【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「ぜんぶ、フィデルのせい」:茗荷谷駅前バス停付近の会話

2008-02-27 | ★都02系統(大塚駅~錦糸町駅)

どうしてこんなところにユニコーンがいるのかしら。
伝説の一角獣か。知能が高く、鋭い感覚を持つため、まず捕らえることはできないって言われているらしいな。
キューバのフィデル・カストロみたいに?
なんだよ、いきなり。話が飛躍するなあ。彼を捕らえることはたしかに難しいとは思うけど。
彼は自己顕示欲が強いみたいだから、ここにユニコーンを置いたのも、フィデル・カストロのせいかもよ。
おいおい、なんでキューバの議長が茗荷谷にユニコーンを置かなきゃいけないんだ?そんなこと言ったら、電信柱が高いのも郵便ポストが赤いのも、ぜーんぶフィデルのせいになっちゃうじゃないか。
かもよ。
おいおい、何でもかんでもフィデル・カストロのせいにするな。
でも、映画の中ではそう言ってるじゃない。
映画「ぜんぶ、フィデルのせい」の中でキューバから来たお手伝いさんが言ってることばだろ。
フランスに暮らす9歳の少女アンナは、カトリック女学校に通うお嬢様だったのに、両親が共産主義にかぶれたせいで生活が一変してしまう。
狭いアパートに引っ越さなきゃいけなくなるし、怪しげな人間が出入りするようになるし、授業には出れなくなるし、もうさんざんだ。
「こんな、生活もういや」と思っているところへ言われたお手伝いさんのひとことが「ぜんぶ、フィデルのせい」。
しかし、全編通して印象に残るのは、カストロではなく、主役の少女、ニナ・ケルヴェルの仏頂面だった。
いっつもむすくれているんだけど、その顔がなんともキュートで、政治に振り舞わされる子どもの話なのに、堅い映画の印象はなくて、ほんわかとパステル・カラーの印象しか残らない。
いまテレビで放送しているドラマ「エジソンの母」に、「どうして、どうして」と何でも知りたがる男の子が出てくるけど、そのフランス版みたいな女の子だよな。「どうして、どうして」と何にでも興味津々になる。
あれだけ、いろいろなことに対してエネルギッシュに興味を持てば、将来大物になるわよね。
監督のジュリー・ガヴラスみたいにか?
映画「Z」で有名なコスタ・ガヴラス監督の娘なんでしょ。案外、自分のことを投影しているのかもね。
でも、フィデル・カストロもいい迷惑だよな。「シッコ」なんていうマイケル・ムーアの映画の中ではキューバは医療体制が整っていてこんな素晴らしい国はないって絶賛されていたのに、この映画ではあんなこと言われて。
ものごとは一つの面じゃなくて、いろいろな角度から見なくちゃいけないってことよね。あのユニコーンはカストロの贈り物だと想像してみるとか。
うーん、そういうことじゃないと思うけど、少女アンナも、不平不満を言ううちに世の中の複雑さをちょっと学んで、またひとつおとなに近づいたってことなんだろうな。最後には自らみんなの輪に入っていく。
そして、「ぜんぶ、フィデルのせい」と言われたフィデル・カストロも少しおとなになって、こんどキューバ議長を引退することにしたのよね。
ーん、この映画の影響ではないと思うけどな。
いいのよ、私はそう思っているんだから。
思うのは自由だけど、それが間違っていても、俺は知らないぞ。
はい、はい。ぜんぶ、私のせい。


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