現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

ばんひろこ「まいにちいちねんせい」

2017-07-08 09:15:57 | 作品論
 1年2組のゆきとたつやを主人公にした連作短編集です。
 この本は3作の短編で構成されているのですが、まず全体の本のつくりから見てみたいと思います。
 定価は900円で、最近の本の値段としては抑えられていると思います。
 図書館で手にするというよりは、本屋さんの店頭で実際に子どもに手にしてもらい、おかあさんなどの媒介者(子どもに本を手渡す人のことです)に買ってもらうのには手ごろな値段設定です。
 おなじみの長谷川知子の表紙絵も、二人の主人公の魅力を十分に伝えています
 初版の発行部数は何部でしょうか?
 十分に書店に行きわたる数だけ刷って、平積みに置かれているとすれば、ちょうど入学の時期に出版されたので、かなりの一年生たち(特に女の子)が手にしてくれたかもしれません。
 帯の惹句は、「いちねんせいの まいにちは、ドキドキすることがいっぱい!!」とあり、まさに読者たちにとってはタイムリーです。
 媒介者用には「1年生の毎日を元気にえがいた心あたたまる物語」と購入の後押しをしています
 帯の裏には、「まいにちいちねんせい」には、3つのおはなしが入っています!」とあって、目次の機能を備えています。
・いちねんせいの ランドセルは、ピッカピカ?
・いちねんせいの 口は、あけられない?
・いちねんせいにも、ひみつは ある
 魅力的なタイトルが並んでいると思いますが、できれは「いちねんせいの……?」で統一できれば、もっと良かったかもしれません。
「つづけて読んでも、ひとつひとつ読んでも、楽しめます☆」
と、読書ガイドがついているのは、最近の小学生の読書力の低下に伴い、「長いのはどうも、…」と敬遠する子どもたちへの配慮でしょう。
 帯の裏側の漢字にはすべてルビがふってあり、子どもたちが自分で購入を希望できるように工夫されています。
 もし平積みにならなかった場合は、タイトルの「まいにちいちねんせい」と可愛い子猫の絵と帯の「低学年向け」という文字だけが目に入るのですが、ややインパクトに欠けて他の本に埋没しないか、少し心配です。
 以上のように、タイトルが素直すぎることを除くと、この本を買ってもらうための工夫はうまくなされているのですが、この本が子どもたちに長く読み続けられるための工夫は足りないように思いました。
 一番の不満は、本体に目次がないことです。
 本の帯(特に児童書では)は、購入後なくなってしまうことが多いと思います。
 図書館や学校で手にした場合には、最初から帯はないでしょう。
 その時に、この本ではいっさい目次がなく不便です。
 気に入った短編ができた時に、そこだけを読み直す(子どもの読書としては一般的だと思います)ことが簡単にできません。
 また、最後の短編が終わってすぐに本が終わってしまうのも、なんだか味気ない感じです。
 「あとがき」やシリーズの他の本の紹介などは、読書後の余韻のために必要だと思います。
 あるいは経費削減のためにこれらをカットしたのかもしれませんが、そのわずかな節約が自分で自分の首をしめることにならなければよいがと思いました。
 つまり、編集者の目が購入時のみにいっていて、この本を長く愛してもらいたいという方には向いていないのです。
 こういった姿勢は、この本をシリーズ化して育てていこうという姿勢がないからだと思います。
 たとえ嘘でもいいから、ゆきとたつやとまた別の本で出会えるかもしれないと、読者に期待を持たせてほしかったと思いました。

まいにちいちねんせい (ポプラちいさなおはなし)
クリエーター情報なし
ポプラ社

 

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