Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

1/3(火)第55回NHKニューイヤーオペラコンサート2012/日本オペラ界のスター勢揃い

2012年01月05日 00時57分49秒 | 劇場でオペラ鑑賞
第55回NHKニューイヤーオペラコンサート
NHK NEW YEAR OPERA CONCERT 2012


2012年1月3日(火)19:00~ NHKホール B席 3階 L1列 22番 5,000円
司会: 夏木マリ/野村正育(NHKアナウンサー)
指 揮: 下野竜也
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱: 新国立劇場合唱団/二期会合唱団/藤原歌劇団合唱部
合唱指揮: 冨平恭平
児童合唱: NHK東京児童合唱団
バレエ: 東京バレエ団
フラメンコ: アルテイソレラ
フルート: 竹山 愛
【曲目と出演者】下記の通り。

 年が改まって2012年。年頭に聴くのはやはり「NHKニューイヤーオペラコンサート」だ。第55回となる今回のテーマは「愛に満ちて人は歌う、愛を力に人は歌いつづける」ということで、震災からの復興やその支援に音楽(オペラ)が担う役割を問いかける。その中身は、「愛」をキーワードに、古今東西の名作オペラから様々なカタチの「愛のテーマ」を集めたガラ・コンサートである。日本オペラ界の錚々たるメンバーが集められるのはさすがにNHKである。
 ご承知のようにこのコンサートはNHKのEテレで全国に生中継される(というよりは放送のためにコンサートが開催されている)。ということなので、このコンサートをテレビで観た方は全国に何十万人もおられるだろうから、内容を細かくレビューしてもあまり意味がない。むしろ会場のNHKホールでナマで観て聴いたからこと感じることができた部分について、曲順を追って、レビューしてみようと思う。
※テレビの放送も録画しておいて試聴したが、音声のバランスは見事にミキシングされていた。ナマで聴いていると歌手による声量の差などは明瞭に分かってしまう(もっとも大きな声を出す歌手が上手いという訳ではないが)。

《第1部》
●ワーグナー: 歌劇『タンホイザー』から巡礼の合唱「ふるさとよ、また見る野山」
  出演者全員
 オープニング曲は前触れなく始まった。澄んだハーモニーの美しい合唱だ。

●プッチーニ: 歌劇『トゥーランドット』から「誰も寝てはならぬ」
  福井 敬(テノール)……カラフ 女声合唱
 司会の挨拶の後、事実上の1曲目は福井敬さんの十八番、「誰も寝てはならぬ」で眠気を吹き飛ばす先制パンチといったところ。いきなりの全力投球で、会場が一気に引き締まった。

●ヴェルディ: 歌劇『イル・トロヴァトーレ』から「見よ、恐ろしい火を」
  村上敏明(テノール)……マンリーコ 男声合唱 北原瑠美(ソプラノ)……レオノーラ
 ヴェルディらしいノリの良いリズム感で、村上さんのキレの良い歌唱が印象的。1フレーズだけ登場した北原さんは二期会の人で、公演プログラムに名前の記載がなく可哀想だった。

●ヴェルディ: 歌劇『椿姫』から「ああ、そはかの人か~花から花へ」
  森 麻季(ソプラノ)……ヴィオレッタ 大槻孝志(テノール)……アルフレード
 森さんはやっぱり美しくコケティッシュな魅力いっぱい。ヴィオレッタを歌うのには妖艶さが足りない(?)。声量が足りないという声がしばしば聞かれるが、それは会場が広すぎるからだろう。澄んだ声がよく響き、よく通るのでまったく問題はない。「花から花へ」の最後の音もオーケストラが終わるまで引っ張り、技巧的なところも聴かせてくれた。

●ビゼー: 歌劇『カルメン』からロマの歌「にぎやかな楽の調べ」
  林 美智子(メゾ・ソプラノ)……カルメン アルテイソレラ(フラメンコ舞踊)
 林さんの『カルメン』は2009年の佐渡裕プロデュースオペラでのタイトルロールが印象につよく残っているが、今日はその時以来だ。今日は踊りもかなり本格的に振り付けられていて、後半は息切れ気味(?)。あんなに動いたら歌うのが大変だ。それでも最後まで見事に歌いきったのは、さすがというところだ。

●ビゼー: 歌劇『カルメン』から闘牛士の歌「諸君の乾杯を喜んで受けよう」
  成田博之(バリトン)……エスカミーリョ 合唱
 「闘牛士の歌」のエスカミーリョは低い声が離れた席までは通りにくく、歌唱を優先させてしまうとフランス語の発音も乱れがち。成田さんの歌もそんな感じ。

