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『摩天崖――柳美里讃歌』 原稿500枚程度
作家柳美里(ゆ・みり)の文学に触れながらの投身自殺物語
『断崖に立つ女』 原稿480枚程度。B6書籍判。
【あらすじ】伊豆の弓ヶ浜で彫刻家として母娘の暮らしを支えてきた瑤子の店に、本宮という、京都の印刷会社の社長が、娘の姿と観音像を彫ってくれと頼みにきた。瑤子は本宮を観察するほどに彼に、越前岬から般若の能面を被って投身自殺した近藤の面影を見た。瑤子は一時期能面師近藤と同棲していた。
近藤は瑤子を知る前に義姉との近親相姦の苦悩を抱えていた。このことで義姉は自殺、後追い自殺した近藤は手首を傷つけただけの未遂に終わった。
本宮を知るにつけ、好みの酒の銘柄、能演会鑑賞、手首の白い傷痕と、まったく近藤と近似した重なりに瑤子は身震いするほどの怖気を覚えたが、同時に本宮の魅力に心身囚われていく。
瑤子と本宮は娘の像を京都嵐山の神護寺に奉納したあと、桂川の水音の聞こえる宿で一夜を共にする。
その本宮が隠岐の摩天崖から投身自殺することを、本宮を探偵のように観察していた娘の真美から告げられ、二人は慌ただしく羽田から隠岐に飛び立つ。
能の原理、前シテ(現実)と後シテ(幻想)を交錯させて描く、作者渾身の男と女の物語。
【作品の経緯】
馬場あき子様、
何年前になりましょうか、冒頭にあなた様の短歌を置きましたので、その了解を求めるために、『断崖に立つ女』のオリジナルをお送りしました。
数日経ってのこと、夜の十時頃卓上の電話が鳴り、受話器を耳元に当てたとき、馬場あき子です、という声が。一瞬、馬場あき子、どこのだれと迂闊にも訝ってしまいました。まさか短歌界はもとより文化人として著名な馬場あき子様からの電話、夢のような出来事でした。その頃までは『鬼の研究』を読んだことがあるくらいで、短歌のことはもとよりあなた様が、能や『源氏物語』に造詣の深いかたとも知らずにいたのです。
おそらく『断崖に立つ女』をちらっと読まれ、内容が能面師のことであり、『源氏物語』ゆかりの武生のことがあり、それで関心をお持ちになりお電話をいただけたのではないかと推察しております。
『断崖に立つ女』は冒頭の一首に出合わなかったら誕生していなかった作品です。この一首のおかげでいきなりイメージが沸き立ったのです。短歌一首の恐るべき力かと思います。
もちろんあなた様がこの一首に籠められた魂と、私が『断崖に立つ女』に籠めた魂とは異なる物ですが、なんとか私なりの作品に仕上がりました。
やっとその折りのお電話のご好意に、このような形で報いることができたかなと思っているしだいです。
喜多圭介拝
書籍判、一応完稿しました。
『断崖に立つ女』