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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/11(日)ソフィア国立歌劇場/「カヴァレリア・ルスティカーナ」「ジャンニ・スキッキ」/小林沙羅が可憐!!

2012年11月13日 00時19分12秒 | 劇場でオペラ鑑賞
ソフィア国立歌劇場 2012年日本公演/「カヴァレリア・ルスティカーナ」「ジャンニ・スキッキ」
SOFIA NATIONAL OPERA 2012 in Japan/“Cavalleria Rusticana”“Gianni Schicchi”


2012年11月11日(日)17:00~ 千葉県文化会館・大ホール S席 1階 2列 29番 14,000円(会員割引)

 2008年に続いて4年ぶりに来日公演となったブルガリアのソフィア国立歌劇場。今回のツアーでは、全国の11都市で計13公演を行う。用意された演目は2種類で、プッチーニの『トスカ』と、マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』&プッチーニの『ジャンニ・スキッキ』の2本立て公演。東京では、両演目が公演されるが、地方都市はどちらかになってしまう。千葉県文化会館の公演は後者の方であったが、こちらを選んだ理由は、東京での公演よりもいささか料金が安かったから。東京ではS席=22,000円に対して、千葉はS席=15,000円(しかもJapan Artsの夢倶楽部会員は各1,000円引き)。出演者が若干違うのかもしれないが、『ジャンニ・スキッキ』には小林沙羅さんも出演するので、地元の利を活かすことにした。会場まで自転車で行けるから交通費もかからない。休日の海外オペラ公演を自転車で観に行けるなんて、なかなかできることではない。

 マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』は1幕もののヴェリズモ・オペラの代表作。美しい旋律に乗って、生々しい愛憎劇から殺人事件にまで発展する。上演時間が70分くらいなので、単独で上演されることはあまりなく、多くの場合はレオンカヴァッロの『道化師』とセットで上演される。今年2012年の7月の東京二期会の公演でも、この2演目の組み合わせであった
 ところが今回のソフィア国立歌劇場の日本公演では、『カヴァレリア・ルスティカーナ』とプッチーニの『ジャンニ・スキッキ』を組み合わせた。『ジャンニ・スキッキ』は、『外套』『修道女アンジェリカ』と合わせてプッチーニの「三部作」と呼ばれる連作短編オペラの3番目の作品。上演時間も60分かからない。中世のフィレンツェを舞台にしている喜劇的なオペラであるが、本公演では時代の読み替えをして現代劇に置き換えている。ヴェリズモ・オペラの生々しい『カヴァレリア・ルスティカーナ』とドタバタ喜劇風の『ジャンニ・スキッキ』の対比が面白く、この組み合わせにはテーマ性こそ感じられないが、終演後にスッキリした気分になれるので、意外に良いのかもしれない。

 さて、下記のメンバー表を見ても分かると思うが、これらの歌手を知っている人はほとんいどいないだろう。つまり皆さん劇場の専属歌手である。しかもほとんどがブルガリア出身。結局のところ、今回の来日公演では、海外からのゲスト歌手は加えることなく、日本からの参加で『トスカ』に佐藤しのぶさんが、『ジャンニ・スキッキ』に小林沙羅さんが出演するに留まった。確か2005年の来日公演の時には、アンドレア・ロストさんやウラディーミル・ガルージンさんらがゲスト出演したヴェルディの『オテロ』を観た記憶がある。他にもサブキャストとして佐藤さんや森麻季さんも参加していた。佐藤さんは2008年の来日公演にも参加している。ところが今回の日本公演では、佐藤さんと小林さんが参加する公演がメイン・キャストとなっているようだ。残念なことにチケットの前売り状況が芳しくないらしく、東京の公演でも残席が多いようだ。従って、今日の千葉の公演では、入りはおよそ半分というところだった。もっともこれは最近のオペラ事情を反映していることでもあり、ウィーン国立歌劇場ですら全公演が完売するわけではないので、やむを得ないことかもしれない。

《カヴァレリア・ルスティカーナ》全1幕
作 曲: ピエトロ・マスカーニ
指 揮: アレッサンドロ・サンジョルジ
管弦楽: ソフィア国立歌劇場管弦楽団
合 唱: ソフィア国立歌劇場合唱団
演 出: ブラーメン・カルターロフ
美術・衣装: ロベルタ・モノポリ
照 明: アンドレイ・ハジニャク
助監督: ロシッツァ・コストーヴァ
合唱指導: ヴィオレタ・ディミトローヴァ
舞踊監督: マヤ・ショポヴァ
舞台監督: ヴェラ・ベレーヴァ
【出演】
サントゥッツァ: ラドスティーナ・ニコラエヴァ(ソプラノ)
トゥリッドゥ: マルティン・イリエフ(テノール)
ルチア: ルミャーナ・ペトロヴァ(メゾ・ソプラノ)
アルフィオ: ニコラ・ミハイロヴィッチ(バリトン)
ローラ: ツヴェタ・サランベリエヴァ(メゾ・ソプラノ)

