現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

中川右介「グレン・グールド」

2021-05-02 13:56:15 | 参考文献

 2012年に発行された、いわゆるグールド本(おびただしい数の本が出版されています)の一冊です。
 あとがきで著者が述べているように、31歳でコンサート・ピアニストを引退したグールド(50歳で亡くなっています)は、主にレコードにおける演奏について語られてきたので、このようにコンサート活動を、5歳で初めて人前で演奏(ただしオルガン)してから引退するまで網羅的に記述していて、音源が残っているものはそれも紹介している(すべて巻末にリストアップされているグールド本からの情報で、著者独自の取材はしていないようですが)のは、グールドファンだけでなく、私のようにほとんどグールドを聴いてこなかったグールド初学者(ピアニストでは、ホロヴィッツとアシュケナージのファンでした)にとっても、非常に参考になりました。
 しかし、冒頭で、グールドと同世代の世界的に有名な三人の若者、ジェームス・ディーン、エルヴィス・プレスリー、ホールデン・コールフィールド(サリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(その記事を参照してください)の主人公)も紹介し、グールドと「怒れる若者たち」ないしは「理由なき反抗」との関連をほのめかしていますが、実際に書かれているのは皮相的な誰もが知っている内容で、著者の独自の考察も全くなく、「羊頭を掲げて狗肉を売る」の類です。
 他にも、ビートルズやケルアックの「オン・ザ・ロード」(ビート・ジェネレーションを描いた代表的な作品)も紹介しているのですが、ほとんど意味不明です。
 だいいち、「怒れる若者たち」や「ビート・ジェネレーション」について実感を持って語るには、著者(私もそうですが)は若すぎますし、グールドのコンサート・ピアニスト時代(ジェームス・ディーン、エルヴィス・プレスリー、ホールデン・コールフィールドが活躍した時代でもあります)の大半は、著者は生まれてもいませんでした。
 また、副題に掲げた惹句「孤高のコンサート・ピアニスト」や巻末に掲げたハンニバル・レクター博士(トマス・ハリスの「羊たちの沈黙」などの主人公)の有名なセリフ「それと、音楽。グレン・グールドの「ゴールトベルク変奏曲」?要求がすぎるかな?」も、内容にはそぐわずピントはずれな感じです。

グレン・グールド 孤高のコンサート・ピアニスト (朝日新書)
クリエーター情報なし
朝日新聞出版

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