喜多圭介のブログ

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四季のレクイエム(10)

2007-04-22 13:30:01 | 俳句・短歌と現代詩
白い詩集の少女 北条綾子(二十歳)――心中の年

色鳥の 来たりし枝に 林檎さし


この小鳥のように翼があったなら
あなたのもとへ飛んでいきたい
湖を南へ 瀬田川を下り 宇治田原をこえ
和束の清流で のどを潤し
疲れた羽根を休め 大和青垣を越え 吉野へ
あなたが窓辺に見える旅館を探そう
あなたの姿を見つけたならば
木の枝にとまって創作しているあなたをじっと見つめるの
疲れたあなたが熱いお茶をのんでから、 ちょっと出てきます
って お庭へ出てくるの
私は 紅い実のついた小枝を そっと雪の上に落とす
あなたが気がつき振り返っても
私はもう飛んでいっちゃってるの
私は 原石鼎の 碑の上にとまり
大きく息を吸い込んで
また 北へ 北へと 飛び立っていくの。

でも
でももしあなたの姿を見つけられなかったら
私は高天原まで飛んでって
孝謙天皇の碑文の上で 思い切り泣こう

 初春のあした毎には来たれども あはで帰るもとのすみかに

って碑文の上で。

※原石鼎(島根県出雲市出身)
原石鼎