「姥玉みっつ」 西條奈加 潮出版社 2024.3.20
名主の書役として暮らすお麓の閑居へ、能天気なお菅と、派手好きなお修が転がり込んできた。
二人とも五十年前の幼友達だ。
お麓は歌を詠みながら安穏の余生を送ろうとしていたのだがーー。
ある日、お菅が空き地で倒れた女と声が出せない少女を見つけてきた。
厄介だ。お麓にとって悪夢のような日々が始まったーー。
泣いて、笑って、喧嘩して、
なんだかんだあっても婆たち三人ーー
人生これから!
P152
女が仕事を持つことは、江戸では決してめずらしい話ではない。というのも、庶民に「結婚」が強いられるようになったのは、明治以降であるからだ。
「結婚」とは、婿養子を除けば、妻が夫の家に嫁することだ。妻は財産をもつことが許されず、家父長制のもと家に縛りつけられることとなった。
しかし江戸期までは、「結婚」という約束事を交わすのは、貴族や武家といった身分のある家や富裕な者に限られ、庶民のあいだの夫婦とは、もっと緩い間柄である。夫婦はまさに一緒になるもので、法的には未婚も多く、夫婦別姓、夫婦別財があたりまえであった。