新イタリアの誘惑

ヨーロッパ・イタリアを中心とした芸術、風景。時々日本。

ミケランジェロの傑作が空間を埋め尽くすメディチ家礼拝堂で、至福の時間を過ごす

2018-11-09 | フィレンツェ・メディチ家礼拝堂
 メディチ家礼拝堂は2度目の訪問だ。数年前パリから飛行機を乗り継いでフィレンツェに来た時、たまたま隣の席に座った女性と知り合った。彼女はフィレンツェに語学留学していて、夏休み休暇から帰る所だった。
 話が盛り上がって、彼女がおいしいレストランを紹介してくれることになり、2日後に待ち合わせをした場所が「メディチ家礼拝堂の前」だった。

 2回目のメディチ家礼拝堂。中に入るとまずは君主の礼拝堂がある。

 17世紀初頭に造られた歴代トスカーナ大公家の墓所だ。そこからさらに進むと待望の新聖具室がある。ここにはミケランジェロの彫刻作品が三方の壁を埋める贅沢な宝箱のような空間だ。前回の訪問時は写真撮影禁止だったが、今回は撮影OKになっている。

 入ってすぐ左手にはウルビーノ公ロレンツォ・デ・メディチの墓碑。

 ロレンツォは兜をかぶった傭兵隊長の装束で、少しうつむいた姿。その下に「黄昏」と「曙」の寓意像がある。

 「曙」は女性像。その表情は暗い闇の底に沈み込むかのような憂いを含んで沈黙する。

 整った顔立ちだが、視線を下にずらしてゆくとその肉体は筋肉に覆われてまるで男性像。乳房だけがとって付けたかのように添えられている。

 「黄昏」の男性像。こちらも当然のように筋骨隆々の壮年像。強い意志の力を感じさせる表情だ。

 対して向い側にあるのはジュリアーノ・メディチの墓碑。

 ジュリアーノは左方向に目を向け、今にも立ち上がりそうな気力を感じさせる。

 「夜」は頭に手を置き膝を曲げて物思いに浸る表情。これも明らかに男性をモデルにしたなかで
腹部のたるみや乳房で女性を表す両性具有のイメージで表現されている。
 その姿の足元には夜(フクロウ)腕側には夢(仮面)を置いて、時を象徴する像になっている。

 表情は深く沈み込むような物思いの様だ。

 対して「昼」はみなぎる力を湛えている。

 キッと上方を見つめる目が鋭い。

 石棺に昼と夜、曙と黄昏という4つの時間の移り変わる区切りを象徴させている。人間が支配されざるを得ない時間という視点を、具体化、象徴化した作品とされる。

 そして、2つの墓碑の奥側の壁に3体の像が配されていて、

 その中心に聖母子像がある。

 実は、この像の下にはルネサンスの最盛期に君臨したロレンツォ豪華王と、その弟ジュリアーノの棺が納められている。

この2人の墓碑も構想されていたが、政情不安定期になってミケランジェロは1534年にはローマに移住してしまい、新聖具室は未完成のままになってしまった。

 そんなわけで「フィレンツェルネサンスを支えたメディチ家」といえば思い出される『ロレンツォとジュリアーノ』と同名の別人(もちろん同じメディチ家の人物ですが)がミケランジェロ作品として残っているという、ちょっと皮肉な結果になっている礼拝堂だ。

 いずれにしても、素晴らしいミケランジェロ作品を間近かに見ることが出来る貴重な場所で、じっくりと鑑賞することが出来た。





 
コメント (2)
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