レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

二流小説家 ヒトラーの試写室 残酷な偶然

2018-10-31 14:20:27 | 
『二流小説家』デイヴィッド・ゴードン

 ハヤカワミステリ。
「ビブリオミステリー」の本で紹介されていて読みたいリストに加えた小説の一つ。
 いくつものPN
でいくつものジャンルで細々と書き、しかし家庭教師(というよりはレポートの代作というセコいこと)の収入に頼っている売れない作家の中年男ハリーの元に、刑務所から手紙が来る。連続殺人犯の死刑囚ダリアンが面会を求めている。チャンスと思って面会し、ダリアンのファンの女たちと会うことを指示される。奇妙な女たちと会って、ダリアンの指示に従ってポルノを書いたりするが、その女たちが殺害される、それもかつてのダリアンのした方法と同じやり方で。ダリアンの弁護士はこれを彼の無実の証拠として裁判のやり直しを主張し始める。
 ハリーが家庭教師をしている女子高校生が、えらそうにハリーのマネージャーのようにあれこれ指示するさまが妙におかしい。  
 弁護士はガサツな態度の中年女でこれも存在が強烈。
 その弁護士の秘書の女性が愛読するのはハリーの書くヴァンパイアもの。アメリカでヴァンパイア小説が一定の需要のあるジャンルだという。そういえばアン・ライスは萩尾望都の影響を受けているという話があったな。
 ハリーが「著者近影」でジャンルに合った姿で写ろうとして、仮装したり、ムキムキ黒人の友達に代役させたり。上記のヴァンパイア小説は女名前のPNなので母の写真を使い、母の死後は女装までする、このへんはすごく笑える。
 酒場で、上記の代役の友人と一緒のところでファンだという黒人に会って、でも友人が酔って口をすべらせて正体がばれる、「それでも」と握手を求められるのはほっとするシーンだった。
 殺人じたいはグロテスクだけど、そこここにユーモアもあって面白い小説である。


松岡圭祐『ヒトラーの試写室』
 タイトルは「ヒトラーの」となっているけど直接に登場はしない。実在有名人ではゲッベルスが中心。
 俳優を狙ったけど映画の特殊技術のほうへまわった日本人主人公が、その技術のためにドイツへ呼ばれてプロパガンダ戦にまきこまれていく。
 円谷とか原節子とか、『新しき土』『制服の処女』『カサブランカ』、当時の映画もいろいろと言及されるし、時代背景に関心があるとなお面白い。


アレッシア・ガッゾーラ『残酷な偶然  法医学教室のアリーチェ』 西村書店
 イタリア産。
 舞台はローマ。法医学研修生のアリーチェは、気乗りしないパーティーに来ていくドレスを買いに行った店で、ドレスを選んでくれた見ず知らずの美しい女性に強い印象を受ける。翌日そのパーティーの日に上司と共に行った検死で出会った遺体はその人だった。そういう個人的な動機で事件に深入りしていく。うっかりで気弱なところのあるアリーチェは、このままだと留年だと宣告されて大いに落ち込んだり、裏で「神」と呼ばれている上司の息子と恋に落ちたり、日本人留学生の同居人とオタクな気晴らししたり、――ミステリ以外に、等身大のキャラを感じるという楽しみも味わえる。イタリアでもセクハラの観念はあるんだな~と失礼な感想も持った。
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