【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」:石原三丁目バス停付近の会話

2008-05-14 | ★都02系統(大塚駅~錦糸町駅)

なんだ、この間の欠けたアーケードは?アメリカの石油商人のような強欲なヤツに間を盗まれたのか。
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の主人公のこと?
20世紀初頭に石油で一発当てて大富豪になっていくんだけど、何が彼をここまで突き動かしているのか、平凡な人間には理解できない。
最初から最後まで異常よね。アカデミー賞では、これまた異常な男が主人公の「ノーカントリー」と競って負けちゃったけど、最近のアメリカ映画ってどうして、こんなに異常な男が多いのかしら。
でも、主演男優賞は、「ノーカントリー」のハビエル・バルデムを押しのけて、この映画のダニエル・デイ・ルイスが獲った。
体中からにじみ出てくる油っぽいエネルギーは、尋常じゃないものね。
心の中に石油より黒いどろどろの闇を抱えているっていう感じが、ひと目で伝わってくるもんな。
しかも、それが最後まで続く。もう暑苦しくてしょうがなかったわ。
もしも、「ノーカントリー」のハビエル・バルデムと「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のダニエル・デイ・ルイスと、どっちかとつきあわなきゃいけないとしたら、どっちとつきあう?
なに、その質問。究極の選択じゃない。
だから、もしも、って言ってるだろ。
まだ、ハビエル・バルデムのほうがましよ。ダニエル・デイ・ルイスの体臭にはきっと耐えられないと思うわ。
なるほどねえ。
でも、監督のポール・トーマス・アンダーソンって、こんなにどっしりした映画をつくる監督だった?
「マグノリア」でカエルを降らせたり、「パンチドランク・ラブ」でピアノを落としたり、一筋縄ではいかない奇妙な監督だとは思っていたけど、ここまで堂々とした構えの映画を撮る監督だとは思わなかった。
「マグノリア」かあ。考えてみれば、あれもかなり偏執狂みたいな映画だったけど、こんどもかなり偏執狂みたいな映画よね。
何に偏執しているのか、よくわからなかったけどな。
とにかく、ダニエル・デイ・ルイスは、背景も経緯もなく、出てきたときからいきなりヘンな男だもんね。
対立する、まゆツバもののにわか牧師がまたヘン。
おまえは「エクソシスト」の悪魔祓い師かと思ったけど、その割りに威厳がない。
まだまだ、若いね、と思ったら、ラストはあんなことになって、しょうがないねえ、もう。
女がほとんど出てこない。しょうがない男たちのしょうがない物語なんだけど、それだけに、よけいな装飾をほどこされない原初のエネルギーを見せつけられたみたいで、圧倒されたわ。
ある意味、神話の域に達する、人間の業を思いきり圧縮したような映画だった。
監督のポール・トーマス・アンダーソンを突き動かしたのは、何だったのかしらね。
そりゃ、創作のエネルギーだろう。案外、ダニエル・デイ・ルイスより油っぽかったりして。俺も、あれぐらいの熱いエネルギーが必要かもな。
やめて。そんな暑苦しい人になったら、もう絶交よ。


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