新イタリアの誘惑

ヨーロッパ・イタリアを中心とした芸術、風景。時々日本。

フィレンツェでは各所で“殺人現場”を再現した怖い美術作品に遭遇する!

2018-11-05 | フィレンツェ・殺人をテーマにした美術作品
 フィレンツェの美術館巡りで感じることは、その作品群の中に数多くの殺人現場が描かれていることだ。そんな作品をピックアップしてみよう。

 まずはウフィツィ美術館とパラティーナ美術館の2大美術館から共通のテーマを作品化した絵画を1点ずつ取り上げてみる。 テーマは「ユディト」。

 ユディトは古代ベトリアの町に住む女性。そこにアッシリア軍が攻め込んで町が包囲されてしまった。その時ユディトは単身アッシリア軍に恭順の意を示しに訪問、大将のホロフェルネスに酒をもてなす。大将はこの美人の訪問を歓び、すっかり酒に酔いつぶれてしまう。
 ユディトはこの瞬間を待っていた。隠し持った凶器でホロフェルネスを刺し殺し、自らの町を守った。そんなエピソードを作品化したものだ。

 アルテミジア・ジェンテレスキ「ホロフェルネスを斬首するユディト」。

 ホロフェルネスはまさに絶命寸前。白目むき出し、噴き出る血がシーツを伝い、地面に滲みだしてゆく。ユディト本人の表情は、眉がつり上がり唇はキュッと結ばれて、決死の覚悟、揺るがぬ決意がにじみ出ている。
 作者はカラヴァッジョのよう影響を受けたカタヴァッジニスキと称される画家。しかも女性画家だ。トスカーナ大公コジモ2世に献上されたが、大公妃マリアルイーザはあまりの恐さに長年この絵を密室に閉じ込めていたという。

 一方パラティーナ美術館の作品、クリストフォロ・アッローリ「ホロフェルネスの首を持つユディト」は殺害後の激情が治まろうとする時間帯の姿だ。

 切り落とした首を吊り下げたユディトの表情は、少女を連想してしまうほどで、首を見なければ物思いに沈む女性像と勘違いしてしまいそうだ。
 同じテーマを扱っているのに対照的な作品となっている。


 ウフィツィ美術館の隣りにあるシニョーリア広場にもユディトが立っている。ドナテッロ作「ユディトとホロフェルネス像」。これも‟事件直後”のユディト像だ。

 このシニョーリア広場にある「ランツィのロッジア」もまた、まさに事件現場。

 チェッリーニの「メドゥーサの首を持つペルセウス」。
 メドゥーサは髪の毛が蛇、目を合わすと石にさせられてしまうという怪物。これを、目を合わせないよう後方から忍び寄って退治したペルセウスをテーマにしている。

 メドゥーサの首を掲げるペルセウスの姿は物静かな雰囲気に見える。

 が、一旦足元に目をやると、そこには踏みつけられた死体が横たわり、切り落とされた首筋から血が噴き出すというサディスティックな光景が展開する。

 一流の彫刻家でありながら何度も法を犯し、自ら殺人事件も起こしているチェッリーニならではの作品ともいえよう。
 なお、ペルセウスはメディチ家伝説上の祖先とされ、敵を倒して街の平安をもたらしたペルセウスのエピソードをメディチ家に例えてこの像を設置させたとも伝えられる。

 さらに、このロッジアにはジャンボローニャの「サビニ女の略奪」像がある。

 等身大以上の大きさである3体のねじれる人物像がらせん状に絡まりあって空に向かっていく超アクロバティックな人体像。
 
  通常は彫刻でも正面の姿があるはずだが、これには観客が像を一周して初めて作品を見たといえるような、ルネサンス史上例のない、マニエリスムの極致ともいえる像だ。

 
 また、同じジャンボローニャの「ケンタウロスを倒すヘラクレス」もある。

 激しい力の衝突で極端にねじれてしまった肉体の表現は、まさにジャンボローニャの面目躍如といったところだ。

 さらに、ロッジアから先を見ればミケランジェロの「ダビデ」(レプリカ)も立っているし、この広場はサボナローラが処刑された場所でもある。また、幾多の政敵や罪人もここで処刑されてきた。

 つまり、フィレンツェ共和国のメイン広場周辺には生々しい殺戮の爪痕が今もなお色濃く残っているというわけだ。
 いつもあんなに観光客でにぎわう広場だが、実は「こわ~い場所」なのをみんな忘れちゃっているんだろうな~。




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