気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

琥珀夕映え 竹内みどり 柊書房

2021-08-11 01:02:47 | つれづれ
エアコンの裏にもがける虫あればレスキューもする電器屋だもの

空(から)の巣をうちに抱へて生きる日よ遠くなりたり子とありし日々

金色の竜をいただく霊柩車給油してをり仕事の前に

眉のうへ透き通るやうな額あり帽子とりたる警備員の夏

いにしへの時をとどめる室(むろ)となり蔵の真闇はかすか息づく

核一万六千発がある世にて懐中時計のりゆうづを巻きぬ

引き出しにうすむらさきの姑の箸残れり夫とふたりの夕餉

インターハイ出場選手を校歌にて送りき未来の夫と知らずに

むぎわらの先でふくらむシャボン玉いそがなくてもおとなになれる

あしたにもあしたがあると思わせる久慈の琥珀のなかの夕映え

(竹内みどり 琥珀夕映え 柊書房)

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コスモスの竹内みどりさんの第一歌集。鳥取で電器店を夫婦で営む。歌にはリアリティとユーモアがあり、昭和の肝っ玉かあさんの風情だ。家電製品について困りごとがあれは、電話ですぐ呼べる電器屋さんがむかしはあったなあ。ホームレス氏や警備員さんといった働く人、高齢者に寄り添う目も暖かい。人情に溢れているが、そこに溺れない。実は冷静にモノの真実を見ている。モノに語らせる歌風はわたしの惹かれるところだ。家族詠が多いものの、子についての歌は一首のみ。高野公彦氏の帯文はあるが、栞も跋文も略歴もなく潔い。468首と歌数が多いのに、一気に読んでしまった。

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