Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

7/20(月・祝)佐渡裕プロデュースオペラ「カルメン」

2009年09月17日 23時22分22秒 | 劇場でオペラ鑑賞
指揮者の佐渡裕さんが芸術監督としてプロデュースするオペラシリーズで2009年は「カルメン」。

7月20日(月・海の日)午後4時~ 東京文化会館・大ホール S席 1階 1列11番 17,000円
指揮・芸術監督:佐渡 裕
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:二期会合唱団/ひょうごプロデュースオペラ合唱団
カルメン:林 美智子
ドン・ホセ:佐野成宏
エスカミーリョ:成田博之
ミカエラ:安藤赴美子
ほか

 なぜ、今ごろ? 実はNHKのBS-hiで本公演の録画放送が9/12にあったので、思い出しながら書き残しておこうと思って(放送は7/4 兵庫県立芸術文化センターで収録されたもの)。なお、ダブル・キャストで外国からゲストを招いての組もあったので、本公演はB組(?)。でもボクは迷わずこのキャスティングを選んだ(実は林美智子さんの大ファンなので)。日本人だけのオペラも、見方によってはとても楽しいものだと思う。
 全体の印象は、「とても面白かった!」である。もともと「カルメン」「椿姫」「フィガロの結婚」「ラ・ボエーム」などのオペラは、悲劇だろうが喜劇だろうが面白いものだ。ストーリーも登場人物のキャラクタもよく知れていて、わかりやすい。高尚な芸術というよりは、きわめて人間的なラブ・ストーリーだからだ。だから、「カルメン」は面白くなくちゃならない。
 とにかく佐渡さんの指揮が「熱い」。1列目だから佐渡さんの指揮ぶりがよく見えたが、汗を飛び散らせながら燃えまくっていた。キレのいい早めのテンポでリズム感も躍動的。スペインの舞踏のイメージが強く、オペラ全体を生き生きとさせていた。「カルメン」は名曲だが(有名な曲がいっぱい)、演奏自体は難しくはない(素人考え)と思う。たとえばリヒャルト・シュトラウスなんかと比べると、オーケストレーションの幅も厚みも少ない。だが、ストレートでやさしい音楽は、演奏者のノリが良かった時など、魂に直接響くような力強さが生まれる。佐渡さんの「熱い」思いがボーボーと燃えているような演奏だった。
 歌手陣はというと。
 この日は東京公演の千秋楽というせいのあってか、タイトルロールの林美智子さんはいつもより声量が少ないようだった。疲れていたのかな。でも第4幕の最後はがんばっていました>^_^< 彼女の声はもともとメゾらしい豊かさが魅力で、技巧も確か。それに演技力があるから見ていて、聴いていて楽しい。リートよりオペラに向いている歌手なのだろうなあ。
 「カルメン」はメゾが主役の数少ないオペラだ。彼女も、「皇帝ティトの慈悲」のセスト、「カプレーティ家とモンテッキ家」のロメオ、「ばらの騎士」のオクタヴィアン、と国内ではメゾの大役を次々とこなしてきたが、いずれるズボン役。だから「カルメン」こそ女性の主役ができる、唯一といっていいオペラになる。
 また、カルメンというキャラクターは、誰もがイメージするのはも美人で、悪女で、わがままで、自由で、個性的な強い女。この役に適したメゾ・ソプラノがあまりいないのだ。かつての名メゾ、アグネス・バルツァとか。最近ではヴェッセリーナ・カサロヴァとか。歌はいいのだが、マジメ男を秒殺で籠絡させる、美しく妖艶な悪女のイメージからはちょっと離れている。そしてこの日の林美智子さん。がんばって熱演されていましたが、人なつっこい童顔(失礼!)が悪女になりきれていなかったような、そんな印象だ。とはいえ、時折見せる寂しげな表情の中に、ただ単にツッパッテいるわがままな女なのではなく、その内側に社会の差別やら何やらの屈託を秘めているのが感じられて、このへんは秀逸だった。もうすこしキツめのメイクなどしたら、雰囲気がもっとでたかもしれない。ただしファンの目からすれば、あまりケバいみっちゃんは見たくないけど。
 ドン・ホセの佐野成宏さんも高音を響かせて熱演。オロオロした頼りないマジメ男が道を踏み外していく…なかなかいい演技だった。エスカミーリョの成田博之さんは、まあまあというところか。第2幕の「闘牛士の歌」は楽しそうに盛り上がっていた。
 ミカエラの安藤赴美子さんはというと、これがまたビックリするくらい適役を得て、輝いていた。主役のみっちゃんを食ってしまいそうなくらい、切ない女心をせつせつと歌う声が、清らかで泣かせる。容姿の美しさと透明感のある声質がこの公演を引き締めていた。総じて、男性陣より女性陣が勝っている印象だった(別に紅白歌合戦じゃないんだからどちらが勝とかどうでもいいけど)。
 演出にはいろいろな試みが仕掛けられていた。前奏曲・間奏曲の部分に、ストーリーの間をつなぐようなイメージ・シーンを盛り込み、ちょっと複雑な味付けになっている。意味がわかるところは「なるほど」という感じだが、よくわからないシーンもあって、「何がいいたいのだるう?」となる。まあ、こういう考えさせるところが、終わった後に解決できない印象として残るのだから、なかなか優れた演出なのだろう。
 今年は「カルメン」の当たり年(?)で、この春にヴェッセリーナ・カサロヴァ(カルメン)、ロベルト・ザッカ(ドン・ホセ)、イルデブランド・ダルカンジェロ(エスカミーリョ)というものすごい豪華メンバーによるコンサート形式の上演が、サントリーホールで開催された。さすがにこの3人の存在感はスゴイ。世界のトップクラスだけのことはあった。この時はデイヴィッド・サイラス指揮の東フィルだったが、オーケスと欄の演奏は、むしろ今回の佐渡裕指揮の方が情熱的な「カルメン」の世界を熱く語っていたように感じられた。世界の一流と、日本の一流をたっぷりと味わったから、「カルメン」は当分の間は聴くのをやめておこう。

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