●團 伊玖磨: 歌劇『夕鶴』から「与ひょう、あたしの大事な与ひょう」
  腰越満美(ソプラノ)……つう
 腰越さんの『夕鶴』は、2011年2月の新国立劇場公演で聴いたのを思い出す。役柄としてはすっかりモノにしているので、安定感のある歌唱だ。エキゾチックな顔立ちに加えて、少々舞台化粧が派手すぎたのでは? 3回からもオペラグラスで観ていてそんな印象を持った。「つう」なんだから、もっと清楚に…。

●プッチーニ: 歌劇『蝶々夫人』から「ある晴れた日に」
  木下美穂子(ソプラノ)……蝶々夫人
 木下さんの『蝶々夫人』は、2006年7月の東京二期会の公演を思い出す。圧倒的な力感溢れる蝶々夫人は、今や日本一といって差し支えないだろう。久しぶりに聴いたが、3階席まで突き抜けるように響いてくる歌唱はさすが。ppの繊細さもいうことなしの素晴らしさだ。

●プッチーニ: 歌劇『ラ・ボエーム』から「冷たい手」
  望月哲也(テノール)……ロドルフォ
 ノーブルでリリックな望月さんならではの歌唱。よく通る声だが繊細で上品な歌声がいかにもロドルフォらしく秀逸だった。ステージの中空に浮かぶ屋根裏部屋のセットが丁寧に作られていて、まるでオペラの本編を観ているよう。ここではミミ役の清楚で美しい安藤芙美子さんが黙役で望月さんの歌唱を支えていた。

●プッチーニ: 歌劇『ラ・ボエーム』から「私が街を歩くと(ムゼッタのワルツ)」
  中嶋彰子(ソプラノ)……ムゼッタ 谷 友博(バリトン)……マルチェッロ 安藤芙美子(ソプラノ)……ミミ 望月哲也(テノール)……ロドルフォ 須藤慎吾(バリトン)……ショナール 斉木健詞(バス)……コッリーネ 平野忠彦(バリトン)……アルチンドロ
合唱 児童合唱
 屋根裏部屋がくるりと反転すると、そこは第2幕、Café Momusが現れる。「ムゼッタのワルツ」から終幕までを、『ラ・ボエーム』の6名の登場人物と合唱団、児童合唱団を含めて総勢120名ほどの大舞台だ。たった1夜の1曲のためにこれだけのセットを組めるのだったら、NHK主催でオペラの公演を行えばいいのに、などと本気で思った。ここでは中嶋さんが色っぽいムゼッタを熱演。豊かな声量と艶のある声がよく通っていた。その他の出演者はほんの1フレーズずつしか出番がないから、非常にもったいない。とくに安藤さんには前の曲の後に「私の名はミミ」を歌って欲しかったと、会場にいた多くの人が思ったに違いない。

《第2部》
●ドビュッシー: バレエ『牧神の午後』(振付: ワツラフ・ニジンスキー)
  後藤晴雄……牧神 上野水香……ニンフ 東京バレエ団(矢島まい/渡辺理恵/川島麻実子/加茂雅子/小川ふみ/政本絵美) 竹山 愛(フルート)
 テレビで観ていた方は気づかなかったと思うが、このドビュッシーの音楽は録音である。オーケストラのメンバーは一旦ピットから下がっていた。席で聴いていてもさほど違和感なく聞こえるPAシステムはなかなかよくできていた。だとすれば…。3,500人入る巨大なNHKホールで、遠くで聴いていても歌手たちの肉声がよく聞こえる、その訳は…?
 バレエの方は極端に動きを抑制した踊りが画期的なもの(らしい)。しかしながら、ニューイヤーオペラコンサートにドビュッシーのバレエというのはいかにも場違いな感じで、いくらドビュッシーの生誕150年とニジンスキー振付の初演100年の記念年とはいえ、企画の意図が今ひとつつかめなかった。

《第3部》
●マスカーニ: 歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』から復活祭の合唱「主はよみがえられた」
  清水華澄(メゾ・ソプラノ)……サントゥッツァ 合唱
 清水さんの歌唱は豊かな声量とヒシヒシと迫ってくる魂を感じさせる見事なものだった。ニューイヤーオペラコンサート初登場ということだが、圧倒的な存在感を見せつけた。昨年末の東京交響楽団の第九でも聴いたが、この人の本領はやはりオペラにあるようだ。一度ですっかりファンになってしまった。次はぜひ、オペラの舞台でお会いしたいものた。また合唱も見事だった。さすがに日本の三大オペラ団体の選りすぐりだけのことはある。

●バーンスタイン: ミュージカル『キャンディード』から「着飾ってきらびやかに」
  幸田浩子(ソプラノ)……クネゴンデ
 幸田さんは相変わらず何歳になっても(失礼)少女のような可愛らしさ。コロラトゥーラ系のキレイな声は、クネゴンデにぴったり。

●プッチーニ: 歌劇『トスカ』から「たえなる調和」
  樋口達哉(テノール)……カヴァラドッシ
 久しぶりに聴く樋口さんには驚かされた。情感の込められた歌唱で、十分すぎる声量で、まさにカヴァラドッシ(!!)という感じ。この短いアリアでものすごい存在感を打ち出していた。女声のBravo!!が盛大に飛んでいたのはやはりファンの人たちだろうか…。

●プッチーニ: 歌劇『トスカ』から「テ・デウム」
  堀内康雄(バリトン)……スカルピア 大槻孝志(テノール)……スポレッタ 合唱
 堀内さんのバリトンは何も言うことはない、とにかく上手い!! 日本一!!

