元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「モンスター」

2012-01-28 07:15:54 | 映画の感想(ま行)

 (原題:Monster )2003年作品。不幸な生い立ちの娼婦が、連続殺人を犯す“怪物”に変わり果ててゆくプロセスを描く。監督は女流のパティ・ジェンキンスで、実在の女性死刑囚を題材にしている。

 身体を張って汚れ役に挑み、アカデミー主演女優賞を獲得したシャーリーズ・セロンの壮絶演技が話題になった本作だが、各賞のノミネーションにおいて主演女優賞以外はほとんど無視されていた事実がこの作品の“限界”を示していると思う。一番の問題点は、連続殺人を犯すヒロインの精神的バックグラウンドが描き切れていないこと。

 不遇な子供時代を送ったこと等はセリフでサッと流すのみ。最初の殺人は正当防衛だが、それが金目当ての強盗殺人へと発展するプロセスに説得力はない。作者としては“ネコっ気のあるレズ娘に対して「亭主風」を吹かせようとしたためだ”との解釈で押し切りたいのだろう。しかし、その程度の理由で凶行に及ぶほど人間ってのは単純ではない。

 事実を元にしており、実際にはどうしようもない葛藤と狂気がヒロインの中で渦巻いていたはずだが、そこまで踏み込む覚悟と体力が、この若手女流監督には欠けている。相手役がクリスティーナ・リッチというのも、社会の掃きだめで生きる惨めさと開き直りを描出するためには、小綺麗に過ぎるキャスティングである(笑)。

 要するに、セロンが“肉体改造演技”に踏み切った時点をもって“満足”してしまったような映画で、素材に対してもっと肉迫するか、あるいは完全に突き放すかといった、肝心の映画的興趣を盛り上げる工夫にはまるで欠けている。私は事件の酷さよりも、銃が簡単に手に入るアメリカ社会の方が問題に思えてしまった。

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