 前奏曲が始まると、これがなかなか素敵な演奏である。とくに際立って上手いとかいうのではないが、伝統を感じさせる落ち着いた音色で、クセがなくバランスが良い。実にオペラ的で、歌唱に適した演奏といえば良いだろうか。イタリアの歌劇場とは音色の質が違う感じがする。やはり東欧、といった雰囲気で、ちょっくくすんだ暖かみがある音色だ。

 歌手陣はすべて劇場付きの人たち。ほとんどがブルガリア出身なので、見た目の雰囲気は似ているし、イタリアの景色には見えなくとも、独特の風合いがあって良い。
 サントゥッツァ役のラドスティーナ・ニコラエヴァさんは、気の強そうな顔立ちとメイクで、地力のある歌唱を聴かせていた。サントゥッツァはなぜか気の強そうな人が演じることが多いような気がする。トゥリッドゥに捨てられて未練を断ち切れない弱い女性のキャラクターのはずなのに、強力な歌唱を求められるからだろうか。
 トゥリッドゥ役のマルティン・イリエフさんは、アクの強い憎まれ役をイヤらしく演じていて、なかなか良かった。歌の方も芯の強いテノールで、力強く、憎々しげである。
 アルフィオ役のニコラ・ミハイロヴィッチさんは目つきのギョロッとした悪役っぽい雰囲気の人で、イタリア系のバリトンにピッタリの声質だが、もう少し声量があれば満点なのに、思った。

椅子の上で歌うのがトゥリッドゥ、左端はローラ(いずれも写真は出演者が違う/公演プログラムより)

 演出の方は、まず舞台装置が簡略すぎて、かなり安っぽい。これはちょっと興醒めであった。後半の『ジャンニ・スキッキ』が凝った装置を用意していたのに対して、残念である。そのためか、ステージがやけに広々としていて、登場人物が少ない場面では、閑散とした雰囲気になってしまう。復活祭の行列など大勢が登場し合唱がある場面などは、逆に取って付けたよう。どこか演出上の流れが良くないように思えた。
 歌手陣は奮闘しており、なかなか上手かったと思うし、有名な間奏曲も切なく美しく素敵だっただけに、演出がもう少し緻密にできていたら、素晴らしい上演になるのに、と残念に思えた次第。この1幕もののオペラは、お話しはあまり面白くないので、出演者の歌唱力と、ヴェリズモ・オペラらしいリアリズムを追求した演出が欲しいところである。

《ジャンニ・スキッキ》全1幕
作 曲: ジャコモ・プッチーニ
指 揮: ヴェリザル・ゲンチェフ
管弦楽: ソフィア国立歌劇場管弦楽団
演 出: ブラーメン・カルターロフ
美 術: ロベルタ・モノポリ
衣 装: スタンカ・ヴァウダ
照 明: アンドレイ・ハジニャク
助監督: ヴェラ・ペトローヴァ
舞台監督: ロシッツァ・コストーヴァ、ヴェラ・ベレーヴァ
【出演】
ジャンニ・スキッキ: ビセル・ゲオルギエフ(バリトン)
ラウレッタ: 小林沙羅(ソプラノ)
ツィータ: ルミャーナ・ペトロヴァ(メゾ・ソプラノ)
リヌッチョ: ダニエル・オストレツォフ(テノール)
ゲラルド: ニコライ・パヴロフ(テノール)
ネッラ: エレナ・ストヤノヴァ(ソプラノ)
ゲラネディーノ: アントニア・イヴァノーヴァ(ソプラノ)
ベット・ディ・シーニャ: ベタル・ブチコフ(バス)
シモーネ: スヴェトザル・ランゲロフ(バス)
マルコ: アントン・ラデフ(バリトン)
ラ・チェスカ: ブラゴヴェスタ・メッキ=ツヴェトコヴァ(メゾ・ソプラノ)
スピネルロッチョ: イリア・イリエフ(バス)
アマンティオ・ディ・ニコラーオ: アレクサンデル・ゲオルギエフ(バリトン)
ピネッリーノ: キリル・ストヤノフ(バス)
グッチョ: コンスタイティン・カランジュロフ(バリトン)