●ワーグナー: 楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』から「親方たちをさげすんではならぬ」
  妻屋秀和(バス)……ハンス・ザックス 合唱
 第1幕への前奏曲が有名な「マイスタージンガー」も全編を聴いたことがある人はあまりいないのでは? 妻屋さんの声は、力強い押し出しで、ドイツ系のバスはお得意の分野だけに、素晴らしい歌唱であった。最後に衣装の早変わりを見せてくれた。

●サン=サーンス: 歌劇『サムソンとデリラ』から「あなたの声に心は開く」
  藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)……デリラ
 『サムソンとデリラ』はあまり上演機会のないオペラだが、このアリアだけは有名、メゾ・ソプラノ歌手のリサイタルなどではよく聴かれる。藤村さんの歌唱は、抜群の安定感で、世界クラスの実力を見せつけた。メゾ特有の柔らかさは言うに及ばず、地を這うように下から響いてくる独特の深みのある声は素晴らしい。最後は高音域まで聴かせてくれた。

●バーンスタイン: ミュージカル『キャンディード』から「メイク・アワ・ガーデン・グロウ」
  全員
 コンサートのフィナーレは全員で『キャンディード』の最終曲を、ソリストたちは交替で、合唱を交えて、光り輝く照明まで加えての大団円である。


「第55回 NHKニューイヤーオペラコンサート」出演者の皆さん


 全体を通じての印象も付け加えておこう。
 まず、伴奏を務めた下野竜也さんの指揮する東京フィルハーモニー交響楽団。ちょっと珍しい組み合わせだと思うし、下野さんにはあまりオペラのイメージがないが、今日の指揮ぶりは、キレの良いリズム感とメリハリの効いた下野さんらしい明快なものだった。そして東京フィルはいつもながらの濃厚な色彩感のある音色が素晴らしかったといえる。このようなガラ・コンサート形式だと、次々と登場するスター歌手たちに目も耳も奪われがち。伴奏のオーケストラなんか適当に鳴っていればよいと思われて、あまり気に止められなかったりもする。しかし、最近の東京フィルの演奏に注目している私としては、今日も密かにオーケストラの演奏にも耳を傾けていた。やはり日本のオペラを支え続けてきた東京フィルだ。濃厚にして豊潤。豊かな色彩感と、揺れ幅の大きなオペラの演奏に対して、緻密なアンサンブルとドラマティックな表現力を聴かせていた。こしかも、れだけ多彩な歌手陣(人によってかなりクセが違う)で、ドイツ、イタリア、フランス、そして日本という異なる楽想のオペラ曲、そして作曲家の違いもあるのに、合わせて17曲をそれぞれの特徴を崩すことなく、普通に上手に演奏していた。この柔軟なポテンシャルこそオペラ演奏には欠かせない要素であり、東京フィルは素晴らしいオーケストラなのだと思う。

 そして合唱の素晴らしさ。合唱がオペラを背景から支えてくれる重要な要素であることを、今日のコンサートの企画者はよく知っているのだろう。合唱の魅力を随所に散りばめた選曲でもあった。新国立劇場合唱団、二期会合唱団、藤原歌劇団合唱部という日本の三大オペラ主催団体の合唱団のポテンシャルは極めて高く、素晴らしいハーモニーを聴かせてくれた。

 歌手陣は、主役級をこれだけ集めてくると、いずれも甲乙つけがたい素敵な歌唱を聴かせてくれたが、とくに強く印象に残ったのは、福井 敬さん、望月哲也さん、中嶋彰子さん、清水華澄さん、樋口達哉さん、妻屋秀和さん、藤村実穂子さんといったところか。
 いずれにしても、日本のオペラ界にも素晴らしい才能を持った歌手がいっぱいいる。日本人によるオペラの上演機会がもっともっと増えてくれれば、彼・彼女たちのオペラを観る・聴くことができる。そんな日が来ることを願ってやまないのだが…。

人気ブログランキングへ ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2011年に聴いた名曲(2)/メン... | トップ | 1/9(月・祝)読響みなとみらい... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

劇場でオペラ鑑賞」カテゴリの最新記事