお金の心配は無くなりましたので
気が楽になり
次々に話しを進めて行きました。
すると
途中で携帯が鳴りました
見ると
以前の勤務先の店長だった宮本です
この宮本
なぜか辞めた後もたまに電話をかけてきます。
大した用はありませんが
山本の事を気にかけてるのです
しかし今回は余りにもタイミングが悪く
電話に出て小声で
いま取り込んでますから後でかけ直します
と言いました。
すると何かあったの?
って聞かれましたので
とっさに
妻が亡くなりました
と答えました。
宮本はタイミングの悪さを詫びた後
またかけ直すと言って電話を切りました。
それから打ち合わせは進んで
お通夜は3日後
火葬と告別式はその翌日
この日程が決まりました。
打ち合わせが済むと
山本は明美が正式に安置されてる場所に移りました
20畳くらいの畳間で
病院を出た時よりも
更に綺麗に化粧されて寝かされていました。
近寄って顔をさすり
手を握り
そして最後に足をさすると
足はパンパンに膨れていました。
点滴を打ちっぱなしでしたから
むくんだ
それが想像できました。
それからしばらくして病院に行くと
担当の医者が来て暮れて
詳しく何があったのか説明して暮れました。
深夜に強い胸の痛みがあり
心電図を調べると
急性心筋梗塞の可能性が高いと思われ
造影剤検査に入ろうとしたら
いきなり心臓が止まってしまった
って話しでした
山本が
今回の怪我が原因で発症したのか?
と尋ねると
心筋梗塞は長年の食生活の影響が大きいので
今回の事が引き金になった可能性は否定できないが
いずれにしても危険な状態が長く続いてたはずだ
と言いました。
会社であれば健康診断もありますが
明美は専業主婦でしたし
若いと言う事もあって
健康診断は全く受けていませんでした。
自分は明美の食事の塩っぱさに気付いていましたから
もっと早く健康診断を受けさせておけば良かった
と後悔の念が湧いてきましたが
後の祭りです。
そして先生に御礼を言って
死亡診断書を貰って葬儀屋に戻りました
死亡診断書には
死因は急性心筋梗塞
と書かれていました。
祐太は葬儀が終るまでは
実家に泊まる事になりましたが
その夜も
葬儀屋から戻った後
少しだけ本を開いて何かレポート用紙に書いていました。
母親が死んでも
時間は止らない
毎度の事ながら
どんな大切な人の死であっても
残された人は
変わらず淡々と人生を刻んで行く
この事を強く思い知る事になりました。

翌朝起きて祐太と二人トーストを食べてると
宮本から電話がかかってきました
奥さんの葬儀はどこで行うのか?
と聞かれましたので
山本はそれには答えず
気にしなくて良いから
と言いました
すると宮本は
山本さんにはお世話になったので
それでは私の気が済まないんですよ
と言われましたので
仕方なく葬儀会社の名前を伝えました。

それから
あっと言う間に葬儀の日がやってきました。
3時から納棺の儀を行い
綺麗にしてお棺に入れました。
その時には身内が駆けつけてくれましたが
秋田で大変世話になってる明美の従妹に
祐太が電話で知らせたために
わざわざ遠いのに
4人も来てくれました。
関西からは三重と大阪から
山本の妹と
従妹が3人来てくれました。
残念ながら山本の両親は来る事はできませんでしたが
妹に多額の香典を預けてありました。
そして5時半には会場に入り
やがて坊さんが入って来て読経が始まりました。
そしてそれから一般の参列謝の焼香が始まりましたが
山本が予想してなかった事態になりました。
信じられない位に大勢の人が次々に焼香するのです
その中には
今の宅配便の営業所の同僚の大半と
そしてその前の建設会社の同僚もたくさん来てくれました
その中には山本が客付け買取の事でもめて
辞める事になった時の店長もいました。
どうしてその会社に訃報が伝わったのか?
それはすぐに分かりました
参列者の中に服部さんがいたのです
多分服部さんが連絡したのだと想像できました。
その前の販売会社の関係では
服部さん以外にも
当時の店長の宮本を始め
元の同僚がたくさん来て暮れました
そして全く予期してなかった山田常務の姿もありました
すっかり歳を取ってしまいましたが
どこかエリートの品を漂わせてる姿は
変わる事はありませんでした。
昔の取引先の不動産業者の顔もありました。
驚いた事に
その中には韓国にいるはずの鎌田の姿もありました。
終って見ると
50人の予定が
200人近くも来てくれました。
すべて
宮本が連絡を取って呼んだ結果だと言う事は分かりました。
宮本は
山田が辞めたあと
順調に出世して
今は昔の山田常の肩書きである
地域の統括本部長になっていますが
今回の宮本の動きから
出世する人間には理由がある
これも強く感じる事になります。
以前
不動産の世界に入りたての頃
同業者の社長さんに連れて行かれたクラブで
ママさんが
山本さん出世したいと思ったら
マメな人間になるのが一番の近道ですよ
と言ったのを思い出しました。
妻のお通夜にクラブのママさんの言葉が思い浮かぶ
人間って罪深い
そんな思いも湧いてきました。

コメント
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