【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「劔岳 点の記」:葛西南高校前バス停付近の会話

2009-06-20 | ★亀29系統(なぎさニュータウン~亀戸駅)

高校生諸君、遅刻しそうになったらこのフェンスを乗り越えて行け。
なに、よからぬことアジってるのよ。
いや、誰かが行かなければ道はできない。
なにそれ。「劔岳 点の記」の中のセリフみたいなこと言って。
いや、久しぶりに日本映画界が本腰を入れた映画だったからさ、「劔岳 点の記」は。
日本地図を完成させるために、前人未踏の剣岳に三角点を設置しようと挑んだ明治時代の男たちの骨太の物語。
大自然に挑戦する男たちの姿を、いまどき珍しいほど、まったく奇をてらうことなく、正攻法で描き切る。
そうそう。これほど実直な男たち、いまどきどこ探したっていないわよね。
いいや、この映画をつくったスタッフこそ、実直そのものの男たちだと思うぜ。
たしかに、木村大作監督からして、ドラマの中の男たち同様に実直一直線だっていうのが伝わってくる。
もともとは「八甲田山」を初めとする数々の名作をものした撮影監督。
“大作”なんて、名前からして映画を撮るために生まれてきたような人ね。
撮影監督が全体の監督を務めているだけあって、スクリーンに映し出される山々の風景はこの上なく、荘厳で美しい。
そそり立つ剣岳はもちろんのこと、空の果てまで一面を覆い尽くす雲海の姿や、目の前に迫ってくる雪渓の白、標高3000メートルを染める真っ赤な夕焼け、すべてがこれでもか、これでもかと、目に焼きつく。
大雪渓の中を進む人間たちのなんとちっぽけなこと。
近頃、またIMAXの映画館が復活したらしいけど、こういう映画こそIMAXで観てみたいわね。
壮大な山岳風景の中、浅野忠信扮する陸軍の測量手や香川照之扮する現地の案内人たちは、難攻不落の剣岳の頂上を目指してなんども山を登ったり降りたりする。
そのわりに最後は結構あっさり頂上に立っちゃうんだけどね。
それを言うな。出演者もご苦労なことだけど、彼らを狙ったカメラ・クルーがどう山の上まで行ったかを想像すると、頭が下がるぜ。
たぶんヘリコプターでひょいっと行ったんじゃないの?
そんな贅沢許される状況なのかな?
そういえば、スクリーンで見る限り、ヘリコプターショットはひとつもなかったわね。
変わりやすい山の天気や機材を設置する岩場の不安定さとか、あれやこれやスタッフの苦労を想像すると気が遠くなるぜ。
だけど、ドラマとしては、劔岳を目指す一行が、どの辺まで到達しているのか、画面を見ただけでは現在位置がわからないのが、ちょっとつらいわよね。
それは、「八甲田山」のときもそうだったな。雪に閉じ込められて遭難しちゃうんだけど、一面雪なものだから、どこでどう遭難したんだかさっぱりわからなかった。
地図を使って説明してくれればいいのにね。
「劔岳 点の記」の場合、そもそも、地図をつくるために山に登ったっていう物語なんだから、映画の中でも、もっと地図を生かして説明してくれてもよかったかもしれないな。
地図を出してきちゃうと説明的になって映画の緊張感が途切れるっていう懸念はよくわかるんだけどね。
でも、日本山岳会っていう民間団体も同じ劔岳を目指していて、陸軍測量部とどっちが先に初登頂に成功するかっていう競争になっていく展開は、興味が持続できて面白かった。
実はそんな功名心のための競争、悠久の歴史の前ではいかにちっぽけなものかって思い知らされるラストの挿話も秀逸だった。
陸軍の上層部だけが最後まで勝ち負けにこだわっていて、軍隊の本質を見た思いだな。
勝ち負けしか頭にない。地図をつくる目的だったはずなのに、結局、面子ばっかり考えてる。
そんな人間世界の小ささには我関せずとばかりに、劔岳は静かにそびえ立つ。
自然の壮大さを感知する映画。
次はどんな日本映画がこの映画の壮大さを乗り越えて行くか、考えると楽しみだな。
でも、フェンスは乗り越えちゃダメよ。
男女の一線を越えるのは?
バカ。




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2 コメント

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Unknown (タニプロ)
2009-06-22 23:12:18
もちろん面白い・つまらないは人それぞれですが、「凄いことしている映画」とは言えますよネエ。高齢の木村大作も登ってるわけなんで、「香川照之がこんなに登って凄い!」とか、何か言いづらいですもの。

「凄いことしている」のが無駄になってないところも凄いです。

去年あたりから山田洋次とか若松孝二とか木村大作とか、おじいちゃんパワーがヤバイす。おじいちゃんとか言うと怒られそうですが。
■タニプロさんへ (ジョー)
2009-06-28 08:34:56
高齢で登るのも凄いし、それがちゃんと結果につながっているのも凄いですね。ふつうでいえば、定年をとっくに越えた映画人の本物志向には頭が下がります。

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