【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「山のあなた 徳市の恋」:太平二丁目バス停付近の会話

2008-05-24 | ★都02系統(大塚駅~錦糸町駅)

そろそろ、あじさいの季節かしら。
バス停にあじさいなんて、日本的な風情だな。
映画で日本的な風情といえば、「山のあなた 徳市の恋」よね。
ひなびた温泉宿の按摩とそこへ来た東京の女との淡い恋の物語。70年前の清水宏監督の映画「按摩と女」のリメークだっていうから、日本的なのは間違いない。
リメークどころか、ほとんど脚本も演出も一緒で、監督の石井克人は音楽でいうところの”カバー”っていうことばを使ってるそうよ。
なるほど、カバーバージョンね。たしかに、2008年の映画なのに、昭和初期の日本映画の匂いがした。
まずは、旅館の日本間。ああいう日本間を観るだけで、昔懐かしい匂いがしちゃうっていうのは、それだけ今の日本では畳のある光景が貴重になっちゃったってことかしらね。
それから、出演者たちの喋り。あの間とイントネーションは、明らかに古い日本映画のものだ。
出演者でいちばん驚いたのは、草剛でもなければ、加瀬亮でもなく、映画初出演のマイコだった。
洋風の顔立ちなのに、見るからに昔の日本の映画女優の風格をたたえていて、目を見張った。微妙に後ろを振り返るシーンなんて、他に観客がいなければ「よっ、見返り美人!」って声をかけてたぜ。
化粧品のモデルをやっていたって聞くと、たしかにそうだろうと思うところもあって、立ち居振る舞いがなんとも端正なのよね。
ドラマチックな展開はほとんどないんだけど、人情の機微で見せる部分がなんともおかしくて、その割にじめじめとするところはなく、こざっぱりしていて、いま見ても全然カビ臭くない。70年前にこんなおしゃれな映画があったなんて、目からうろこだ。
じゃあ、オリジナルを見ればいいじゃないって言うかもしれないけど、徳永英明のカバーCDを聴くようなもので、また違った魅力があるのよね。
今回のカバーバージョンのひとつの大きな意義は、やはりカラーになったことだろう。
初夏の緑のみずみずしさが、これでもかと目に映える。木々がきらめく山あいをのんびりと行く馬車の遠景。あれだけでも、映画館で観る価値、あるわよね。
あのみずみずしさは、カラーじゃないと表現しきれない。
高齢者割引でもないのに、1,000円で観れるっていうのも、こういう映画を観て昔の日本映画を再認識してほしいっていう制作者たちの心意気を感じるわ。
しかも、主演がスマップの草君だもんな。
たいした、たまげた。
なんだ、それ?
いや、昔の観客ならこう言うんじゃないかと思って。
とにかく、梅雨に咲くあじさいのように心にしみる映画だったよ。
うん、映画っていう名の絵手紙をもらったような気分よね。



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