新イタリアの誘惑

ヨーロッパ・イタリアを中心とした芸術、風景。時々日本。

ボローニャ③ 絶望の叫びが聞こえる!井上ひさしも賞賛したヴィータ教会の「ピエタ」

2018-08-14 | イタリア・ボローニャ

 叫んでいる。それは張り裂けるような高い叫びではなく、腹の底から絞り出す地響きのような、唸り声に似た叫びだ。
 まさ師キリストの最期の場に、たった今駆け付けたかの如く着衣がなびく。

 その人はマグダラのマリア。娼婦から改心し、ひたすらキリストに仕え、一番弟子であるペトロさえも嫉妬にかられたとも伝えられる、忠実な使徒。
 そのマリアが十字架から降ろされたキリストの遺体を目の当たりにして発した断末魔の叫びが、これだ。

 ニッコロ・デ・ラ・ルカ作「ピエタ」(死せるキリストへの哀悼)。1463年の作品だ。

 横たわるキリスト

 それを6人の男女が見つめている。
 右から順にマグダラのマリア、隣にクロバの妻マリア、福音書記者ヨハネ、聖母マリア、マリアサロメ、アリマタヤのヨセフ。

 聖母マリアの顔も苦痛に歪んでいる。

 クロバの妻マリアは全身で驚きと悲しみを表現する。

 マリアサロメの顔もゆがむ。

 4人の女はそれぞれにこらえきれぬ悲惨と驚きとを全身で表現している。


 だが、ヨセフ、

 中央のヨハネの男2人は逆に悲しみを押し殺しているのか、まだこの状況に対する戸惑いに取りつかれているのか、表情を凍らせてしまっている。

 この男女の対比が何とも対照的で、何分も見比べてしまった。女性と男性とが決定的な瞬間に出会った時に、こうも違った表現を取るものなのだろうか。
 一つの典型をここに表現した。これほどの劇的な姿のありようはなかなかお目にかかることのないものだった。
 井上ひさしも「ボローニャ紀行」の中で、聖母マリアについては「その顔は苦悩にゆがみ、口からは今にも腸のちぎれる音が聞こえそう」。マグダラのマリアについては「駆けつけてきた勢いが、横になびく頭巾や着衣に見事に表れている」と、賞賛と共に描写している。


 「ピエタ」を表現した彫刻では、ミケランジェロがサンピエトロ大聖堂に残した傑作と並んで語られるほどの作品とも評価されているものだ。

 長い間立ち止まって見ていたためか、教会の尼僧が私に近づいてきて言葉をかけてくれた。「この教会の2階にも、もう1つのテラコッタ群像があります。ご覧になってください」。

 有難い。教えられるがままに奥まった所にある階段を上った。

 そう、ここにも群像が展示されていた。これは「聖母マリアの死」。アルフォンソ・ロンバルディ作。こちらにはさらに多くの人が登場している。

 聖母を迎える空中の天使。

 向かって右側。悲嘆に暮れる人々。

 まだ信じられず、呆然とする人たちも。

 絶望の叫びをあげる人。

 倒れ込む人。

 最後の場面に遭遇してしまった人たちの抑えきれない様々な裸の表情を描写した秀作。1つの教会でこんなにもバラエティに富んだ作品に出会えたことで、大収穫の1日だった。




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ボローニャ② キリスト教の聖堂にマホメットが!そのために聖堂爆破の騒動に。

2018-08-11 | イタリア・ボローニャ

 聖ペトロニオ聖堂の中に入ってみよう。内部の写真撮影は有料で、支払うと腕章をつけて撮影OKとなる。

 首が痛くなるほどの高い天井を交差する仕切り線。柔らかなブラウンの色調でまとめられた空間だ。

 多くの礼拝堂が並んでいるが、最も注目されるのは左手4番目にあるボロニーニ礼拝堂だ。ここだけは入場制限がかけられていたので中には入れなかったが、遠くから眺めることはできた。