 1時間にも満たない1幕のオペラなのに、役名のある登場人物がやたら多いが、主な登場人物は、ジャンニ・スキッキとラウレッタ、リヌッチョの3名くらいで、その他の人物たちはほぼ同列に細かな役割と人格を持っているが、所詮、その他大勢なのである。これがプッチーニの憎いところで、上演に際してはけっこう難易度を上げているらしい。1時間に満たないとはいえ、これだけの人物がほぼ均等に休みなく喋り続ける(歌い続ける)。プッチーニの作品だから、ほとんど切れ目がなく、音楽が止まることはない。観ている方も誰が誰だか分からないうちに物語がどんどん進行してしまう。

左がリヌッチョ役のオストレツォフさん、中央がラウレッタ役の小林沙羅さん、右はジャンニ・スキッキだがこの写真とは出演者が違う

 さすがにタイトルロールのビセル・ゲオルギエフさんは、見た目の姿も歌唱力も十分で、存在感を発揮していた。押しの強いバリトンがよく通っている。リヌッチョ役のダニエル・オストレツォフさんは三枚目役だが、時折輝かしいテノールを聴かせたくれた。ただし見せ場が少ないので、実力の程は不明だ。

 さて、日本から参加しているラウレッタ役の小林沙羅さんは、今年2012年の2月にソフィア国立歌劇場に、この役で本格的な海外オペラ・デビューを飾った期待の新星である。日本では最近あちこちのコンサートに出演していてすっかりお馴染みだ。私は2010年の「ラ・フォル・ジュルネ」でリサイタルを聴いたことがあるくらいなので、今回のオペラを楽しみにしていた。
 本編の方では、大柄なブルガリア人歌手たちの間に入るといかにも小柄で可憐な少女に見え、また元気よくステージの上を走り回っていたので、若さ(というよりは子供っぽさ)が強調され、遺産の奪い合いをするというクセのある俗物たちの中で、ひときわ清涼感のある役どころを見事に演じていたといって良いだろう。劇中、唐突に始まるアリア「私のいとしいお父さん」も、娘らしいひたむきさが感じられる歌唱で可憐であった。ブルガリ歌人の歌手たちに比べて若干声量が足りないようにも思えたが、かわいいラウレッタが大声を張り上げて歌う必要もないだろう。
 この後の小林さんは、来月には大阪(12月5日/いずみホール)と東京(12月7日/紀尾井ホール)で本格リサイタル・デビューが予定されているし、来年の1月19日には東京交響楽団の定期公演でオペラ『万葉集』(東京オペラシティコンサートホール/演奏会形式)に出演する。オペラ界の期待の新星として、今後、目が離せなくなりそうだ。

 さて本プロダクションは演出がなかなか面白かった。演出のブラーメン・カルターロフさんは、1992年~2001年、ソフィア国立歌劇場の総裁を務めた人で、『カヴァレリア・ルスティカーナ』も手がけている。ブルガリアを代表する演出家らしい。本作では、時代背景を原作の中世から現代(20世紀の半ばくらいのイメージか)に置き換え、それに合わせてスピーディなステージ展開を行っている。大勢の登場人物が歌唱の合間を縫って目まぐるしく動き回り、最後までステージを活気で満たしていた。舞台装置も中央に2階建ての構造物があるだけなのだが、質感が高く、活用方法も見事だ。一級のドタバタ喜劇を観ているようで、きわめて楽しいステージだった。時代が中世のままではこうはいかなかっただろう。読み替えが的中した好例である。

 結局、今日のソフィア国立歌劇場の公演、『カヴァレリア・ルスティカーナ』と『ジャンニ・スキッキ』の2本立て公演は、『ジャンニ・スキッキ』で明るく楽しく締めくくったために、とても後味のスッキリした公演だったと言えよう。このような、ヨーロッパの地方都市の歌劇場の公演は、意外と楽しめるものだ。いわば旅の一座のようなもので、スター歌手や超絶技巧と登場しなくても、劇場付きのオーケストラと合唱団、ソリストの歌手たちの技術水準が同じくらいなので、息がピッタリと合っている。観光気分で手抜きをされない限り、けっこう上質で安心して楽しめるオペラを上演してくれる。また価格が手頃なのも良い。ウィーン国立歌劇場の1/4の値段で本格的な海外のオペラを鑑賞することができる。二期会の公演よりも安いくらいだ。もちろん公演の水準は二期会の方が上だが、毎回1から制作しなければならない二期会の緊張感のある舞台に対して、こちらは「日常」を感じさせられる地に根付いた安定感のあるオペラ。けっして高度ではないけれども、伝統ある文化を感じさせる、人肌のオペラだと思う。ウィーン国立歌劇場も世界一素晴らしいし、二期会も素晴らしい。ソフィア国立歌劇場も、やっぱり素晴らしいと思う。

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