二階に上がった。広い展示室の左右に日本画家、上村松園、横山大観、川合玉堂、伊東深水、山口華楊といった作家の作品が展示してあった。 「この美術館の創始者はロマンチックな人物ですね」 「お義父さんの話では貧乏な育ちで、これといった学歴もなかった人だったそうで、戦後大阪で不動産などで蓄財されたそうです」 「こうした作品をコレクションするとなると、半端な蓄財でないでしょ。政治家で例えると田中角栄型の人物。よほど金作りが上手かったのでしょう」 「一代で築いたようです」 「しかしぼくは上村松園の美人画よりあなたの着物姿のほうが魅力あるな」 「またからかって。孝夫さんってこんな人だったのですね」 しかし佳恵の表情は、言葉とはうらはらのむず痒いような顔の喜びを湛(たた)えていた。 「そう。エッチ人間」 孝夫は笑っていた。 佳恵は躯が燃えてくるのを感じた。早くここを出て、あの宿に戻り、孝夫に抱かれたいと焦がれた。 宿に戻ったのは三時過ぎだった。 部屋に入ると、孝夫にやにわに抱きつかれ、唇を合わせられた。佳恵はすぐさま躯がとろけそうになり、唇を離したとき、孝夫の首に腕を巻き付けた。しばらく立ったままそうしていた。 「着替えるわ」 「ぼくの前で着替えて」 「孝夫さんの前で……恥ずかしい」 「恥ずかしくないよ」 「それじゃあちらのソファに座って眼を瞑っていて」 「そうする」 佳恵は昨夜来ていた洋服を傍らに用意すると帯を解いて着物を脱いだ。 「ふぅーん、長襦袢姿も色っぽいな」 「眼を開けてる」 「そのピンク色のも帯って言うの」 「伊達締め」 「伊達締めか。それは?」 「腰紐」 「それは何なの?」 「衿芯。ここに差し入れて衿の形を整えるの。あらいやだ、孝夫さん小説に書くつもりでしょ」 佳恵は孝夫を睨んだ。 「名前くらい知っていないとね」 「長襦袢脱ぎますから、ここから先は眼を瞑ってて」 「そうする」 しばらくして、 「開けてもいいわよ」と、佳恵の声がした。 孝夫が眼を開けると、佳恵は着物や長襦袢、肌着を衣桁に掛け終わっていた。 「着物を着るのは面倒なものだね」 「慣れるとそうでもないわよ。お茶淹れましょうか」 「うん」 佳恵は居間の座卓の前で湯飲みにお茶を注ぎながら、 「孝夫さんと居ると気持ちが楽なの」と言った。 「ぼくもきみといるとゆったりできる。佳恵さんのおかげでいい正月ができた」 「春に逢ってくださいね、京都に出掛けますから」 「着物でお出で」 「考えておきます。孝夫さんに見て貰えて嬉しい」 「そういう気持ちって女心なんだろうな……空いているうちに大浴場に行きますか」 「はい」 夕食は出雲和牛をふんだんに使ったしゃぶしゃぶと盥(たらい)に竹の葉を敷いた鮨だった。しゃぶしゃぶの鍋は銅製の大きな物だった。 昨夜の仲居が佳恵に説明していた。 「昆布二枚でお出しはだしてありますが、あと五分ほどガスコンロにかけてください。それから昆布を取り出してからお酒と塩を適当に加えてください。あとはお好みにやってください。紅葉おろしはこちらにできてます」 「わかりました」 「それではごゆっくりお召し上がりください。お飲み物はこちらに」 ★読者の皆様に感謝★ ★日々の読者! goo 131名 ameba 212名(gooは3週間の amebaは7日間の平均) ★日々の閲覧! goo 396 ameba 409(内26はケータイ) ★ameba小説部門 最高位 86/4849(11月1日) 連載中は執筆に専念するためコメントは【完】のところ以外では許可しておりません、あしからず。 最初から読まれるかたは以下より。 一章 ★この作品を読まれた方は『花の下にて春死なん――大山心中』も読まれています。 ★以下赤字をクリック! AMAZON 現代小説創作教室 連載予定の長編『花の下にて春死なん――大山心中』(原稿800枚)を縦組み編集中。こちらの読者の皆様にはこれで一足お先に読むことができます(あちこちで同じ事を書いてますが)。十二章あるうちの三章まで(原稿90枚)。文字の拡大は画面上の+をクリックしてください。しおり付。 あらゆる創作技法を駆使してます。なお私のこれまでの作品では禁じ手としてましたポルノグラフィ手法もワンシーンありますので、一部の女性読者に不快な思いを抱かせるかもしれませんが、ご了解願います。 『花の下にて春死なん――大山心中』 ★「現代小説」にクリックを是非! |