 その側面に天国と地獄のフレスコ画が描かれている。最後の晩餐の場面だ。

 望遠で少しアップしてみると、かなり細かな描写がなされている。

 その下半分をさらにアップすると・・・。

 人を貪り食う悪魔がおり、その右上にターバンを巻いた男が横たわっているのがわかる。この人物がイスラム教の創始者マホメットだ。

 2006年、この絵が、あるイスラム教信者の怒りを買い、この聖堂を爆破するという予告がなされるという騒ぎとなった。未遂に終わったものの、それ以降この礼拝堂に関しては厳重なチェック態勢が敷かれている。


 反対側の側壁にも東方3博士の礼拝など様々な物語が描かれる。

 側柱には聖クリストフォロスの立ち姿。

 この礼拝堂には聖ペトロオニオの頭骨が収められているという。

 別の礼拝堂には聖人列伝。

 主祭壇の前にあるのは4本の大理石の柱によるジャコモ・バロッツィ・ダ・ヴィニョーラ作の天蓋だ。

 こちらにも美しい装飾がなされている。十字架は15世紀のもの。

 ここに描かれた絵の左下にはボローニャの街の象徴ともいえる2本の塔が描かれているのを発見した。

 そして、この聖堂にも「ピエタ」の像があった。

 磔になったキリストの遺体に、聖母マリアを始めとした6人の人びとが駆け付けて、その死を悼む群像だ。

 向かって右の3人は驚き、悲しみ、嘆きなど表情を露わにしているが、

 左側の3人はそれほど表面に感情が現れていない。

 そんな対照的な群像に見守られて、真っ白に冷たい体を投げ出したキリスト像が印象的だ。 



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ボローニャ① 未完の聖堂のファザードにはミケランジェロを魅了した彫像がある

2018-08-07 | イタリア・ボローニャ
 ボローニャに到着した。ここには以前フィレンツェから日帰りで来たことはあるが、宿泊しての滞在は初めて。少しじっくりと見てみようと思っている。

 まずは聖ペトロニオ聖堂へ。この外観はどう見ても未完成のように見える。土台から3段目までは白大理石などで覆われているものの、その上は基礎部分がむき出しになったままだ。

 聖堂建設が始まったのは1388年。当初は幅137m、奥行き183mというキリスト教史上最大規模の教会が構想された。
 
 だが、、あまりにも大規模なことから、バチカンからのクレームがあったり、地元の財政難など様々な理由から、幅66m、奥行き132mという現在の大きさで中断され、1469年ころの祭壇修復以降は建設が進行することなく現在に至っている。

 そんなわけで一見不格好な外観だが、このファザードにも見逃せない彫像などが存在している。

 中央の扉上を見上げると、3つの彫像が並んでいる。

 中央に聖母子

 左に聖アンブロシウス

 右に聖ペトロニウスだ。 いずれもシエナの高名な彫刻家ヤコボ・デッラ・クエルチャの作品。

 実は聖ペトロニウスの、左足に重心を掛けた自然な形での立ち姿を熱心に研究し、同じボローニャの聖ドメニコ教会に研究成果としての像を残した若き天才がいた。ミケランジェロ。

 彼はフィレンツェの戦乱から逃れるために1494年ボローニャに避難したが、その時このクエルチャ作品に魅了されたという。 そんなエピソードを持つ像だ。

 また、中央扉の両側に建つ側柱には聖書の物語が彫られている。ちょっとアップしてみよう。

 アダムの創造。

 続いてアダムから分かれたイヴの創造。

 誘惑に負けて禁断の実に手を出してしまう2人。

 このように聖書の物語がイラストで描かれていて、中世の文字の読めない庶民たちにも、入口の絵を見るだけで聖書が理解できるように配慮されていた。


 この聖堂前には旅行者や市民たちがいつも大勢集まり、階段に腰掛けている。

 そして雑談に花を咲かせたり、道行く人たちを観察したりの風景が展開されている。



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